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誰がスマートシティのコストを支払うべきか?

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7月26日にスマートシティ/スマートコミュニティ関連のセミナーを行うことになっておりまして、今頭の中を整理しております。

■スマートシティも所変われば品変わる

そもそもの問題意識は、昨年11月頃に研究したアブダビ・Masdar City(マスダールシティ)と韓国・新松島(ニューソンド、New Songdo)とのビジネスモデルが不動産開発事業のそれであって、住宅分譲や法人テナント入居がうまく行けば成功したということになるし、そうでなければそうではないということになる。スマートシティ的な付加価値の実現に投入されたコストは、分譲や入居がうまく行けば回収できるし、そうでなければ回収できない。結局、成功か否かの境目は時の経済環境に強く依存する(事実Masdar Cityはやや厳しい状況にあります)。スマートシティとはそういうものなのか?ということであります。

スマートシティ/スマートコミュニティという言葉で人が想起するものは、国や立場でばらばらでありまして、それは致し方ないことです。米国などでは「スマートシティ」の意味を「スマートな人たちが住む街=頭のいい人たちが住む街」として、自治体がそういう街作りをしている例があったりします。具体的には、知的職業の就業者数が増えるように知的産業の誘致を推進し、並行して学校の建設・誘致を進めるといった具合です。

また、日本でスマートシティ/スマートコミュニティと言っているものを米国では「サステイナブルシティ」と呼ぶことがありますし、中国では「エコシティ」です。

問題解決意識が向く先も、日本では、特に原発事故以降は再生可能エネルギーの取り込みにありますが、米国の場合は車社会からの脱却が最重要課題です。これが新興国では電力と水が先進国並みに提供されることということになりますし、韓国の新松島は世界最大手企業の拠点を誘致できる(そして駐在員の家族が生活できる)米国並みの街づくりを狙っています。大手テクノロジー企業のショーケースとしての意味合いが大きい事例もあります。

また、環境保護団体が取り組んでいるスマートシティ系のプロジェクトでは、テクノロジーの導入にはほとんど意を払わず、それ以外の「人の生活スタイルを変える」という部分で「スマート化」を図るという事例などもあります。

■スマートシティの投資回収モデルはどうあるべきか?

このように世界中で様々なスマートシティ/スマートコミュニティが動いているなかで、私が関心を持っているのは、その投資回収モデルです。スマートシティは、ファイナンシャル面でも持続可能なものでなければなりません。時々の経済環境により法人テナントが集まらず、計画が遅れたり縮小したりするのは、少し違うのではないかという気がします。また、1つの投資回収モデルが確立したら、それが他の多数の都市開発にも適用できるものであるべきだと考えます。

ちなみに、新松島のデベロッパーであるGale InternationalのStan Gale氏は「中国には新松島と同規模の都市コミュニティが500必要だ」と発言しています(Financial Times: Aerotropolis)。捉え方の規模が違います。すごいですね。
新松島のビジネスモデルは上述のように不動産開発であって、Galeと韓国ポスコによって設立された特別目的会社が350億ドルを韓国の銀行団から借り入れて開発が行われています。これはこれで1つの古典的なファイナンスモデルであり、同じモデルを使ってGale Internationalでは中国・重慶でスマートシティ開発を始めるようです。同社の場合は新しいファイナンスモデルよりも、「国際空港に隣接する世界最大手企業の拠点都市」という都市モデルの複製に関心があるようです。新松島が仁川国際空港の立地(飛行機で3.5時間以内に100万都市が約60存在)を戦略的な強みとしていることについては、以前にご報告しました。

スマートシティ新松島の背景:仁川自由貿易地域と仁川国際空港

個人的には、スマートシティ的な性格を持った都市開発に導入される様々な方策、例えば、エネルギーマネジメントシステムや太陽光発電システムやごみ自動収集システムなどにかかる初期費用が全部分譲住宅の価格やオフィスの賃貸料に乗っかって、従来型の都市開発よりもプレミアムが付いた価格になり、その負担が消費者や入居企業側に回ってしまうというのは、非常に違和感があります。
このモデルでは「スマートシティであること」は商品の付加価値を高めるフリルのような位置づけになってしまい、顧客もその付加価値を好む層に限定されてしまいます。

もっと違うモデルがあってよいのではないかと考えます。

では、どういう代替案があるか?

