このブログでは過去に社会ネットワーク分析(Social Network Analysis)の話題を取り上げたことが何度かあります。もう奥の奥に行ってしまってGoogle検索でも取り出しにくいですが、たとえばこの「SNSを社会ネットワーク分析的に視覚化するツール」とか「"鳥の視点"を持つこと」とかは、社会ネットワーク分析でよく使われるソーシャルグラフのことを言っています。

ソーシャルグラフの典型はたとえばこんなやつ。

Socialgraph

Wikimedia Commons

Twitterの動向を考える際にこの時かじっていた社会ネットワーク分析の知識がかなり役立ちます。知識とは言ってもほんの少し。社会ネットワーク分析はすでに学として成立していて、2年ぐらいみっちり学んでようやく学のスタートラインに立てるぐらいの研究の蓄積がありますから、自分が得た知識(ややおこがましい)はほんのは○くそみたいなものです。

社会ネットワーク分析では古典的な位置づけを持つキーワードに"Weak Ties"があります。直訳すれば「弱い絆」、社会ネットワーク分析関連の書籍では「弱い紐帯」を使う人もいます。こちらに非常にいい説明がありますね

 価値ある情報の伝達やイノベーションの伝播においては、家族や親友、同じ職場の仲間のような強いネットワーク(強い紐帯)よりも、ちょっとした知り合いや知人の知人のような弱いネットワーク(弱い紐帯)が重要であるという社会ネットワーク理論のこと。
 1973年に米国の社会学者マーク・S・グラノヴェター(Mark S. Granovetter)が『strength of weak ties』という論文で示した仮説で、企業と労働者のジョブマッチング・メカニズムを明らかにするための実証研究に由来する。

研究対象となったホワイトカラーの転職では、自分の周囲にいて直接的な関係を取り結んでいる人よりも、やや遠い距離間のある方から得た「ちょっとした情報」や「軽い気持ちの紹介」などがきっかけとなって、非常にうまくいくケースが多いとのこと。それが「弱い紐帯」の力、というか、効果だそうです。仕事が転がり込んでくる状況などを思い浮かべてみても、当てはまる場面が多々ありますよね。

この"Weak Ties"-弱い紐帯、最近読んでいる西口敏宏氏の「遠距交際と近所づきあい」では「緩いつながり」と訳しています。

 彼(グラノベッター)は、ボストン近郊の企業マネージャー数十名にインタビューし、彼らが、誰の情報提供で現職を得たのかを尋ねた。そして「親しさ」の程度の違いで、就職情報の提供者を区分した結果、従来のネットワーク理論で通説とされていた「親しい友人」ではなく、多くの場合、比較的コンタクトの少なかった「遠い知人」が、決定的に重要な情報を提供していたことを発見した。
 親しさの程度を一意的に測定する困難さが残るとはいえ、彼の発見は、転職という人生の重要な局面で、直近の友人ネットワークではなく、その周辺にあって、通常あまり意識されない「周辺的なネットワーク」こそがしばしば決定的な役割を果たすという事実を、再認識させる結果となった。
 というのも、「親しい友人」の生活圏は本人とたいして変わらず、そこからもたらされる情報も著しく似通っているのに対して、「遠い知人」が属する社会は本人や親しい友人の済む世界から隔たっており、そこからの情報は「構造的に」重複や余剰が少なく、異質で豊かであり、よって転職のような人生の大事には有用だからである。
 「緩いつながりの強み」("The Strength of Weak Ties")と題され、米社会学会を代表する『アメリカン・ジャーナル・オブ・ソシオロジー』(American Journal of Sociology)誌に掲載された彼の初論文は、その優れた功績によって、ネットワーク研究の古典として、今日も読み継がれている(Granovetter 1973)。

 西口敏宏「遠距交際と近所づきあい」

非常に説得力のある記述ですね。西口氏は一橋大学イノベーション研究センター教授。まさに社会ネットワーク分析を研究の主領域に据えていらっしゃる方です。一橋ビジネスレビューの2009年秋号では「ネットワーク最前線」が特集ですが、ここでも西口氏が陣頭指揮を取っていらっしゃるようです。

ここで彼が使っている「緩いつながり」という表現。「ゆるい…」。Twitterが日本で広がり始めた2007年に、Twitterの特徴を表す形容詞として「Twitterはゆるいつながりに特徴がある」などと評されたものでした。今でも「Twitterはゆるい」とよく使いますね。この「ゆるさ」がグラノベッターが言った"Weak Ties"の"Weak"だったわけです。すごい!

すると、Twitterでつながっている人は、グラノベッターが指摘した「弱い紐帯」でつながっていることになり、重要な情報や重要な人生の転機の出来事の起点になったりするわけです!すごい!

これによって、以下の謎が解けました。以下は私が少し前に出したツイート

【ミニTwitter論】Twitterとは、N対Nの無数のやりとりのなかで、なぜか自分が「はっ!」とするものが向こうからやってくる、謎な空間である。

このツイート、けっこうRTがかかって「そうだそうだ」という意見をいただきました。みなさん同じことを感じていらっしゃったのでしょう。ここで言う「謎」は、グラノベッターが言った「弱い紐帯」ないし「緩いつながり」の効果だったわけです。ものすごいことです。

dimaizum

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コメント
谷口和司 2010/03/26 09:14

なるほど!と思う考察ですね。確かに、久々に会った人の方が得がたい情報を提供してくれたりします。あとはそういう人でもすぐに情報交換が出来るような人間関係をどう維持するかです。
最後のMiniTwitter論、ですが、Twitterに限らず、物事をぼんやりと意識していると「ハッ!」と向こうから情報がやってくることはしばしばあります。アイディアの作り方関係の書籍には良く出ています。この核心はTwitterの方がよりリアルに近づいて、かつ母集団が大きいのでそれが「素早くやってくる」ということでしょうか。

今泉 2010/03/26 09:19

谷口さん、コメントありがとうございます!
投稿をアップしてこれだけ速くコメントをもらったことは初めてです(^^;
Twitter時代、おもしろいことは何でもテンポが速いですよね。孫さんの即断即決の記事も、すごくよかったです。
「ツイッターは恐ろしく貴重な人類の財産」、ソフトバンク孫社長語る
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100325/213606/


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今泉 大輔

今泉 大輔

インフラ投資ジャーナリスト。インフラビジネスリサーチャー。
銀行系シンクタンク、外資系コンサルティングファームからのリサーチ受託を経て、米最大手ネットワーク機器会社に7年間あまりリサーチャーとして勤務。金融、製造業、電力業などを担当。現在はインフラ関連のリサーチサービスを運営。

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