離陸する電子書籍ビジネス(3):アマゾンへのソニー、グーグル、アップルの対抗軸
第一回では、米国での成長する電子書籍市場とアマゾンのキンドルの存在、そして第二回ではCESで展示をしていた今後登場し、ライバルとなる可能性のある電子書籍リーダーのことについて整理をしてきました。そして、最も気になる存在は、ソニー、グーグル、そしてアップルです。
米市場で約65%と圧倒的に優位な立場にあるアマゾン「キンドル」を追い上げる最右翼は、約30%のシェアをもつソニーでしょう。ソニーは、昨年末に最上位機種の「Daily Edition」を米国で販売し、現在米国とカナダのほか、英国、フランスなど欧州六ヶ国で事業を展開しています。ソニーは米メディア大手のニューズ・コーポレーションとの提携によって、ウォールストリート・ジャーナルの記事を読むことができるなどビジネス利用への展開もはかっています。
ソニーは、現在の約30%のシェアから2012年に全世界の世界市場でシェア40%を目指しており、目標が達成されることになれば、アマゾン「キンドル」にとっては脅威にうつるでしょう。
ソニーがシェア拡大に強気となっている背景には、グーグルとの提携があります。グーグルは、2004年12月から書籍の全文検索ができる「Google Book Search」を開始し、著作権保護期間が満了した出版物や、出版社から提供された書籍の電子化を進め、巨大な書籍のデータベースを構築しています。さらには、2010年の春には、米国や英国などで「Google Edition」という電子書籍を有料で販売するサービスを予定しています。日本でも2010年の秋に始めると発表しています。グーグルから無料提供される100万冊をあわせるとソニーの電子書籍リーダーで読める書籍数は百数十万冊に上り、書籍のコンテンツ数は非常に充実していると言えるでしょう。
グーグルは、大量の電子書籍コンテンツを武器に市場への影響度を強めてきています。そして、「Android」の存在です。バーンズ・アンド・ノーブルは、グーグルの「Android」を搭載した「ヌック」を販売し、予想をはるかに上回る売れ行きで、注文待ちが続いています。グーグルはAndroidのOSを搭載したスマートフォン「Nexus One」をグーグルブランドで発売したように、電子書籍市場向けのリーダーをグーグルブランドで投入してくる可能性も十分に考えられるでしょう。
ソニーと、バーンズ・アンド・ノーブルは両社ともに、グーグルが採用している汎用フォーマットの「ePub」に対応しています。アマゾンは独自のフォーマットの「AWS」を採用しており、アマゾンへの対抗軸が顕著となっています。
そして、今後の動向が注目されているのがアップルです。アップルは、3月にもタブレッド型のデバイスが出荷されるとうわさされています。10~11インチのタッチスクリーンで、電子書籍の閲覧のほかに、映画やテレビ番組の視聴やゲームやネットもできるなど、多機能端末になる模様です。
アマゾンやソニーの電子書籍リーダーが先行しているにも関わらず、アップルの端末の動向が注目されるのは、アップルはこれまでiPod向けの「iTunes Store」やiPhone用のアプリケーションを販売する「App Store」などを提供し、垂直統合型のモデルで成功してきているからです。iPhoneでは、バーンズ・アンド・ノーブルやアマゾンの「kindle for iPhone」といったように、iPhone向けのリーダアプリを無料で「App Store」からダウンロードし、利用することができます。アップルの優れたインターフェイスを持つ電子書籍リーダーが登場すれば、電子書籍ビジネスの市場はさらに拍車がかかるのではないでしょうか。
アップルは、これらノウハウを武器に、アマゾンよりも出版社に対し好条件を提示しているとも言われており、電子書籍ビジネスをターゲットとしたリーダが発売されれば、勢力地図を大きく変える可能性を秘めているでしょう。
世界市場では、電子書籍リーダーを軸に様々な市場が拡大しています。一方、懸念されるのが、電子書籍のガラパゴス化が懸念されている日本の市場です。しかしながら、少しづつ電子書籍ビジネスを出版業界全体で盛り上げる動きも出つつあります。次回は、日本の電子書籍市場に少しスポットをあててみたいと思います。
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