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今日から使える、大学生のための会計知識不要の企業分析テクニック その1 ~内定切りを受けないために~

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12月1日、2014年度卒業予定の大学生に対する採用活動が解禁された。例年通り厳しい状況は変わらないようなので、そんな学生のために企業分析のテクニックを伝えたいと思う。

●企業分析の手順。

ビジネスで企業を分析する、といえば普通は決算書を見る。決算書は財務諸表とも言うが、利益・資産・資金繰りに関する会計情報が細かく書いてある書類だ。上場企業ならば財務諸表にそれ以外の情報もセットにした「有価証券報告書」を年に1回公表している。

就職活動を行う大学生も業界分析とか企業分析をしているはずだが、有価証券報告書を用いる事は一般的では無いようだ。アマゾンで検索をしてみても、企業分析を会計的な目線で就活生に伝える類の本は2・3冊しかない。

●3年前に内定切りをした企業。

就職活動で会計目線での企業分析がいかにおろそかにされているかを知って、呆れた事があった。かなり前の話になるが、上場もしていた日本綜合地所という大手不動産会社が2009年に53人の大学生を内定切りする事件が起きた。この時に、お願いだから入社させて欲しいとカメラに向かって泣きながら訴える大学生の姿がニュースで報じられた。TVを横目にその企業のHPで有価証券報告書を確認したところ、細かく分析するまでも無く「これは4月を迎える前に潰れるな」と確信した。借金に対する手許現金があまりに少なく(いわゆる当座比率)、その時点でとっくに潰れていてもおかしくないレベルだったからだ。

この説明だけを読めば「潰れそうな会社にしがみつくなんてバカな大学生だなあ」と感じるかもしれないが、実際には前年に、日本綜合地所は過去最高益を更新していた。まさかそんな会社が潰れるとは大学生に分かるはずも無いだろうが、決算書を見れば一目瞭然だった。売り上げが増えたのをいいことに在庫は1.5倍と過剰に積みあがっていた。その在庫の原資は手許現金だけでは足りず、借り入れた資金でまわしていた。現金が減り、借金は大幅に増え、売り上げが急激に増えない限りすぐに資金がショートして破綻するような状況だった。内定切りのニュースが出たのは11月、潰れたのは2月だった。「潰れる寸前だから内定切りをしたんだよ」と誰一人として教えてあげる人は居なかったのか、今考えても不思議な事件だった。

これ位の分析は企業分析の入門書を読めばすぐに出来る。が、就職活動まっただ中の学生はそんな余裕すらないだろう(まだ1.2年生ならば簿記3級から勉強をすると良い)。

●有価証券報告書で見るべき場所は2箇所だけ。

そこで会計知識を一切使わず、読んだそばから使える企業分析の方法を簡単に説明してみたい。まずは志望企業のHPにアクセスし、上場企業ならばIRとか株主向け情報のページがあるので、そこで最新の有価証券報告書をPDFで入手する。現在なら大抵の企業が2012年度版が公表されている(2013年度版は3月決算の会社ならば、5月半ばには出る。アニュアルレポートと表記している場合も。3ヶ月に一回公表している決算短信と混同しないように注意)。非上場企業を志望している場合は、同じ業界で上場している企業のもので代用可能だ。

有価証券報告書にはすでに説明したように決算書も載っているが、これは会計知識と分析手法を知らなければただの暗号なので無視して良い。見るべき箇所は「対処すべき課題」と「事業等のリスク」、この2項目だけだ。

「対処すべき課題」には、その名の通り企業が直面している課題が説明されている。しかも企業自身が公表しているものなので、第三者の勝手な分析とは違う。基本的には信頼して良い。これは「事業等のリスク」でも同様だ。有価証券報告書はどの企業もほぼ同じフォーマットで書かれているので、文書内を検索すればすぐに見つかる。

課題やリスクとして挙げられている項目は、これと言って平凡な内容の場合も珍しくない。わざわざ書く必要があるのかと思わせるほど素っ気無い企業もある(基本的な情報を正確に把握できるという意味では必要な情報ともいえるが)。ただ、これも安心して良い。同業他社の有価証券報告書を確認すれば、中には興味深い記述もあるはずだ。大抵の場合、同じような事業をやっていれば同じような課題とリスクを抱えている。課題とリスクの項目は有価証券報告書の中でも数ページしかないので、同業他社全てのPDFを確認しても大した手間はかからない。同業他社の調べ方はヤフーファイナンスで業種名や行っている事業を検索すれば簡単に出てくる。

●同業他社も確認すれば必要な情報はほとんど手に入る。

同業他社を全て確認する理由は、企業によって書いている内容が異なるからだ。例えばある業界にリスクが10個あるとして、全部書いてある企業もあれば半分しか書いていない企業もある。半分しか書いていない企業は、残り半分のリスクは関係ないのかというと、大抵の場合はそうでない(書き漏れの多い企業はいい加減な事業運営をしている可能性も十分ある)。したがって、志望する業界の上場企業が30社あったなら、それらの企業のリスクを全て確認して整理すると、業界全体のリスクは手に取るように分かる。

また、あるリスクについて30社中1社しか書いていなかったものがあるとしよう。通常はその会社個別のリスクと考えられるが、もしかしたら業界全体のリスクで、その1社だけが認識しているというケースかもしれない。そういった事が分かれば他者には無い視点が得られるだろう。1人でも十分出来る作業だと思うが、大変ならば同じ業界を志望する友人同士で一緒にやってもいい。

そして、課題やリスクがあれば、当然「対策」もある。対策に関しては書いていない場合もあるが、それは自分で調べる。これが企業分析になる。

企業分析・就職関連では以下の記事を参考にされたい。

●正しすぎるライフネット生命の新卒採用

●公務員になりたいという証券マンのユウウツ ~対面型証券に存在価値はあるのか~

●楽天の英語公用語化に反対する人がいまだに誤解している事

●期待値を下げて利益を出す 〜スカイマークエアラインの正しい経営判断〜

●シャープの本当の問題は、結局どこにあったのか?

次回はリスクを通じた企業分析についてもう少し説明したい。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
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