■参考になるいくつかの手法

参考にできる手法が3つあります。いずれも、自治体側の首長の発意が不可欠であり、これに取り組む企業は自治体首長のエンゲージメントを戦略的に行わなければなりません。

まず、スマートシティ開発にかかる費用負担をすべて民間側に負わせるのではなく、半分程度は自治体側も負担するものとし、自治体は自治体としてファイナンスの枠組みを考えるという風にするのが現実的だと思います。これは、ある事例を念頭に置いて言っています。ちなみに新松島の事例では、用地整備以外のほぼすべての開発費用が受託企業すなわちGale Internationalの負担となり、同社1社で350億ドルという巨額の債務を負う格好になっています(現実的にはプロジェクトファイナンスなので同社には債務が遡及しませんが)。これはプロジェクトの持続可能性を考えるなら、きわめてバランスの悪い状況だと言えます。

●固定資産税収入の増加分を償還原資とした地方債

自治体側のファイナンスの仕組みとしては、米国で、その開発区域から上がる固定資産税収入の増加分を推計し、ある年限にわたって得られる増加収入を償還原資として、地方債を発行するという手法が開発されています。これによって、自治体側が開発費総額の半分程度を負担するということが可能になるのではないでしょうか?ある事例では、それを行っています。

●国や自治体が実施するインフラ事業の官民連携(PPP/PFI)フォーマットを流用し、都市開発を公共住宅供給事業と捉え、その設計・資金調達・建設・運用の権利(コンセッション)を競争入札により民間企業に与える。

自治体側が民間企業のファイナンスの負担を軽減する措置ということで見て行くと、この手法があると思います。ちなみにこれは日本の改正PFI法の下でも実施可能だと思います(同法の対象施設として公営住宅があります)。
この手法では、入居個人や入居法人が負担する費用が一定範囲内に収まるように官側が案件設計を行うのがポイントです。例えば、用地取得コストを官側が意図的に低めに設定するという具合にです。それにより、民間側のエコ系設備の初期投資コスト負担が相殺されます。それに近いことを実施している事例があります。

●広域の都市開発において、電力、ガス、熱、上水、中水、下水、ごみ、通勤手段などのインフラサービスを事業主体が包括的に提供する。加えて、住宅、商業施設、オフィスについても、空間の利用をサービスとして提供する。

これは一言で言えば「スマートシティ・アズ・ア・サービス」です。なるべく、サービス対象品目を増やすように設計し、その「オール・インクルーシブ(込み込み)性」によって民間企業側の収益性を高めます。エコ系設備の初期投資コストはサービス事業のなかで回収することになります。
直接的にこれを行っている事例はありませんが、サービス提供範囲が「都市丸ごと」という風になると、上下水道やごみ収集のサービスをインフラ案件として民間が受託するケースは多数あります。水最大手のヴェオリアなども水事業以外に都市のごみ収集事業を営業の柱の1つにしています。採算に乗る広域展開ができるかどうかがカギだと言えるでしょう。この手法も、まずは自治体側の発意があって実施可能になります(公共住宅インフラ提供事業のPFIということになります)。自治体がそのような案件として設計し、それを民間に委ねる形になります。

ほかにも、エコ系の設備投資負担を最適化するための手法が1つ思い浮かんでいます。

これらをうまく組み合わせると、スマートシティ関連の諸コストがすべて入居個人や入居企業に回る事態を避けることができると思います。多くの案件に適用なモデルにするためには、多少リファインが必要だとしても。

現時点でお出しできるのは、ここまでです。ここから先は、宣伝になりますが、7月26日のセミナーの参加者様にお伝えするということで、ご理解をいただければ幸いでございますm(_ _)m。多数のご参加をお待ちしております!

[過去のスマートシティ関連投稿]
アブダビのMasdar Cityはスマートシティの話題が詰まっている
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[追記]Masdarの太陽熱発電事業、コスモ石油の参画、太陽熱発電の発電単価
Masdar Cityの母体"Masdar"とマスタープランを受注したFoster+Partners(下)
スマートシティ新松島の背景:仁川自由貿易地域と仁川国際空港
スマートシティ新松島のネットワーク発想
総投資額350億ドルのスマートシティ新松島
先行投資としてのスマートシティ - Masdar Cityの場合
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中国・天津エコシティに関してわかったいくつかの事項
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