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テレビのデジタル化がドライビングフォースとなり、全ての情報メディアが一旦、収縮する時代の羅針盤

アマゾンが欧州で開始する電子書籍貸し本サービスに見る、スマート革命が促進する「プロシューマーの育成」

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<序文>

 欧州で間もなく開始されるアマゾンの電子書籍貸し本サービスですが、アマゾンは本格的に出版社をスキップし、出版社を通さない独立系の作家を養成するつもりです。またフランクフルトのブックフェアー2012でも電子書籍のセルフ出版は、中心テーマの一つです。

 

そもそも電子書籍貸し本サービスは、米国において六大出版社から全て参加を拒否された経緯があります。従ってアマゾンは既存の作家を高い手数料で誘うか、インディーズ系の作家を自ら養成するしかありませんでした。

 

ライバルの楽天コボは2012年の米国書籍EXPOにおいて出版社を通さない自己出版の割合が7%と大手出版社並みに増えていると説明しています。

 

元来、アプリ開発は草の根要素の強い生活者や個人事業主などによって始められていますが、映像ビジネスに於いてもネットフリックスやグーグル、Hulu、アマゾンなどが独自番組の開発にのりだすなど、新聞のフリージャーナリストや音楽のインディーズの動きも含めて「プロシューマー(生産型消費者)」の活躍の領域とそれを支えるエコシステム(生態系)が次第に広がっています。電子書籍の貸し本サービスに見るまでも無く、スマート革命の進展がそれを後押ししています。正に工業化社会から「プロシューマー(生産型消費者)」主体の自律型知識社会への移行が始まっています。

 

尚、電力の大量生産の終焉を意味するスマートグリッドにおいても家庭による電気の自給自足のエネルギー生産を奨励している訳(余ったら売り、足りないと買う)ですから、明らかに「プロシューマー(生産型消費者)」育成の方向です。スマート革命は「プロシューマー(生産型消費者)」を育成します。

 

★★ Amazon Releases Kindle’s Lending Library In UK, Germany, France With 200,000 Books, Increases KDP Royalty Fund

★★ Frankfurt Book Fair 2012: Self-publishing, cell phones and startups

 

全欧州から20万社の書店、出版社が集合したフランクフルトのブックフェア2012

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<出所:ペイドコンテント>

 

<アマゾンの貸し本サービスとプロシューマー育成>

 

元々アマゾンは電子書籍において作家との直接契約を追求し、約70%の売り上げを還元することにより一冊2ドル、50ページ程度のイ―シングルを成功させていました。今回の欧州での試みは平均77%の売り上げを作家の取り分とすると共にKindle Direct Publishing programと呼ばれる直接契約をどんどん拡大します。その為に20万ドルから70万ドルの追加の予算を計上しています。この予算から電子書籍貸し本サービスにおいて借り手(アマゾンの会員がキンドルで読む場合、月次で一冊が無料)が現れれば、一冊当たり平均2.29ドルを(素人)作家に支払います。こうして半分素人の作家の活躍する条件が整い始めています。

 

<既存勢力の拒否が広げるプロシューマー育成のチャンス>

 

そういえばグーグルテレビも2010年、大手の地上波にことごとく拒否されましたが、YouTubeは独自番組やマドンナなどを含む直接取引を活発にしています。(これは広い意味でのプロシューマー育成に繋がります。)ネット独自番組はマスメディアの番組に比較して開発費が一ケタも二ケタも低いので通常、シナリオの面白さだけで勝負し、タレントは半分素人=インディーズを活用します。こうして昼間は別に仕事を持ちながらメディアの領域に関わる人々のすそ野が広がり始めました。

 

アプリ開発の件もネイテイブ・アプリとHTML5の対立が技術論だけで論じられています。しかし嘗てネイティブアプリ台頭の後ろにはアップルの社内を二分した、アプリを開発してiPhoneをハッキングし始めたプロシューマー(生産消費者)の評価に対する大論争がありました。

 

スマート革命は大量生産や大量消費時代終焉後の新しい個人コンピューティングの形と新しいビジネスモデルを生み出します。その中でアルビン・トフラーが予言した脱規格化、脱専門化のプロシューマーが育成される環境が整いつつあります。スマート革命時代には益々そのトレンドが鮮明化しています。インターネットが作りだす新しい社会、新しい感覚を持った生活者=プロシューマーの出現と言うメディア論の本質を再度、理解しましょう。

 


 

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