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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

医療コント。

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2008年3月22日。口腔外科で手術を受けた。30分もかかった。術後、病院のベッドで1時間横になり、腫れ上がった顔に医療用のグリーンのマスクをかけて帰宅した。

翌週から研修の仕事が入っていたが、食べるもままならず、しゃべるなんてとてもじゃなくてできない。口が痛くて開かない。しばらく会社を休ませてもらった。

さて、何だったのか。

その年の正月明けに唇の裏に出来た口内炎。口内炎の薬でまったく改善せず、口腔外科に行くと、
「あ、これ、口内炎じゃなくて、粘液のう胞ですね。手術ですね」とあっさりと。

当初、「5ミリくらいでしょうから、電気メスでぽろっととっちゃって、ま、5分くらいかな」というお話。

しかし、メスで切り始めたら、そののう胞が横に伸びており、結局、切除するまでに30分、取り出したるのう胞(良性腫瘍ですな)は3センチの毛虫みたいなものであった。おお、唇の裏にこんなもんが潜んでおったか。そうか。

傷口は3センチ以上におよび、医師の方針で、縫合せず、放置。そのうちだんだんくっついてきますから、と。

とまあ、知る人は知る、この「粘液のう胞」の手術後、もう3年も後遺症をかかえている。唇の一部がマヒしているのである。唇の裏側が本人にしかわからない程度にひきつれているのである。この後遺症のために、1.5か月ほどの頻度で口腔外科に通っている。神経の再生というのは、特効薬はないそうで、ただひたすらビタミンB12を呑み続けるというのんびりした治療が続いている。

昨日(8/5)もその予後チェックの日であった。

こちらとしては、「症状固定」で「もうあきらめてください。ここまで回復すれば御の字です。粘液のう胞としては大きな手術だったのですから」と言われ、無罪?放免されても全然かまわないのだが、なぜか主治医があきらめない。

「田中さんはまだ若いですし、何年かかってでもだんだんと神経が全部戻ってきますよ」などとおっしゃる(そう、病院に行くと、私の年齢でも”まだ若い”なのだ。エヘン!)

「先生、だけれども、この1年、ほとんど様子変わらないですよ。もうあきらめてもいいんですけど。多少のしびれとマヒくらい」と私はのんびり応じる。

ここからがこの医師との会話のオモシロいところである。

以下、順不同に。

「田中さんののう胞は大きかったから、あの時切除していなければ、もっと大きくなって、その後手術となったら、唇まで切り取ることになって、形成手術をする、という可能性もあったので、今、外見上何もないわけだから、よかったよかった」

「そういえば、5年くらい前に主要切除で顎の骨まで削り、骨の移植までしたケースがあるけれど、この方もほぼ完治してきた。口の動きも元に戻ってきたんで、それと比べたら軽い方だから、田中さんも大丈夫」

・・・・ここまでが、「あなたより、もっと症状が重かった患者がいる」という例示。相対的に安心させる話法だと思われる。

「神経はねぇ、やっぱり、顔の筋肉を動かすことも大事なんで、それで血流もよくなるでしょう?だから、表情筋をどんどん動かす。カップで呑むより、ペットボトルで吸う。ストローで吸うのもいいですね。ほら、これ吸ってみて」といって、医療器具の棒を差し出され、吸わされる。

「ほら、ちゅうちゅう数と、顔の表情筋をたくさん使うでしょ?これがいいんですよ」(←いい歳して、歯科の椅子の上でちゅうちゅうさせられている私って…!?)

「顔の表情筋、いろいろ動かしてみて。ほら」

・・・百面相してみる。椅子の上であおむけになって顔を動かしまくる。 田中宥久子か?(←わかります?)

さらに、

「そうだ!田中さん。枝豆。枝豆ありますよね。それにビール! 枝豆はビタミンBが豊富。ビールはアルコールだから、血流をよくするんですよ。枝豆とビールね。それもいいですね」(お、お酒呑んでいいのか、しかも、治療の一環で!)

「枝豆とビール同時がいいんですよ」
「先生、ワインはどうなんですか?」(← 何を真剣に訊いているんだ、私。)
「ワインはねぇ、アルコールですから、いいですね。ワインと枝豆はちょっと変ですね」
「じゃ、豚肉なんかは?」(← ホントに何を尋ねているんだ、私は。)
「そうだね、豚肉もビタミンBはあるから、ワインだったら、豚肉ですね」

・・・なるほどぉ。

治療用のブルーの前掛けをしながら、棒をちゅうちゅう吸わされ、顔面の筋肉を動かす運動をひとしきりやってみて、最後は、「ビールと枝豆」「ワインと豚肉」というアドバイスを受け、うがいをして、治療はおしまい。

30分近く話していた。

3分診療と言われるこのご時世。お話しするだけで30分。ありがたや。

この主治医は、たぶん、とても誠実な方なのだろう。
私の後遺症が完治するとたぶん、信じている。

だから、痺れと麻痺は、時間がかかったとしても治るはず、消えるはずと。

一生懸命さが伝わるから、笑ってしまうけれど、こちらも真面目にやってしまうわけだ。

。。。。。


ある日、次回の診察の予約TELをかけたときのこと。

電話に出た外来の看護師さんに「田中さん、今回はなんですか?」と言われた。担当看護師ではないので、予後のためだけに通っていることを知らなくてそう問われたらしい。

私はしばらく考え、「ええと・・・・先生と・・・雑談?」と答えたならば、電話の向こうで看護師さんは「くすっ」と笑い、「あ、ゴメンナサイ、つい笑っちゃって」と言った。

あ、先生は、私とだけでなく、どの患者とも面白トークを繰り広げているんだ。一生懸命治そうとして。


しっかし、あれですな。

ビールと枝豆。ワインと豚肉。を口にしていたら、「リハビリ治療の一環」だということで見逃してください。


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ちなみに、「粘液のう胞」は、小学生くらいに多いものらしいです。

良性腫瘍。レーザメスで取る。ふつうは5ミリくらい。大きくて1センチ。
私のように3センチもあったのは、珍しいケースらしい。


最初、「口内炎」だと思いました。


侮ってはいけませぬ。

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