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朝日新聞、ギタリストの苦闘を追う。記事が拡散するなか、ツーマンライブ、開演。~6弦のカナリア(4)~

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全国に「無香害ライブ」を宣言。ギタリストの覚悟、バンドの決意。

4月15日、土曜日。西横浜 EL PUENTE。人気企画『憎まれっ子世に憚る 十四巡目』
今回は、『TERROR SQUAD』と、レコ発『NEPENTHES』のツーマンだ。
ロングセットになる。ギタリスト・大関慶治は、50分間を、完走できるのか?

ライブハウス側は、店内の無香害化に積極的だ。オーナーのShigeru Shiggy Sato氏は、昨年12月、今年3月のライブでも、日本消費者連盟のチラシを入り口に貼るなど、啓発に尽力。高残香性柔軟剤と抗菌系合成洗剤のリスクは、知られつつある。

問題は、消臭スプレー、そして、香料入り整髪料だ。前回3月12日のライブでは、整髪料から揮発する成分に、パフォーマンスを封じられている。

今回のライブは、大関氏にとって、3つの意味で、特別だ。

ひとつは、無香害ライブを全国に向けて宣言した中での開催であること。
2023年4月6日、朝日新聞デジタル、連載「窓」。
「香りに追い詰められたギタリスト、仕事も失い その時、仲間が動いた」と題する記事が掲載された。

映画と文化を専門とする、伊藤恵里奈記者は、昨年から大関氏の音楽活動を追ってきた。
2023年3月5日、日曜日。ライブハウス『吉祥寺 WARP』で開催された、『TERROR SQUAD』と『マシリト』とのツーマンライブ『to the eden resume 2023』に足を運び、取材・撮影。

記事が配信されるや、日用品公害の啓発者たちが、twitterとfacebookで拡散。
会場の無香害化と集客の両立に期待がかかる。是が非でも、成功させなければならない。

2つ目の、特別な事情ーーーそれは、出演者たちの不思議な縁である。
高校時代、『NEPENTHES』ボーカル・根岸氏と、『TERROR SQUAD』ボーカル・宇田川氏は、先輩後輩として、バンドを組んでいた。根岸氏は『青鬼』、宇田川氏は『赤鬼』という異名をとっていたという。
その宇田川氏と大関氏は中学時代の同級生。この出会いが、後に『TERROR SQUAD』を生んだのだ。
三人とつながる友人たちも、そろって音楽活動を継続している。
フライヤーは、赤鬼と青鬼がにらみ合うデザインとなっている。まるで今回の共演を暗示するかのように。

出会うべくして出会った2バンドと、そのファンたちが、同じ空間で、同じ時間を共有する―――それが、今回のライブなのだ。

そして、3つ目。
今回、『TERROR SQUAD』は、一蓮托生、背水の陣で臨む。

大関氏は、自身の心情を吐露せずにはいられなかった。会場の空気が危険であれば、防毒マスクを装着してパフォーマンスを封印する、という苦渋の決断。有害物質を鋭敏に感知する自分の存在が集客に影響するようであれば、ステージを去ることも考える、という忸怩たる思い。
facebookの投稿に流れる、静かな悲嘆。文字が放つ叫びに、かける言葉も見つからぬ閲覧者たち。
さざなみが立つ中、ボーカルの宇田川氏が、言い切った。

「死ぬまでこの4人だから大丈夫。オレは君のギターが無かったら唄ってないよ。」

ギタリスト・大関氏が微量の有害物質を感知するようになって12年。これまで、たゆまぬ努力と工夫で、ライブと仕事を両立させてきた。だが、とうに限界を超えている。
2018年以降、日用品公害は激化。曝露リスクに脅かされる日々が続く。
静かに耐えて、平静を装う。そのため、苦悩が知るところとはならないだけである。

アーティストは孤独だ。孤独に順応できる者にのみ、音楽のミューズは創造の扉を開く。闇に足をすくわれそうになりながら、つかんだ光が曲になる。6弦から繰り出される音の粒は、来場者を包み込む愛となる。

ベスト・パフォーマンスを目指せ。関係者、総力を結集!

