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ワーケーションを研究している大学生のみなさんへ

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こんにちは、新潟県妙高市でワーケーションの取り組みをしている竹内義晴です。

ここ数年、この時期になると「ワーケーションを研究している」という大学生のみなさんから、「取材させてほしい」「話を聞かせてほしい」といった問い合わせをよくいただきます。論文とかの時期なんですかね。

ワーケーションに関心をお持ちいただいていることはとてもうれしく、また、オンラインミーティングが身近になったいま、本来なら、実際にお話できれば、学生のみなさんの学びにとっては、そちらのほうがいいのではないか......とは思っています。

一方で、1件1件対応していると、数が増えると大変なこと、また、ご質問いただく内容が概ね近しいので、ここに記しておくことで、ワーケーションを研究しているみなさんのお役に立てるといいなぁと思いました。

よく寄せられる質問

大学生のみなさんからよく寄せられる質問は、概ね......

  1. ワーケーション導入のインセンティブは?
  2. ワーケーションのニーズは?
  3. ワーケーション導入時の障壁は?
  4. ワーケーション導入後の費用対効果は?

です。これについてお話します。なお、上記の質問に対しては、個人ではなく「企業の導入」の点で書いていきますね。また、社会人経験のない大学生のみなさんが考える前提と、企業における前提は、少し異なるかもしれません。それらを踏まえて、読んでみてくださいね。

ワーケーション導入のインセンティブは?

ワーケーションのインセンティブについてですが、一言で「ワーケーション」といっても、その目的はさまざまです。たとえば、こういったものが考えられます。

  • 人材育成や企業研修のようなもの
  • 休暇を促進するもの
  • オフサイト合宿のようなもの
  • 福利厚生的なもの
  • 社員の交流的なもの

ワーケーションにどんな意味づけをするかによって、インセンティブもさまざまなのではないかなぁと思っています。

ちなみに、ボクがワーケーションに取り組んでいる、新潟県妙高市にある妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会では4つの意味づけをしています。4つの枠の左右に書いているものが、インセンティブではないかと考えています。

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なお、ボクの意見では、ワーケーションとは広義のテレワークであり、「働き方、学び方の多様化」だと考えています。時間と場所の制約がないところで、自身の都合や環境に合わせて仕事をすることが「選べる」ことだと思っています。

ボク自身、2拠点ワーク、フルリモート週2日複業社員という働き方をして5年になりますが、多様な働き方ができることによってエンゲージメントの向上につながっています。また、チームで活用すれば、チームワークの向上といった効果も、期待できるかと思います。

ワーケーションのニーズは?

これも、よくいただく質問です。

ニーズのお話をする前に、そもそも「ニーズとは何か?」についてお話させてください。

「ニーズがあるか?」について、大学生のみなさんに限らず、これまでも本当に多くの方から質問されてきたのですが、新しい商品や価値が世の中に広まる際、そもそも「ニーズという考え方を、少し変えたほうがいいのかも」と感じることがあります。

なぜならば、新しい商品や価値が市場に出ていく際には、消費者はまだそれ自体を体験しておらず、「なるほど、これは〇〇の価値があるのか」と認識できないこと。また、潜在的なニーズとしてすら、気づいていない場合もあるのではないかと思うからです。

たとえば、いまでこそみんな持っているスマートフォンだって、初期のころは「これは、ニーズがあるのだろうか?」なんて、わからなかったんじゃないかと思うんですよね。だって、ガラケーとは違う世界観ですから。

新しい商品や価値が市場に出た初期は、「〇〇に困っていませんか?」「こんな解決の仕方がありますよ」「こんな価値がありますよ」と、こちらが価値を作り、認知してもらい、愛してもらうもの......つまり、ニーズは「あるかないか」ではなく、「創っていくもの」だと、ボクは思っています。

そういう意味では、「ワーケーションのニーズがあるか?」には、まだ導入期である現段階では、はっきりと「ニーズがある」とは言えないのかもしれないですね。特に、企業ではね(その理由は、次の「障壁」で)。それでも、未来を信じて「やるかどうか」って話だと思います。

でも、少なからずですが、個人レベルでは、テレワークによって在宅勤務など働き方が多様になった分、オフィスとは異なるストレスを抱えている人が増えたり、コミュニケーションの課題を感じたりしている企業が増えていること。また、ボクの周囲を観察していると、「ワーケーションに行ってきた」といった声が明らかに増えてきていることから、ニーズは少しずつ広がってきているのではないかなぁと思っています。

ワーケーション導入時の障壁は?

世の中におけるワーケーションは、「ワークとバケーション」という言葉が持つ印象や、2022年7月に、政府が推進を発表した際に、新たな形の観光や、観光回復へ休暇分散策といった形で伝えられ、「観光」のメッセージが強かったために、そのイメージが企業におけるもっとも大きな障壁だったのではないかなぁと思っています。観光だと、企業は(正確には、上司はですね)OKとは言えないですからね。業務時間ですから。

実際、かつておつきあいのあった企業の人事や経営層に「妙高でワーケーションの取り組みをしておりまして......」とメールをしたり、直接会って話したりしてきましたが、多くの場合、ワーケーションのワの字を伝えただけで「あぁ、ワーケーションですか。うち、そういうのは......」って感じになりましたから。障壁がめちゃくちゃ高かったです。

一方で、最近は、経団連が企業向けワーケーション導入ガイドを公開したり、観光庁の資料ワーケーションの活用~働き方改革や地方創生等の視点から~によれば、ワーケーションは単に「観光需要の平準化や新たな旅行機会の創出」という目的だけではないとし......

