オルタナティブ・ブログ > 田中淳子の”大人の学び”支援隊! >

人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

部下を「育てる」ことに対するマネージャの意識の変化。

»

企業のOJT制度支援を始めたのが2003年。その頃から、IT業界に限らず、OJTの「制度化」が進みました。OJTの「制度化」とは、それまでのように「OJT」という名の元に、現場任せの育成を黙認するのではなく、人事部や人材開発部などが音頭をとって、人事制度としての「OJT」を運営していこうというものです。

OJTを制度化すると、たいていの場合、一人の若手社員(多くは新卒新入社員)に対して、一人のOJT担当者が割り当てられ、1年から3年ほどの期間限定でみっちりと育成にあたることとなります。

OJT担当者は、一般的に若手~中堅社員が任命されることが多く、ライン長であることは稀です。ただし、「人材育成の責任者」というのは、OJT担当者ではなく、あくまでも管理職。

当社のように人材育成を生業としている企業が顧客のOJT制度を支援する場合は、2つの関わり方が考えられます(細かく言うと、ほかにもたくさんあるのですが)。

1つは、OJT担当者に対する「若手をどう育成すればよいか」という考え方やノウハウを学ぶ研修を提供する。

もう1つは、ライン長(管理職)に対して、「若手育成の重要性やOJTに対する上司の関わり方、心構え」などと学ぶ研修を提供する。

さて、前置きが長くなりました。

この2つの支援を通じて、2003年~2006年くらいと、今とではずいぶん、OJTの様相が変わってきたことを実感しています。

5年くらい前までは、OJT担当者や管理職に「若手を育成するには」なんて話をして、仕事の指示の仕方やら傾聴やらコーチングやらを演習込みで体験的に学習していただいていると、もう必ずと言っていいほど挙がるのが、以下のような不満や疑問の声。

「どうして、部下の話をそこまで親切に聴いてやらなくちゃいけないんですか?」
「なんで、そこまで褒めて、若者に迎合しなきゃならいんですか?」
「俺たちが若いころは、誰にも育ててもらわなかった」
「俺たちはいきなり現場に放り込まれ、苦労しながら学んだもんだ。OJTなんてなかった」

・・・・20年前15年前の自分の新人時代を思い出し、「若手に甘い」「そんなことやっているから若手がダメになるんだ」といった声が、もう、多くて多くて。

研修を開催すると、大きな嵐が起こってしまうような感じですらありました。

それが、ここ数年、様子が変化しました。

「こうやって若手を育てるのは楽しいよね」
「今日の話を聞いていて、自分はやっちゃいけないことしてたなあ。たとえば、PC操作しながら、適当に話を聞いてることあるもんなあ」
「若手がどういうキャリアのビジョンを持っているかって、ちゃんと聞いたことなかったなあ」

こんな風にマネージャの発言が、部下の育成に対して前向きになってきているのです。

部下は、勝手に育つかもしれないけれど、育てた方がより早く一人前になるし、成長支援をしている側にとっても意味のあることだと体感するようになってきたのかも知れません。(たとえば、教えるためには知識と経験の再整理をして、言語化したり体系化したりすることになり、結果的には、教えている側もぐーんと伸びることはよくあることです)

人間、どんなに頑張っても、いずれは引退する時期が来て、その時、何が残せるかって、「人」しかいないわけです。

自分が開発した技術を継承し、さらに発展させてくれるのも「人」。
自分が開拓したクライアントとの仲をさらに強化してくれるのも「人」。

自分が一生懸命40年くらいを働いて、最後に残せるのは、ただただ「人」。

今目の前の仕事が忙しくても、プレイング・マネージャーというわけわからない横文字でごまかされそうなポジションでも、「人」を残すのは、誰もができることだし、しなければならないことだと思うのです。

仮に20年前に新人だった人が「俺の時代は育てるなんてなかった」と思ったとしても、もう20年も経ったのです。そのことは忘れて、今は、ちゃんと育てる。それも楽しんで。そのほうが双方ハッピーだし。

それから、「俺は育ててもらってない」ということが事実だとしても、「それでも成長できる人」だからこそ、マネージャになったのかも知れないし、その時成長をもっとがっちり支援されていたら、今よりもっとすごいマネージャになっていたかも知れません。

このあたりはなんとも言えないところですが。

せっかく採用した若手を「ホーチング(放置んぐ)」するのではなく、しっかり、育てていって、自分が頑張って仕事した証を「人」という形でも残したいではあ~りませんか。

人の成長支援って、実はとても楽しい仕事なのだ、ということに気付いた人ほど、後輩とともに学べるのかも、ですね。


Comment(1)