新聞記事がSNSで拡散されるなか、開催日は刻々と近づく。

タイムスケジュールは、19時~19時50分を『TERROR SQUAD』、20時10分から『NEPENTHES』が演奏し、21時10分終演となっている。充実した2時間を約束する企画である。

ネットでの告知は、前日まで続けられた。関係者は、twitterとfacebookで、無香害の必要性を訴え続けた。

ライブハウス『西横浜 EL PUENTE』オフィシャルは、開催前々日から、注意喚起をツイート。
ライブの企画者キャッツ氏は、具体的な行動を促す。「ご来場の際、臭いのする柔軟剤や合成洗剤、除菌・消臭剤をなるべく使わず、強い香水なども控えて頂けるとありがたいです。」
『TERROR SQUAD』オフィシャルで、ボーカルの宇田川氏は、心配を抑えて呼びかけた。「ロングセットでたっぷりやります!心配です!(笑) 最高に楽しい事は間違いない!」
日用品公害の啓発者たちと、『TERROR SQUAD』のファンたちが、リツイートとシェアを繰り返していく。

万が一に備え、曝露対策も講じられた。大関氏とキャッツ氏は、サーキュレーターを用意。大関氏の後方に、頭部の高さでセット。客席側へ向けて空気の流れをつくることで、目や呼吸器への曝露の軽減をはかる構えだ。

4月14日。ライブ前日。大関氏は、感謝と決意をツイートした。

「TERROR SQUAD、明日ライブです。精一杯頑張ります。
取材してくれた朝日新聞の伊藤さん、シェアしてくれた人たち、記事をプレゼントしてくれた人たち、みんなの思いを込めて!
明日は良い演奏をするよ!」

最高の、セットリストを用意した。
ファンたち待望の新曲を、今回も。昨年12月25日、同会場のライブでお披露目した、「No Wrong Way」だ。
全曲、ベスト・パフォーマンスで届けたい。

そして、当日。

あいにくの雨。
だが、集客に死角なし。続々と客が詰めかける。どの顔も期待感に満ちている。
ライブハウス前には、黒板アート。2体の鬼がにらみ合う中に、2バンドのロゴ。火花散る共演を、フライヤーをデザインしたライブハウスのスタッフ、所沢氏が心をこめて描き上げた。

17時。会場に到着した大関氏が、看板の写真をツイート。その後、共演者の『NEPENTHES』オフィシャルが、会場の様子を伝えた。『TERROR SQUAD』がサウンドチェック中だという。
開場前の空気事情は大丈夫だ。問題は、この後だ。持ち込まれる移香にもリスクが潜む。気が抜けない。

ギタリストは、ゲンを担いで、『BAREBONES』の新曲「ZERO」のロゴ入りTシャツを着た。昨年、集客への影響を度外視して、無香害ライブを呼びかけた『BAREBONES』ギタリスト・長谷周次郎氏。そのひとことが、蘇る。
「大関に全力で突っ走ってほしいから」

全力で突っ走ろう。
開演だ!

全力の、全10曲。無香害ライブへの挑戦は続く。

全国の日用品公害の被害者たちが、無香害を祈願するなか、ライブが始まった。
会場には、昨年12月4日のライブで無香害を訴えた、ギタリスト・RATCHI氏の姿があった。駆けつけてくれたのだ。

キャリアに裏打ちされた、たしかな演奏。いまなお進化し続ける楽曲。
高速で刻み続けるリズム隊。一声で、会場をテラー・ワールドに変えるボーカル。歌い、叫び、客との距離を縮めていく。 新曲に、シンガロング。突き上げる拳。Go ahead! Go ahead! Go ahead!......ハコの中が、一体となる。エネルギーの渦に包まれて、ギターソロが始まる。
低音から高音まで、激しいポジション・チェンジ。今この瞬間だけは、かなしみを忘れて。

全10曲を、全力で、演奏。
Black Sun、Order of lone Wolf、Born Defector、Helldozer、No Wrong Way、Bastards、Hellbound Deathboogie、闇より深く・・・ 、Straight to Hell、Chaosdragon Rising

やりきった。ギタリストは、50分間を、最高のパフォーマンスで、駆け抜けた。
有害物質に晒されることなく、『TERROR SQUAD』の出番は終わった。後半は『NEPENTHES』に託された。

