VOCALOIDが見せた夢
浜松市にいた。駅までやってきたものの、どこに何があるかもわからないので駅案内を見てみた。大きなデパートと本屋くらいはあるらしい。赤札堂とあるから、上野のABABの系列店なんだろう。とりあえず、本屋で暇つぶし用の新書か文庫本を探すことにした。
駅の構内を抜けて、本屋に行こうとすると、中学か高校の学生の団体とすれ違う。女子学生が多いが、男子もまじっている。なにか聞き覚えのある歌をうたっている。ハモリながら。
これはぼくの歌ではないか。
より正確には、初音ミクのために作ったオリジナルだ。ブログにもさらさずにこっそりあげたので、否定的なコメントもないかわりにあまり再生数もあがらず、たまにのぞきにいっても、「コメントは増えてない」と、ブラウザの×ボタンを押してタブを閉じるってのを繰り返していた。
その曲を、彼女たちがうたっている。しかもコーラスつきで。
いい歳のおっさんが声をかけていいものかどうか一瞬悩んだが、口をついて出てしまった。
「その曲、どこでみつけたの? ぼくが作ったものなんだけど」
主旋律をうたっていた、リーダーっぽい女の子が答えた。
「おねえちゃんが、これ聴いてみ、ってニコニコ動画のを教えてくれたの。合唱曲どれにしようか探してたんで、これにしようってみんなで決めて」
おねえちゃんのそのときのようすを真似てみているらしい。画面を指さすような仕草をした。
なんでVOCALOIDの曲を学生までが聴いてるんだろう。あれはもっと年齢が上の人たちのものかと思っていた。ぼくらみたいな、DTM第一世代から、いわゆるMIDI世代まで。
やはり浜松には楽器メーカーがあるから、音楽リテラシーが高いのかな、と思い、「ヤマハやローランドの工場があるところはやっぱり違うよね」と言ったら、不満げに反論がもどってきた。
「河合楽器だってありますよ」
そうかそうか、忘れて悪かった。ヤマハからのれん分けした会社だからね。親が河合に関連したところに勤めているのかもしれない。
せっかく自分の曲を学校で使おうとしている人がそこにいるのだから、これは取材して記事にしない手はない。
合唱部の顧問の先生に、取材することができないか、彼女をとおして頼んでもらうことにした。
まだ学校に残っていたらしく、合唱部の部室、つまり音楽室で、取材を受けてもらうことになった。
まず、先生や生徒の個人名を出していいかを確認しなければならない。それについては先生はOKだという。
「ただ……」と先生。
「著作権や、ソフトウェアの使用などが絡んでいるところでは、後々問題になる可能性もあるので、記事になる前に事前にチェックをさせていただきたいのです。うちの学校がそういうことをしているから、というわけではないのですが……」
先生も著作権に気をつかわなきゃいけないのか。だから生徒も著作権フリーな楽曲をコーラスに使おうと考えるのかもしれないな。
そう考えながら、「いや、ぜんぜん問題ないですよ。無理いってすみません」と答える。はやく伴奏付きのコーラスを聴きたいという気持ちを抑えながら。
このあたりで目が覚めた。分析すると、こんな感じだろうか。
・VOCALOIDの自作曲については、寝る前に、ニコニコ動画で自分の曲に好意的なコメントがついてたので気をよくして。「みんなのミクうた」タグがあったので合唱絡みになったとか。
・高校野球で「みくみく」が使われると予想していたわりに、そういう情報を見つけることができず、実際にセンバツをぜんぶ見る余裕もないので、学生と初音ミクの関係というのを結実させたかったとか。
・やっぱり好意的なコメントはほしいなあ、ということ。あと、コメントする人たちのプロフィールがわかるとうれしいなあ。
・浜松については、ヤマハのTENORI-ONのレビューができるかもしれないという情報を得たのが頭にあったのかもしれない。
・このあいだコルグに取材に行ったとき、「コルグ以外の電子楽器メーカーはみんな浜松にあるよなあ」と思ったこと。
・赤札堂については出典が不明。スーパーの名前もなんか出ていた気はするが、思い出せない。調べてみたら、メガネ赤札堂というのが実際にあった。
※以上、2008年04月19日のmixi日記から転載。TwitterのTLで浜松の話が出るので、ふと思い出したので。