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3連続ライブを走破せよ。 ~6弦のカナリア(10)【 1 】~『憎まれっ子世に憚る十五巡目』

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9月17日、大阪で開催された、スラッシュメタルの祭典「True Thrash Fest RETURNS 2023」。
日本勢の一員として参戦した『TERROR SQUAD』は、最高のパフォーマンスで、客を魅了した。
9月末からは、10日間で3本のライブに挑む。全25曲、魂のストラトが火を噴く!?

『憎まれっ子世に憚る十五巡目』2023年9月30日(土)西横浜 EL PUENTE

「無香害ライブ」 をデフォルトに!仲間たちが動く!

香害渦巻く大阪で過ごした半日。呼吸から、皮膚から、取り込んだ化学物質。ダメージは予想以上に大きかった。たとえようのない眠気が続く。
ギタリスト・大関慶治が日常を取り戻したのは、5日後。9月22日になっていた。

時間がない。
9月30日には、西横浜でのライブが控えている。通常6曲30分のところ、9曲45分の長丁場になる。
翌10月1日には、町田市で、5バンド出演のトリを務める。アンコールが予想されるため、プラス1曲。
その1週間後の10月8日には、新宿で、35バンドが出演するイベントに参加する。

2つは「無香害ライブ」を成功させ、3つ目は曝露を最小限に抑える必要がある。

だが、大関も、関係者も、ファンや「香害」啓発者たちも、楽観的だ。

9月30日(土)のライブは、『TERROR SQUAD』のサポート・メンバー、キャッツ氏による企画。
『TERROR SQUAD』、『G.L.G.』、そして『BAREBONES』が出演する。

その『BAREBONES』ギタリスト・長谷周次郎氏は、2022年11月のレコ発ライブで、無香害での来場をSNSで呼び掛け、日本初の「無香害ライブ」を成功に導いた人物だ。
ライブ前の楽屋で、何気なく明かした胸のうち。「大関に全力で突っ走ってほしいから」
この言葉は、大関の一生の宝物となっている。

会場は、『西横浜 EL PUENTE』。これまで4回、無香害ライブを成功させているハコだ。
オーナーのShigeru Shiggy Sato氏は、日本消費者連盟のチラシを入り口に貼るなど、啓発に尽力している。

今回も、長谷氏とShiggy氏は動いた。

9月27日、長谷氏は、facebookで、無香料の文字が目立つ製品の写真を投稿、来場予定者に呼びかけた。
「週末のドレスコードは無香料!」
さらに、29日にも、再投稿で、確認を促した。
ライブ当日には、Shiggy氏が、「X」オフィシャルアカウントで呼びかけた。
「本日香害フリーデイという事で、香水や柔軟剤など化学的香りが強いモノは控え、ナチュラルビューティーをエンジョイ頂けたら幸いです!」
事前アナウンスは、ばっちりだ。
そして、ライブハウスのスタッフ・所沢氏が、心をこめて、黒板アートを描き上げた!

13時30分開演、16時30分終演。トッパ―のため、大関は早めに自宅を出発。
いつもなら、現地に到着すると、黒板アートをポストする。だが、今回は、ポストなし。
会場内が無香害であるだけでなく、入り口付近も無香なのか!?

準備は整った。あとは、全力で演奏するだけだ!

駆けつけたギタリスト仲間。万全のサポートの中で、9曲!?

会場には、『BxTxW』ギタリストで『LEGEND OF TRUTH』ベーシストの、RATCHI氏が駆けつけた。
RATCHI氏は、昨年の12月4日、『THE FINAL SOLUTION』のギタリストとして、『東高円寺二万電圧』でのライブ『CORETIC PERDITION』で共演。facebookでフレグランス・フリーを呼び掛け、無香害ライブの成功に尽力した人物だ。
今年4月28日の『DEFILED』レコ発ツアーの初日のライブでも、客席から大関を見守った。
今日は、サポート・メンバーのキャッツ氏とともに、大関の横に立った。香害の成分が漂ってきたら、すぐに護る態勢だ。

今回、『TERROR SQUAD』ベース・前川は、ユニークなセットリストを考えた。
1曲目は、ギターのインストゥルメンタル。大関が2006年に作曲した、『Black Sun』だ。
ゆっくりとした楽曲。音源は公開されていないが、『TERROR SQUAD』の2nd.アルバム収録の『Soma』から、イメージを膨らませてほしい。スラッシュメタルの枠には収まらない、意外性。ジャンルを超えた独自性。『TERROR SQUAD』の底力と魅力を発見できるだろう。
客の中には、『Black Sun』のマークが描かれたTシャツ姿も、ちらほら。期待に応える演奏となった。

2曲目は、1st.アルバム『the wild stream of eternal sin」から、『Order of Lone Wolf』、3曲目には、2nd.アルバム『Chaosdragon Rising』から『Helldozer』と、最近のライブでは披露していなかった曲が続く。
4曲目は、新曲『No Wrong Way』で盛り上がり、5曲目は、2nd.アルバムから、これもご無沙汰の『Hellbound Deathboogie』。
6曲目に、ファン待望の『闇より深く...』。

セトリ通りに、演奏は進み、客たちの熱狂は加速。突撃するリズム隊が、客を揺さぶる。ボーカル・宇田川は今日も絶好調。動き、飛び、叫び、客と交感。

7曲目の『Bastards』から『Straight to Hell』と続き、ラストは、もちろん『Chaosdragon Rising』!!
おなじみの3曲で、一気にラストまで駆け抜ける―――はずだった。