大盛況、大満足。密度の濃い一夜に、余韻冷めやらぬ来場者たち。
終演後、そのひとときを思い出したツイートからは、熱気が立ち昇るかのようだ。

「ずっと激熱ヤベェ、オレ生きてて良かった!!」
「企画、空間、距離、音、そしてこの場にいた人達全て最高!!」

この成果に、主催者たちも、胸熱だ。
『西横浜 EL PUENTE』公式は、手放しで喜びをツイートした。
「大作を見終わったあとのような満足感!興奮冷めやらない。すさまじい2マン。TERROR SQUAD、NEPENTHES」

もっとも、一番この時間を満喫したのは、『TERROR SQUAD』のボーカル・宇田川氏だったかもしれない。
大関氏のギター、前川氏のベース、ジョーカー氏のドラムで、10曲を歌い切ったのだから。

「死ぬまでこの4人だから大丈夫。オレは君のギターが無かったら唄ってないよ。」

成功の影には、出演バンド数や出演者、時間配分までをも、細かく計算しつくした企画がある。宇田川氏は、企画者のキャッツ氏をたたえた。
「最後まで会場の一体感凄かったなー!最高の企画組んでくれてありがとうございました!」

そして、大関氏は、来場者と関係者への感謝を綴った。
「雨の中ご来場くださった皆様ありがとうございます。香害周知からいつも協力してくれる会場オーナー。スタッフの皆さん、共演者、ご来場者のご協力に感謝!!そしていつも応援してくれるみんなありがとう!」

充実した時間は、安堵に変わり、そして、決意に変わる。

無香害ライブを続けるにあたり、ひとつ、課題が見えてきたのだ。
それは香水のリスクである。
演奏を終えた大関氏は、ギターを撤収する際に、強い香水をまとった人とすれ違い、曝露することとなった。
「香害」は、香水の害だと早合点されることがある。これを防ぐため、高残香性柔軟剤や抗菌系洗剤のリスクを強く訴えれば、逆に、香水の問題が霞んでしまう。次回のライブに向けて、リスクある製品を満遍なく訴えなければならない。

華々しく宣伝される日用品。人気タレントが薦めているから良い製品のはず。そう信じて、使用上の注意を確認することもなく、気軽に買い求める人は少なくない。
いまや誰もが、忙しい。IT化で余裕ができるはずが、むしろ逆。1分1秒を惜しむ生活の中で、何も知ろうとせず、何も考えようとせず、ただ「どこにでも売られているものだから」と、カートに入れる。

まだ無症状の、心身が発する警告に気付いていない使用者にとっては、気軽な一吹き、気軽な洗濯なのだろう。だが、大関氏にとって、カナリアたちにとって、それは、人生を奪いかねない凶器なのだ。
健康被害と環境汚染を知らせて、リスク認知のバイアスを埋めていく。難題だ。しかし、誰かが、やらねばならぬ。

手負いのカナリアは、ストラトキャスターを携えて、その先頭に立つ。


『TERROR SQUAD』無香害ライブのスケジュール

今月、『TERROR SQUAD』は、2回のライブに出演する。
28日は、同じく西横浜 EL PUENTE。盟友でもある、世界的バンド『Defiled』のレコ発に、花を添える。
その翌日には、多数の人気バンドが集結するフェスに出演予定だ。

「憎まれっ子世に憚る」企画は、今後も続く。「十五巡目」は、9月30日(土)会場はふたたび、西横浜 EL PUENTE。 しかも、初の無香害ライブと同じく『BAREBONES』が出演する。(BAREBONES / G.L.G / TERROR SQUAD)

読者の皆さんが来場の際には、お使いの日用品や香水を確認のうえ、フレグランス・フリーを実践してほしい。また、友人知人が参加するなら、リスクある製品を見直すよう、注意喚起をお願いしたい。
なお、28日は、出演者全員のパフォーマンスを最高に引き出すため、会場内禁煙も、併せてお願いしたい。

defiled.jpg

4月28日(金)『Defiled "The Highest Level" Release Party Gig』
Defiled / TERROR SQUAD / BASSAIUM、西横浜 EL PUENTE
この後、『Defiled』は 全国を縦断する。
問い合わせ先は、フライヤーを参照。チケットのおもとめには、サムネイルをクリックで開く画像のQRコードを利用できます。

4月29日(土)『渋谷メタル会フェス 2023』渋谷サイクロンorGARETTE


※本稿は、関係者の公開ツイートおよび投稿をもとに、情報を再構成したものです。

「6弦のカナリア」目次

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