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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

なぜお父さんは正しい「ネギ」を買えないのか?

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ほとんど家事をしないお父さん、お母さんに「今日はすき焼きにするから、帰りにネギ買ってきて」と言われ、「よし、きた!任せとけ!」と答えました。

駅前のスーパーに立ち寄り、「ネギ」を探します。

「えっ!?」

ネギ、こんなにたくさんあるの?え、どれを買えばいいの?値段もまちまちだし、でも、相場がわからないし・・・。

「ええい!これでいいか!」と買って意気揚々と帰宅。

「ネギ、買ってきたぞー。ほら」
「ありがとう、お父さん・・・。え?何、これ!?」
「何、これ?ってネギだよ」
「なんで、こんなもん買ってくるの。すき焼きって言ったでしょ?」
「だから、ネギ買ってきただろ」
「もーーーーーーー、お父さんったら、ネギもちゃんも買えないんだからっ!(怒)」
「なんだよ、せっかく買ってきたのに。それだったら、もう、買い物なんかしない(怒)」

・・・・

お父さんは、「万能ネギ」を買ってきてしまったのでした。薬味にするヤツね。

お母さんは、いつも料理をしています。すき焼きのネギと言えば、「長ネギ」のこと、と頭にイメージがあります。さらに、スーパーの入って右側の果物売り場が終わったあたりに野菜コーナーがあって、一束3本くらい入っていて178円くらいだったら、ま、いいか、なんてこともお母さんのデータベースには登録されています。

だから、「すき焼き用のネギ」といえば、唯一無二のネギしかないわけです。

ところが、お父さんは、「ネギ」を「買う」という行為自体に慣れていません。日頃から「ネギ」のことを深く考えて生きているわけではないので、スーパーに「ネギ」と「ネギらしきもの」があれほど大量にあるとは知りませんでした。

野菜売り場をうろつくと、「ネギ周辺」の物体が大量にあります。

「長ネギ」
「わけぎ」
「万能ネギ」
「エシャロット」
「玉ネギ」
・・・

「長ネギ」だって、「高級ネギ」もあって、1束500円くらいするものを売っていたり。

「ぎょぎょっ。この大量の”ネギ”からどれを買えばいいのか」と迷うお父さん。

「わからないなら、店員さんに聞けばいいじゃない」とお母さんは思うかもしれませんが、お父さんにもプライドがあります。「すき焼き用のネギはどれですか?」などという基本的と思われる質問を店員さんにするのもはばかれる。

かくして、「えいっ!」と決意し、カゴに放り込んだそれが、冒頭の「万能ネギ」だったりするわけです。

だって、唯一「ネギ」って書いてあったんだもーん。

教える側、指示する側は、自分の中に明確なイメージがあって相手に何かを伝えます。「ネギ」と言えば、これしかないでしょう?それ以外ありえないでしょう?当たり前でしょう?と思うので、細かく説明しません。

教わる側、指示される側は、教える側と同じだけの知識を持っていないので、「ネギ」の一言でも混乱します。でも、そうそう他人に質問もできない。

上司と部下。
先輩と後輩。

そういう関係でもこういうこと、あると思うのです。

上司や先輩には、「当たり前」と思えるレベルの知識がある。部下や後輩はそれを持ち合わせていない。でも、「当たり前」レベルの知識については、教える際に伝えられない。だって、教える側には当たり前すぎて、「伝える必要がある」とすら思いつかないから。

「教わる側」もお父さんがスーパーに行くまで「ネギが大量にあることを知らなかった」のと同様、習ったときは、「自分にもできる」「わかった」と思ってしまう。いざ、具体的に仕事に移ろうとして戸惑う。「え、これ、どうやってやればいいの?」

・・・・

部下や後輩を教え、育てている方が、「どうしてこんな基本的なことが理解できないんだろう」と疑問に思ったら、スーパーに行って「ネギ」を探してみたらいいかもしれません。

「ネギ」がたくさんあることに驚き、何を買うべきか迷ったら、部下・後輩の気持ちも少しは理解できる・・・・・・・・・・・・かも、です。

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ところで、「ネギ」の一件は、数日前Twitterでつぶやいたものですが、いろんな反応があり、楽しみました。

中には、こんなつぶやきも。

「うちのお父さんは、最後には、めんどくさくなって”ネギ”なんて売ってなかった」と堂々と言う。というもの。

このお父さんの気持ち、わかります。

「ネギを見つけられなかった、けれど、店員さんにも質問できなかった」腹いせに「ネギはなかった」ことにする、という方法。ほほえましい。

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