  • 個々人に場所にとらわれない柔軟な働き方を認めることにより、自律的に仕事の質や能力を高めつつ、個々人の事情や価値観にあったライフスタイルを後押しする
  • 自宅や職場を離れて仕事を行うという働き方を認めていくことで、日常にない気づきや学び、交流を得て、新たな価値創出や地域・社会の課題に取り組むなどのきっかけとする

といった形で、企業寄りのメッセージを伝えるケースが増えてきており、企業における障壁は、少しずつ下がってきているように、現場にいると感じています。

ただ、実際問題、企業の中では「ワーケーションに行きたい」といったときに、そもそも「上司の理解が得られるか」が課題かも。そういう意味では、障壁は「上司」や「人事」かもしれないですね(笑)

その障壁が下がるように、ボク自身「企業にとってこんな価値がありますよ」「チームにとってこんなメリットがありますよ」を伝えていきたいです。先日、「遊んで、働く」から企業の「価値創造」へ──2022年 ワーケーション業界のいまという記事を書きました。もしよければ、読んでみてください。

ワーケーション導入後の費用対効果は?

こちらについては、最初にお伝えした「ワーケーションのインセンティブ」によっても異なるかなーと思います。

費用対効果という話になると、「〇〇の生産性が上がった」みたいな数値によって測ることが多いように思います。最近のデータでは、NTTデータ経営研究所が社員が自由な発想で企画・応募できるワーケーション制度を導入にて、ワーケーションの効果を発表していましたが、ワーケーションの効果は、調べればいくつかのエビデンスはあるとは思います。

一方で、ワーケーションの効果は、数値化できるものだけでもないように思います。たとえば、クリエイティビティや、普段とは異なる環境に足を踏み入れることによって、気づきや学び、発見を得る越境学習的な効果の測定は、感覚値として得られても、数値で測定するのは難しそうです(アンケートは取れると思います。でもそれは、生物学的な「反応」というよりは、「解釈」です)。

そういう意味では、費用対効果から「ワーケーションってこんなにいいんですよー!」「○○の費用をかければ、□□の効果が得られますよー!」を導き出すのは難しいのかもしれませんね。

だけど、自身の経験値としては、目的を明確にすれば、効果を明確にできるようにも思っています。

たとえば、先日ボク自身も、参加者側でチームのワーケーションに参加しました。来年度の施策をメンバーと考えたり、地域の人たちに直接話を聞き、今後のマーケティング施策を考えたりしましたが、場所を変え、顔を突き合わせながら話をすることで、ミーティングに集中できてよかったですし、地域の人たちから聞いた「地方ならでは」の情報は、都市部のオフィスでは絶対に得られない生の情報なので、この価値は、結構大きいと思っています。

また、夜、ご飯を食べながら、軽くお酒を飲みながらみんなとおしゃべりしましたが、普段テレワークでは見えない人となりが見えて、とてもよかったです。こういった効果が、広く知られるようになるといいですよね。

ボク自身、まだまだ発信したいこともあるし、取り組みたいこともたくさんありますが、ワーケーションは広義のテレワークですし、その本質は、多様な働き方、学び方でもあるので、会社の中だけでは得られない価値を、これからも言語化できればいいなと思っていますし、お伝えできるといいなと思っています。

ワーケーションを真の意味で研究するなら、できれば「見て、聞いて、感じて」みてね

ここまで、ワーケーションの研究に対して、大学生のみなさんの役に立てればいいなと思って、書いてきました。もし、質問等あれば、こちらの問い合わせフォームから連絡いただければ、ブログ上でお答えしますね。TwitterのDMでもいいですよ。

なお、ワーケーションとは「普段とは異なる環境で仕事をする、あるいは、学ぶこと」です。その本質は「普段の環境を離れて」にあると思っています。オンラインで話を聞いた情報をテキストにまとめるのも、立派な研究かもしれません。でも、本当に研究したいなら、関心のある地域に足を運び、その目で見て、話を聞いて、肌で感じることが、もっとも大切なんじゃないかなぁと思います。

以前、ワーケーションを研究している大学生が、妙高に遊びに来てくれました。また、バイクで妙高にやってきて、2泊滞在し、山ごもりのプログラムに参加してくれた大学生もいました。すごい行動力だなと思いました。

でも、大学生の立場で、地域に足を運ぶのは、金銭的な意味でも難しさがあることはよく理解しています。

でももし、妙高に遊びに来てくれたら、いま、ボクらが取り組んでいるワーケーションについて、街の中をまわりながら案内したいと思っているので、もしよければ遊びに来てくださいね。高速バスを使えば、案外大丈夫かもしれないので。

あと、大学生の皆さんに、ワーケーションをはじめ地域活性化を指導されている先生がいらっしゃいましたら、もしよければ一緒に協働しませんか? これまで設計してきた方向性や現場の生の情報をお知らせします。学生のみなさんの学びに協力させてください。もし、この記事を読んだ生徒さんがいたら、先生に伝えてみてください。

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