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テレビのデジタル化がドライビングフォースとなり、全ての情報メディアが一旦、収縮する時代の羅針盤

「ITCもの作り」の本質は「サービス支配論理とエコシステムの構築」

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<序論>

2012年春から出版デジタル機構の立ち上げなど電子書籍(アマゾンのキンドルファイアーや楽天のコボ)の本格商戦の開始、ジャスラックと妥協したアップルのiCloudによる音楽サービス開始、NOTTVやもっとTVによるスマートテレビの開始、東京スカイツリーの稼働と明らかに日本は本格的なスマート機器革命の時代に入ろうとしています。

 

国内の情報消費財産業(書籍、音楽、映画やテレビ、ゲーム)はデジタル化、電子化の波に怯えながらもそれに対応する姿勢が見えます。

 

一方家電など機器メーカーは戦う前から「スマート敗戦」と言った状況です。

ソニー、パナソニック、シャープの大幅赤字予想と社長交代、任天堂の赤字予想、NECのリストラなどがそれを象徴しています。

問題はスマート機器(スマートフォン、スマートテレビ、ゲーム機)と言った最先端分野での負け戦であり、米韓メーカーの後塵を拝している点でしょう。

 

筆者は情報消費財産業を翻弄し、機器メーカーにスマート敗戦をもたらした主因は6重苦などの単なる現象的な経済要因を除けば「もの支配論理からサービス支配論理」への全産業的転換の失敗であると考えています。別の表現をすれば「ものつくりからICTもの作りへの転換の失敗」と言う事でしょう。

 

家電版「覇者の驕り」――名門家電メーカーは垂直統合モデルから脱却できるか

 

Amazon vs. Apple: Competing Ecosystem Strategies

 

Competing with Apple: 'Great products may not even be necessary'

 

<サービス支配論理とエコシステム>

 ハーバードビジネスレビューの3月号にはダートマス大学のドン・アドナー教授は「現代は機器の後ろにあるエコシステムの構築が重要であって、偉大な製品すら要らない時代」と指摘しています。そしてアップルの機器とプライベートブランドとも言うべきキンドルファイアーを作ったアマゾンの時代であると指摘して、サムスン、東芝、モトローラ、HP、リム、HTCなどが対応できない世界であるとその差を説いています。

具体的にはアップルのアプリ開発者コミュニティ、iCloudやiTunesストア、それと一体化した様々なアップルの機器(iPhoneiPadiPod、アップルテレビ、マック)の組み合わせと言う事なんでしょう。

そしてそれに対抗しているのはキンドルファイアーを作った唯一アマゾンだと述べています。

 

「アマゾンのキンドルファイアーはカメラも無く、メモリーも少ない全く偉大で無い製品だが良く売れている。それはアマゾンのエコシステムのお陰だ」と言う主張です。そして偉大なエコシステムの前にはアップルのような偉大な製品すら不必要かもしらないと述べています。この指摘は面白いですね。

 ダートマス大学のドン・アドナー教授に偉大な製品ですらないと言われたキンドルとiPad

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<出所:フォーチュン誌>

 

<サービス支配論理の具現化はオープンとクローズのバランス>

 サービス支配論理の時代には「何時でも、何処でも機器に関わらず」情報消費財がサービスとして提供されます。典型的にはハリウッドの「ウルトラバイオレット」のように家族6人が一生涯、ドラマや映画をクラウドから視聴できると言うサービスですね。

 

しかしウルトラバイオレットは、当初3カ月でわずか百万人しか登録していません。理由は別々のアカウントを6個も作らなければならず使い勝手が悪い為です。このような業界標準のオープンシステムの限界は、昔音楽業界で同じ事が起こりました。(詳細はスチーブ・ジョブス氏の伝記参照、ウオルターアイサックソン著)この時はiPod及び音楽業界を説得し、iTunesストアを立ち上げたアップルが勝ちました。

 

筆者は結局、オープン(部品のモジュール化)とクローズ(閉鎖的な統合システム)によりエレガントな仕組みを作り上げたアップルが映像の販売、スマートテレビの世界でも勝つ可能性が高いと見ています。

 

一方オープン重視のグーグルはグーグルプイで苦しんでいます。音楽はiCliud参加者1億人に対してグーグルプレイは4百万人であり、音楽の映像販売市場はアップルが60%以上、映像販売もアップルが50%、そして電子書籍はアマゾンが50%程度、アップルが5%程度であり、明らかにグーグルは負け組です。アンドロイドOSのスマートフォン、YouTubeなどの強みを生かせてない訳ですね。その結果、グーグルはモトローラを買収し、自社の機器と仕組み=エコシステムを作ろうとしていると言う見方があります。

 

音楽のiPodしかり、電子書籍においてはアマゾンのキンドルファイアーしかり、結局、独自の機器+独自のエコシステムをオープン調達と閉鎖系のバランスを取ってエレガントに作り上げた方が全てオープン派よりも強いようです。

 

<日本の総合電機メーカーには無理だろう>

 

 そう言った点を国内の家電メーカーや任天堂、NECなどは十分理解していないと思われます。例え理解していてもアップルのようなエレガントなエコシステムの仕組みを作れるのでしょうか?縦割りの克服は容易ではありません。

これから国内の情報消費財産業はスマート革命=スマート化の波に翻弄されますが、主役はアップル、アマゾン、楽天が買収したコボなどの海外勢によるさながらウインブルドン現象(英国は場所を貸すだけで、活躍は外国勢、大相撲現象とも言う)が見られるかもしれません。

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