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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

スマートシティ新松島の背景:仁川自由貿易地域と仁川国際空港

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■新松島の第一期のマンション販売は申込倍率8倍で完売

スマートシティも投資の回収をしなければなりませんから、スマートシティという新語の背後で機能しているビジネスモデルがあるはずです。多くの場合、法人のテナント料と個人向けマンション販売とでキャッシュフローを得るというのがスマートシティのビジネスモデルのようです。
テナントが入居しなければ投資の回収ができないので、スマートシティは存続できなくなります。つまり、法人や個人の入居者にとって、相応のプレミアム(スマート化のコスト)を払ってもなお魅力があることが、スマートシティの大切な条件ということになります。

韓国のスマートシティ新松島(New Songdo City)の居住区画では計8万戸のマンションが売りに出される予定ですが、最初の2,600戸の販売時には申し込みが殺到して8倍の倍率になり、すぐに完売したそうです。今後の売り出しについても、デベロッパーであるGale Internationalでは自信まんまんだと伝えられています(Economist: Sing a song of $40 billion)。

一歩間違えば箱物を作っただけで終わりかねないスマートシティの成否を分けるのはどういう条件なのか。新松島を吟味すると見えてくるかも知れません。

新松島について調べていくと、ここが単独のスマートシティではなく、韓国政府が戦略的経済政策の一環として設定した仁川自由貿易地域(Incheon Free Economic Zone、IFEZ)、および世界の物流のハブになりつつある仁川国際空港と密接にリンクした都市計画プロジェクトであることがわかってきます。

■北東アジアのハブ、仁川自由貿易地域

仁川市は人口270万の韓国第三の都市。もともと貿易港を擁する大都市であり、ソウルの隣接都市という性格も持っています。日本で言えば東京に対する横浜のような位置づけにある都市だそうです。仁川からソウルに通勤するビジネスパーソンも多いとのこと。
この仁川市に属する永宗島(Yeongjong Island)、青羅(Cheongna)、松島(Songdo)の3地域が自由貿易地域に設定されています。

Incheon_fez

これら3地域のゴールは、北東アジアにおいて、仁川国際空港のある永宗島が物流のハブ、青羅が観光・レジャーのハブ、スマートシティの松島が国際ビジネスのハブになることとして設定されています。
仁川空港から飛行機で3.5時間の圏内に北京、上海、東京、大阪、台北、香港を含む100万都市が61。中国、日本、韓国、その他北東アジア諸国を合わせたGDPが世界GDPの24%、域内人口15億…。それらの中心にあるわけですから、彼らがハブを主張するのもよく理解できます。韓国政府はこの自由貿易地域のインフラ整備のために410億ドルを投じています(スマートシティ新松島の建設にかかる400億ドルはこのインフラ整備とは別枠)。

自由貿易地域の眼目は外国企業の参入を促すこと。外国企業は法人税・所得税の減免、土地賃貸料の減免、労働規制の緩和などの恩恵を受けることができます。

永宗島は仁川の沖合に浮かぶ2つの島でしたが、仁川国際空港が建設されるにあたって干拓がなされ、1つの大きな島となりました。陸とは2つの大きな橋で結ばれています。近年開通した仁川大橋は18km以上もある長い橋で、スマートシティ新松島と仁川国際空港の間を車で15分の距離に縮めました。

青羅には450mの高さを誇る高層ビルが建つ予定。現在のところ、ここは観光・レジャーのハブというよりは研究開発拠点になりつつある印象です。バイオ情報技術の拠点、GM大宇の研究開発拠点、ハイテクパークなどが建設予定。レジャー系ではテーマパークが1つ作られます。

松島には次回に記すスマートシティが建設されつつあります。

外国企業を誘致する際に使っていると思われる事務局が作成した資料が見つかりました。ざっと目を通すと、美点がたくさんありすぎてため息が出ます。

■サービス世界一の仁川国際空港

仁川国際空港がいわゆるハブとしてゆるぎない地位を確立しつつあることはよく知られています。西日本シティ銀行ソウル駐在員事務所が作成したレポート「北東アジアのハブ空港を目指す仁川国際空港」によると、東アジアの国際空港の年間旅客受容能力は、
 北京 9,500万人
 チャンギ 7,000万人
 香港 7,000万人(拡張後8,700万人)
 成田 5,400万人
 仁川 4,400万人(拡張後10,000万人)
と仁川が五位ですが、拡張後は一挙にトップに躍り出ます。 

空港の国際組織であるAirports Council Internationalが毎年行っている空港サービス品質の調査によると、仁川空港はここ数年トップの常連であり、2009年度もトップの座を維持しました(ACI Airport Service Quality Awards 2009, Asia Pacific airports sweep top places in worldwide awards)。二位シンガポール、三位香港、四位北京、五位ハイデラバードとなっています。
同空港では出国は45分以内、入国は40分以内で済むようにする数値目標があるそうで、空港内の関連サービスすべてがこれを達成するように連携しています。

航空物流のハブとしても香港に次ぐ世界第二位の規模(238万トン、2008年)を持っています。仁川自由貿易地域の優遇措置が使えるため、DHL、UPS、ヤマト運輸などが物流ターミナルを置いています。2007年の報道にはDHLが5,000万ドルを投資して同社ハブを仁川空港に建設するというものがありました。
また、中国の上海港などから出た製品を翌日に仁川港に運び、仁川港から仁川大橋経由で仁川空港に運んで、そこから世界各地に短時間で送り届けるといった「シー&エア」の物流も活発なようです。

北東アジアの60を超える100万都市に3.5時間以内で行けるというロケーションを生かして、最近では、AirAsia、Cebu Pacific、ZestAirなどのローコストキャリアも仁川空港を使っています。

仁川空港の成功体験は新興国の空港運営には貴重な知見で、空港運営コンサルテーションもビジネスになり始めていると言います。アジアにおけるハブ空港と言えば数年前はシンガポールのチャンギ空港でしたが、現在では仁川抜きには語れないという状況ができあがっています。

スマートシティ新松島はこのような空港と自由貿易地域の後ろ盾があるがゆえに、外国企業にとって非常に魅力的な都市になっていると言うことができるでしょう。

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