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どうしたらネットで力づけられたり、助けられたりするのでしょう?コミュニケーションを観察します。

No.5 匿名の強さとリンク範囲

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前回はリンク可能(不能)性という匿名性の要素をご紹介しました。このリンク可能(不能)性"(Un)-Linkability"は、匿名性の強さを決める重要な要素です。今回は少し詳しく。

オンラインコミュニケーション研究では、1990年代当初は「インターネットは人間のつながりを希薄にするのではないか?」と考えられていました。相手の顔が見えない(視覚的匿名性)上に、相手の本名も時にはわからない(匿名)な状態という前提つきです。しかし、Waltherという研究者は、オンラインで知り合った人たちが、出会ったことがなくとも親密な関係を作り上げる現象を見て、「匿名であってもコミュニケーションの蓄積によって信頼が醸成される」と述べています。これは、言い換えれば、ニックネームであっても、発言の履歴や本人が発信する情報がリンクされ、蓄積されることによって信頼が醸成されたと解釈できるでしょう。

ご経験のある方も多いと思います。決まったニックネームで掲示板やブログに書き込む場合と、「通りすがり」などの名前で書きこむ場合の違い。これは、そのニックネームにリンクされ、蓄積される情報量の違いです。本名が推定されやすいニックネームなら、本名に付随する情報もリンクされるために匿名性は弱くなりますし、本名がわかりづらいニックネームなら、切り離されるために匿名性は強くなるでしょう。

私も、akoというニックネーム(メールアドレスの左側)でコメントを書くときは、これは匿名性が弱いことを自覚していますし、逆に文脈を切り離したいときには、まったく関係のないニックネームを使っています。表にしてみました。
Exam

「折田明子」で書いているときは(このブログもですね)、私の所属組織、その他の情報が関連付けられるために、匿名性は弱く・・いや、匿名性は無いと言えるかもしれません。「ako」と書くときには、私のメールアドレスがakoと知っている人にとっては、私に関する情報が関連付けられますが、区別がつかなかったり、私と結びつかない場合には、少し匿名性が発生します。「(架空の名前)」を使うならば、akoとすら結び付けられないので、私の所属組織などの情報は秘匿されます。それでも、いろいろな場所で常連として書き込みを続けていれば、その名前に関連付けられる情報や投稿は蓄積しますし、人間関係を築くこともできるでしょう。一つの話題の中でのみ使うニックネームもあります。おやつの話を掲示板でしているときに「チョコ大好き30代」と名乗って、発言の一貫性は保つけれど、他の場所では使わないという形で匿名性を高めることも可能です。ここまでのニックネームは、複数の投稿が同一人物と判定できるリンク可能性を満たしていますが、「通りすがり」は同一人物かどうか判定できないので、リンク不能性を満たす、匿名性の強い状態です。

匿名性の強弱は、こうして名前を選択することでも調整できます。匿名性のメリットとデメリットを判断して、使い分けて行く際の参考になれば幸いです。

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