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商社マンの営業として33年間(うち海外生活21年間)、国内外で様々な体験をした。更に、アイデアマラソンのノートには、思いつきを書き続けて27年間、読者の参考になるエピソードや体験がたくさんある。今まで3年半、ITmediaのビジネスコラム「樋口健夫の笑うアイデア動かす発想」で毎週コラムを書き続けてきたが、私の体験や発想をさらに広く提供することが読者の参考になるはずと思い、ブログを開設することにした。一読されれば「読むワクチン」として、効果があるだろう。

海外旅行・出張危険回避講座 (一読さえすればリスクは最小、そしてあなたは、海外旅行のプロ) その19 どこだどこだ症候群対策

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海外旅行・出張危険回避講座
(一読さえすればリスクは最小、そしてあなたは、海外旅行のプロ) その19     「どこだどこだ症候群対策」

 アフリカの某大都市に駐在していた時のことだ。夜中に電話で叩き起こされた。ホテルに泊まっている東京からの出張者だった。
「大変なことが起こった。悪いがすぐにホテルまで来て欲しい」と言う。
「何が起こったのですか」
「まあ、ホテルに来てくれ」と言うだけ。


 私は自分で運転して、ホテルまで出かけた。部屋に入ると、その出張者は、すごく怒っている。
「私のパスポートが紛失したんだ。犯人は多分、このホテルのハウスクリーニングのボーイだ。君と一緒に、今からマネージャーのところに行って、私の部屋を掃除したボーイの家まで行かなければならんよ。ひどいことだ。君ね。このホテルはとんでもないホテルだよ。いつもこんなホテルを予約しているのかね」
「そうです。このホテルは、最高級ではありませんが、まあまあです」
「何がまあまあだ。泥棒を飼っているようなホテルだよ。とにかく、マネージャーのところに文句を言うが、一緒に行って欲しい」
「ちょっと待ってください。十分に探されましたか?」
「何を言っているのかね。私は4回も荷物全部を調べたよ。どこにもなかった。私の調べたのを信じられないというのかね」
その出張者は、私より10歳は年長で、立派に上司だ。
「いいえ、マネージャーに行く前に、もう一度だけ探しませんか。一緒に。私は絶対にあると思うのです」
「何を言っている。何度探しても、無いものは無いよ。時間がどんどん経っていく。それが心配なんだ。とんでもないことだ」
「分かりました。とにかく調べてみましょう。このスーツケースから...」
「好きなように探してくれ」と完全にきれている。

 私はスーツケースの内容を全部取り出して、スーツケースそのものの隙間や、小さなポケットを調べた。内容品は、すべてベッドに並べて、一つずつ調べながら、スーツケースに戻し始めた。
 全部、スーツケースに戻して、パスポートは見つからなかった。今度は、同じことをボストンバッグで、調べ始めた。中のポケットも全部見た。無かった。
「何度探しても、無いものはないよ」
 引き出しにも、無かった。

 部屋のタンスを開けてみた。スーツやジャケットが掛かっていた。
「さて、服はここに掛けてある分ですね。今日、着ておられたのは?」
「それ、それだ」
「なるほど、このスーツケースには無いですね」
「パスポートを、今日は持ちだしていないんだ」
「じゃ、こちらのジャケットは?」と、私はカジュアルのジャケットを調べ始めた。胸のポケットに手を入れたら、いつもの感覚のパスポートが、そこに有った。

「ああっ、そこに有った。ああ、そうだ。ホテルにチェックインした後、両替に出かけたんだ。その時にそのジャケットを着ていったんだ。それを勘違いしていた。ああ、良かった。樋口君、見つけてくれて、本当にありがとう」
「......良かったですね。マネージャーのところに行かなくて良かったですよ。行ったら、マネージャーは、警察を呼んだでしょう。警察は、たぶん、再度、カバンの中も、ベッドの裏も全部調べ直すと思います。その間に、マネージャーは、タクシーでルームクリーニングのボーイを捜して連れてきたかもしれません。そこでパスポートが出てきたら、お詫びだけでは済みませんよ」
「......」

