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テレビのデジタル化がドライビングフォースとなり、全ての情報メディアが一旦、収縮する時代の羅針盤

「一画面か二画面か」複数の技術方式が混在する「スマートテレビのカンブリア爆発」の混沌

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<序文>

 2011年初の米国家電見本市(CES2011)以来、スマートテレビと呼ばれるインターネット接続型テレビの行方が混沌としています。これまで主流と考えられていた映像とテレビアップスをテレビ画面上に集中する「一画面集中方式」に対して、テレビメーカーにおける「エアープレー」の流行により、映像とテレビアップスを複数の画面に分散配置する「二画面分散方式」が勢いを得始めたからです。また台頭する汎用セットトップボックスの議論の中でスマートテレビは専用ゲーム機を飲み込む動きも始まっており、その間に膨大な折衷派の提案があります。さながら古代の海に突然、色々な種類の多彩な生物が登場した「カンブリア爆発」とよばれる混沌とした状況を示し始めています。

 

 注) 約5億4千年前、古代のカンブリア紀に突然、三葉虫など色々な形態の生物が出現した。これは学問的にカンブリア爆発と呼ばれている。最新の研究では「眼の発達」が原因と言われている。

 

★★Interactive TV has finally happened — just not on TVs

http://venturebeat.com/2011/02/18/interactive-tv-has-finally-happened-just-not-on-tvs/

 

★★ パナソニックの提案、テレビとタブレットの連携で、新しい視聴スタイルを提案

http://www.socialnetworking.jp/archives/2011/01/post_1880.html

★★見逃し放送を無料でテレビ視聴するスナップステイックの見事な技!!

http://www.socialnetworking.jp/archives/2010/12/post_1846.html

(スマートフォンでインターネット動画を検索し、リンクアドレスのみをデジタルテレビに

引き渡す、新しいタイプの二画面方式スマートテレビ、スナップステイックの提案)
 

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  (出所:スナップステイック)
 

<テレビアップスと映像の配置デバイスの行方>

 

1)使い勝手が良くない「一画面集中方式」

 これまでスマートテレビはグーグルテレビやヤフーコネクトテレビなどの「一画面方式」が主流と見られてきました。この方式は映像とテレビアップスをテレビ画面上に混在して集中表示するため「一画面方式」と呼ばれてきました。例えばグーグルテレビの場合にはテレビの画面上で直接、映像検索を実施する仕組みを持つなど「一画面方式」の典型例でした。

 

しかしグーグルテレビは米国地上波の激しい抵抗出会い、一方ヤフーコネクトテレビなどは「予想したほどテレビアップスが活用されていない。」などのレポートが出ています。(フォレスターリサーチ、メディアビースト)

例えばメディアビーストのレポートではヤフーコネクトテレビが伸びない点に関して以下の理由を挙げています。

  家族で視聴している場合、特定のアップスで画面を汚すことにコンセンサスが取りにくい。家族の一部が反対しがちである。

 テレビアップスの操作性が簡単ではない。

 

確かにこの使い勝手の問題は、ソーシャルテレビの研究の中で2010年にMITが「二画面方式支持」のレポートを出して以来、スマートテレビの世界では姦しく議論されてきました。それに一画面方式ではグーグルテレビのようにテレビ画面を地上波の占有物と考える地上波の協力が得にくい、またフランスのように地上波の管理要求が予想以上に厳しいと言う状況もあります。(特に日本でも放送局がスマートテレビに大して全般的な非協力姿勢を崩さないとも言われ始めています。理由は見逃し放送が流行ると電波での放送から視聴者が離れると言う幼稚な内容ですが。)

 

但し、スポーツ中継などでの選手プロフィール紹介や戦績、現在の順位、気温や風向きなどの天候、裏話紹介などは「一画面方式」もニーズがあると思われます。

 

その結果、今後は「紅白ツイッター」のような多くの文字入力を必要とする会話などのアップスや操作性の複雑なアップスはリモコンを兼ねたモバイル機器などのセカンドスクリーン主体に活用されると言う見方も強いです。

 

2)「二画面分散方式」に突き進むアップルとABC放送

 一方アップルテレビは「映像の配信」目的以外のテレビアップスは、現在の処搭載していません。そしてスチーブ・ジョブス氏が役員を勤めるディズニーのABC放送の「アカデミー賞授賞式番組」(2011227日)のテレビアップスに典型的に見られるようにiPhoneiPadなどと組み合わせた「二画面方式」を採用しています。これは複雑な操作性が多少必要な高度なテレビアップスをiPhoneiPad(そしてアンドロイド機器)側に配置してデジタルテレビを見る方式です。(アップルテレビは必ずしも必要ない。)番組放送前、放送中、放送終了後と内容が変化するこのアップスは番組放映中には9画面の中から見たいシーンを選ぶことも出来ます。iTunesストアから一ドルで販売されているこのアップスによりABC放送はインターネットを番組単位で有料販売している感覚のようです。