だが、『闇より深く...』を弾き終えた大関は、苦渋の決断を下した。

呼吸が限界に近づいていた。首に提げていた、防毒マスクを装着した。これまで、演奏中には一度も付けたことのない、マスクを。
パフォーマンスを完全に封じても、最後まで弾く。それが、大関にできる唯一のことだった。
心がちぎれそうだった。

【写真】防毒マスク姿で演奏する、ギタリスト・大関(撮影:『BxTxW』RATCHI氏

マスクを付けていても、襲い来る化学物質。完全に防げるわけではない。機材を撤収する力など、残っているはずもない。

演奏が終わるや、RATCHI氏が叫ぶ、「ギターだけ持って避難して!」
そこはギタリスト、大関を安全な場所に退避させ、代わりにケーブルやエフェクターなどの機材を撤収。

終演後、大関は、黒板アートの写真をポスト。自嘲気味につぶやいた。
「無事じゃないけど、なんとか出番終了。途中で頭が痛くなって、ラスト3曲防毒マスクでした。楽なんだか苦しいんだか...。」

トリの『BAREBONES』の演奏は、ボーカル・宇田川が見届けた。そして参戦。ラストは、『BAREBONES ft. 宇田川』で、『Motorhead』の『Ace of Spades』となった。
会場は、大盛り上がり。3バンドの熱演は、客たちの記憶に、衝撃の数時間を刻み付けた。

『憎まれっ子世に憚る十五巡目』黒板アート(撮影:大関慶治)

使用量を控えても危険。伝わらない、もどかしさ。

周知は万全だった。無香害ライブの成功を、誰もが信じていた。なのに、なぜ?......会場の空気に異変が?
ギタリストの身に、いったい何が起こったのか?

「セッティングを済ませ、音出しを初めてから15分ほどのことだ。香料が、充満してきた。無香料生活のRATCHIさんとキャッツさんにすら分からない、ニオイ。それは、以前、どこかで嗅いだことのある、危険なニオイだった。それで、防毒マスクを首から提げて、ライブに挑んだ。ステージが始まった時には、もう無理!と言いたくなるほどの空気だった。パフォーマンスは最小限、ほぼ棒立ちでの演奏になってしまった。
演奏が進むにつれ、頭痛と判断力の低下が始まり、どの部分を弾いているか分からなくなってきた。それで、後半3曲、身体に震えが来る前に、マスクを装着した。こんなことは初めてだ。」

原因は、何だったのか?
「整髪料なのか香水なのか・・・。目に沁みて頭が痛い。短時間、強く曝露するより、長時間、微弱な曝露にあう方がダメージは大きい。」

ほうほうの体で帰宅した大関。「帰りの車中で、目の沁みと頭痛が悪化した。防毒マスクを付けなければならなかったことに、落ち込んでしまった。」

周知活動に不足していたものは、何なのか?
「『このぐらいなら大丈夫だろう』はオレにとっては苦痛でしかない。それが伝わっていなかったのかもしれない。」

一昨年、5省庁(消費者庁、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、環境省)による香害啓発ポスターが作成された。 その内容は、香害健康被害者たちを落胆させた。「その香り、困っている人がいるかも?」というコピーに添えられた注意書きは「使用量の目安などを参考に、周囲の方にもご配慮いただきながらご使用ください。」
問題は、使用量ではない。使用すること自体が問題なのだ。蕎麦アレルギーの人が、蕎麦の1本でアナフィラキシーショックを起こしかねないように、使用自体が、危険。これを知らない人が、少なくない。どうすれば伝わるというのだろう。

苦渋の決断について、大関は語る。
シゲマツ製マスクは、「しっかり顔面にフィットすればかなり効果はある」が、「着けたら、アクションは一切なしで動けない。立ったまま演奏に集中するだけ。でも、我慢しているときも動けないし、辛いし、脳が働かなくなるから、さっさと防毒マスクした方がいいとも思った。」
とはいえ、「顔も痛くなるし、酸素が足りない」から「長時間は無理」。そして、マスクで覆われていない「むき出しの皮膚は痺れる」。
45分のライブの1曲目から使うと、負担が大きい。演奏のクオリティと、刻々と変わる自身の健康状態を予測しながら、どの曲から装着するかを瞬時に判断しなければならない。その見極めは難しい。

悲しい結果にはなったものの、理解あるバンドマン仲間や客たちは、確実に増えている。
『BAREBONES』のメンバーたちは、3人とも無香料。「オレを腫れ物扱いせず、いつも通りバリバリ普通に接してくれるのってめちゃくちゃ救われる!」

気を取り直して、次のライブに備えなければ。
RATCHI氏が、明日の会場のステージ写真を送ってくれていた。それは安心材料となった。「奥行きもあるし、余裕だとおもう。」
facebookに、大関は、感謝と明日へのおもいを投稿した。
「いつも助けてくれるみんな、ありがとう! Shiggyさん、『EL PUENTE』のみんな、企画のキャッツさん、ありがとう♪ 明日も頑張ります♪」


記事中写真

(上)防毒マスク姿で演奏する、ギタリスト・大関(撮影:キャッツ氏)
(下)『憎まれっ子世に憚る十五巡目』、所沢氏の描いた黒板アート(撮影:大関慶治)


【 2 】~『Nutty's Muraki pre Black Spinel Vol.3』>>


※本稿は、関係者の公開ツイートや投稿をもとに、情報を再構成したものです。

「6弦のカナリア」目次

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