「今、この町のホテルは、全部、満員なんです。だから私がこのホテルを予約したときも、頼み込んで、頼み込んで、予約できたのです。もう当社の予約は受けてくれなくなるかもしれませんよ。誰だって、思い違いはありますから、私を呼んだのは、正解です。出てきて本当に良かった」
「樋口君、ありがとう、助かった」
 言いたいことは、山ほどあった。彼が自分でマネージャーのところに行かなくてよかった。特にボーイに侮蔑的な言動や犯人と決めつけて話したら、どんな処罰があるかわからなかった。

 

 大切なものを、どこに入れたかわからないことは、よくある。駅でも、いまはスイカだが、切符の時代に、切符を失くす(のではなく、どこに入れたか分からずに)、改札で、おろおろする人がよくいた。飛行機で言えば、ボーディングパスをどこに入れたか探している人がときどきいる。


 鍵、財布をどこに置いたか、めがねなども、「どこだ、どこだ」と探している。
 これらは、すべて「どこだどこだ症候群」にかかっているのだ。

 この症状が出る人の対処方法は、とにかく貴重品を同じところ、同じバッグの同じポケットに入れることに徹するだけだ。財布は取り出したら、同じところにしまうまで、その場所を動いてはいけない。
 タクシーは、手荷物を降りる側に置くこと。荷物を持って、降りないと、降りられないようにすることだ。列車では絶対に、網棚に荷物を置かない。私は新幹線は、中間より後ろの座席の(できれば)一番後ろの座席、少なくとも後ろから数列目の通路側に座る。余分な荷物は、一番後ろの座席の裏に一部でも見えるように置くことにしている。途中の停車駅では、荷物の無事を見ている。

 海外旅行に出かける直前に手荷物のバッグを突然変更するような場合が一番危ない。新しいハンドバッグや手鞄よりも、使い慣れた鞄を使う方がよい。 私はヨメサンと一緒に海外旅行するときには、お互いに出発準備完了後に、パスポートを見せ合うことにしている。

 

 長時間乗っている飛行機、14時間も乗った飛行機を降りるまえには、座席の下、前のポケット、上の棚の奥を直接覗くことが大切だ。小銭、手帳、ハンカチ、よく落としている。これは本当によくある。

 

 この話を、営業で訪問中の顧客のトップとソファーに座りながら、話していた。
「なにせ、男のポケットは、ものを落としやすいのです。飛行機はリクライニングになっていますから、パスポートやペンを落とすのですね。だから、座席のクッションの隙間も手を入れて...」と話しながら、そのお客の部屋のソファーの隙間になにげなく手を入れたら、金側の万年筆が出てきて、お客の偉いさんも驚いた。

 こう言っている私も、偉そうなことは言えない。数百回の出張で、一度、パスポートをホテルに忘れたことが1度ある。香港のホテルの部屋の金庫にパスポートと現金を全部置いたまま、空港に到着して気が付いて、あわててホテルまで取りにもどった。その時に私は、空港に1時間、早めに到着していたおかげで、助かった。一緒に出張していたお客は、絶対に時間内に空港に戻ってこれないと思っていたらしい。

ポイント
(1)空港に向かう時はパスポートを背広の胸内側ポケットに保つ。ホテルに到着したら、小さなポシェットに移して、金庫に入れる。
(2)ボーディングパスは、パスポートに挟んで、胸のポケットに入れる。ボーディングの際に、パスポートも提示するから。
(3)ふとっちょ財布は、ズボンの利き腕のポケット。英国、フランス、イタリア、スペインでは、その外に安全ピンでガードする
(4)空港に向かう時は、一人でも、二人でも、お互いにパスポートの所持を確認すること。

(5) 飛行機を降りる前の、座席のクッション、毛布の下、座席の下、前のポケットなどを直接見て、忘れものをチェックすること。タクシーも、列車も、バスも同じ。指差しで確認すること。

 

 

 

アイデアマラソン一口メモ
 アイデアマラソンでは、ノートを統一して、何でも一冊にまとめてしまうことを推奨している。それはノートを紛失する危険性を下げるためだ。28年前までは、仕事でもあちらこちらのノート、会社の手帳、予定表と分けていたが、ほとんど失くしている。1984年にノートを一本化して以来、403冊のノートは、奇跡的にも、一冊も失くしていない。

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