アップルテレビは2010年よりiPhoneiPadなど自宅内で複数のアップル機器とアップルテレビの間で映像をやり取りできる「エアープレー」を開始しました。このアップルテレビの「二画面方式」や「複数画面方式」は、2011年初の米国家電見本市(CES2011)でグーグルテレビを発表した米国ビジオやその他にもボクシー、パナソニックなどが追随し、それぞれ独自の「エアープレー」+「二画面方式」を発表しテレビメーカーの間で流行し始めています。「エアープレー」+「二画面方式」はサムソンも活用しているヤフーコネクトテレビやベライゾンなどの有料テレビにも波及し始めています。

 

★★オスカー受賞式典に見るABC放送のモバイルテレビ戦略

http://www.socialnetworking.jp/archives/2011/02/post_2003.html

 

3)「二画面方式」に加えてロケーションフリーに突き進むスマートテレビ

 

 そしてこの「二画面方式」はエアープレーと連動して「ロケーションフリー」の方向に進み始めています。米国製のロケーションフリー実現機器の「slingbox」は日本でも代理店が販売していますが、米国のAT&Tやベライゾンは本格サービスを開始しています。日本で「まねきテレビ」などのサービスが公衆送信に当たると最高裁で著作権違反に問われ、知財高裁に差し戻されたのと対照的な方向で動いています。技術革新により事態は混沌として流動的であり、いずれ外圧により「ロケフリ」はサービスとしても日本で解禁になるかもしれません。(大人気だったソニーのロケフリビデオルーターがテレビ業界からの間接的な圧力により、生産中止に追い込まれた過去を思い出してください。)

 

<テレビアップスの分散配置>

 ではちょっとテレビアップスの分散配置についての動向を見てみましょう。

 

1) 主にモバイル機器側に配置されるアップス

ツイッターやフェースブック、ドラマの出演者のプロフィール検索や投票、ボクシングの視聴者採点、クイズやトリビアなどの「複雑な操作を必要とするテレビアップス」はリモコン操作を兼ねたモバイル機器側に主に配置されると考えられます。実際米国の地上波の動きはこの方向です。番組連動型アップスの多くは初期にはモバイル機器上に展開されるでしょう。天気予報や株価、地図などもこちらでしょう。

 

2) スマートテレビ本体に適したアプリケーション

ではスマートテレビ本体に適したアプリケーションには何があるのでしょうか。

幾つか挙げてみましょう。

  映画のネットフリックスや見逃し放送のHuluなどの映像配信アップス

 アップルテレビは映像配信アップスを搭載しています。電子番組表はテレビとモバイル機器の両者に配置されるでしょう。

 

しかし新しい動きでは映像配信アップスもリモコンを兼ねたモバイル機器側で視聴動画の選定が行われ、リンクアドレスなどを受けてテレビ側のアップスが反応する方式が台頭し始めています。

  ゲームアップス

 アップルテレビで囁かれているのは早晩、マイクロソフトのXboxやソニーのプレーステーション3に対抗してアップルテレビがジェスチャー入力も含めた専用ゲームアップスを搭載するだろうと言う見方です。現にパナソニックはスマートテレビのビエラコネクト用に専用ゲーム機のパドルを同梱しています。

 プライベートな写真、動画、テレビ電話用アップス

家族が皆で楽しめるサービスとなればプライベートな写真や動画、テレビ電話などでしょう。これは家庭の居間に鎮座したシアターの大きな画面で家族が一緒に見る価値があります。明らかにパソコンなどに比べてテレビで見る意味があります。

 動画に対する情報処理アップス

 

これはスマートテレビを最も推奨しているインテルがイメージしている内容ですが、ある意味で拡張現実(AR)と殆ど同じ内容をテレビ画面で実現するアプローチです。テレビの動画に情報処理をかけてオブジェクトを認識し、追加情報をオーバーレイ表示するアプローチですね。

 

例えばサッカーのゴールのシーンや水泳のゴールの瞬間、画面上に星を一杯飛ばしたり、XXX選手オメデトウメッセージを表示するテレビアップスです。既に水泳ではゴールの瞬間、放送局側でテレビ映像にAR処理を行い13位の表示をしています。今後はこの手の表示を視聴者側のテレビアップスで追加的に行う時代が来るでしょう。

 

ドラマの中の音楽を認識して名前を教えてくれたり、即、購買できるアップスや主役の衣装を認識して自分の電子マネキン(アバター)を表示して着せ替えをするようなアップスなどがテレビアップルとして考えられます。

 

<最後に>

既にパナソニックやロクなどのスマートテレビにはユーストリームのテレビアップスも搭載されており、2011年のオバマ大統領の一般教書演説はYouTubeによりスマートテレビで視聴されています。また米国最大のスポーツの祭典であるスーパーボウルも、サムソンのスマートテレビ上ではツイッターを見ながら多くの視聴者が観戦していました。

 

しかし技術進化は更に早く、スマートテレビはタブレットやスマートフォン、パソコンなどとのエアープレー連携をする時代が来ています。その結果、映像の分散視聴や分散配置、アップスの分散配置と複数アップスの組み合わせの時代がやって来ようとしています。映画を自動車の後部座席で半分見て、残りを自宅のスマートテレビで見る時代から旅行先や海外でテレビのライブ放送を見る時代が本格的にやってきます。複数の技術方式が混在する「スマートテレビのカンブリア爆発」はまだまだ続くでしょう。

 

日本も2011724日の地デジ以降、一体何が起こるか全く判らない時代になってきました。

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