【閑話休題】音楽とゲシュタルト崩壊
閑話休題ばかりですみません。
音楽配信などのコンテンツ配信で、権利元(著作権者など)から、
権利の許諾を得て、配信サイトなどにコンテンツを提供する業務を、
アグリゲーション(aggregation)
と言います。
また、そういった業務を行う人(会社)は
アグリゲイター(aggregator)
と呼ばれます。
「集める・まとめる」という意味ですが、何百、何千とある権利元を、
配信サイトが一つ一つ回るわけには行かないので、
こういった代理店業が成り立つわけですが、
日本の音楽配信でもいくつかのアグリゲーターが活躍しています。
特に、インディーズでは、メジャーに比べて、
・レーベル数が多い
・日本全国にある
などの理由で、アグリゲーターが渉外に入ることが多いようです。
実は私も最近、こういった業務をしているわけですが、
ひとつ、インディーズの音源に関して思うことがあります。
※これ以降では、インディーズを
「メジャーを目指す成長途中のアーティスト」という意味で使用しています。
それは、もったいないことに、
録音クォリティが低い
ということです。
インディーズながら、作詞・作曲、歌唱力や演奏テクニックに、
目を見張るアーティストはたくさんいます。
しかし一方で、明らかに録音のクォリティが低いものが多いのです。
テープであれば、録音クォリティが低いのはしょうがないのかなと
(ダビングを繰り返したのかな)と思うのですが、
最近はデモテープよりCDや音源データで聞くことが多いので、
やはりマスタリング、あるいはそれ以前の問題だと思うのですが、
画竜点睛を欠く、と感じてしまいます。
ProToolsなどによって、DTMが劇的に進化しているのも事実です。
自宅で、個人で、かなりのクォリティの楽曲(というよりCD)が作れます。
その一方で、スタジオエンジニアと呼ばれる職人さんの手を借りないことが、
本当に良いのかと疑問に思います。
確かに一から十まで自分で作るというのは、作品の一貫性や世界観という意味で、
意味があるのは否定しません。
しかし、音楽は、人に聴いてもらって初めて評価されるものです。
CD制作におけるレコーディングからマスタリングまでの作業は、
アーティストと聴き手をつなぐ、最後の仕上げだと思います。
心理学で、ゲシュタルト崩壊というものがあります。
ウィキペディア ゲシュタルト心理学
たとえば、「音楽」という字を、100回、紙に書いてみてください。
だんだん違和感を感じ、「音楽」という字が、訳の分からないものになってきます。
これをゲシュタルト崩壊と呼びますが、
レコーディングにおいても同様のことがおきます。
つまり、自分の作った楽曲を繰り返し聴いていると、全体感を失い、
いわば正常に判断することができなくなります。
(もちろん必ずそうなるわけではありません)
そこで、職人であるエンジニアの出番なのです。
彼らは、アーティストの楽曲・録音を、客観的に評価してくれる
いわば聴き手の代表なのです。
つまり、同じ曲を何度も何度も聴いて、
一時的に麻痺している(ゲシュタルト崩壊している)アーティスト本人に代わって、
冷静に、「一般の人が聴いたらコッチの方がいいよ」と、
客観的にアドバイスしてくれるガイド役なのです。
インディーズのCDにおいては、
(もちろん経費の問題があるのは分かっていますが)
このエンジニアの作業を経ていないものが目立ちます。
そういった音源は、残念ながらレコーディングしてCDになっていたとしても、
あるいはスタジオレベルの音源(24bit/96Kなど)でも、
配信など売り物にはならないというの実情です。
自分の録音を売り物として、配信したいアーティストがいらっしゃたら、
ぜひ覚えておいていただきたいことがあります。
それは、制作する(レコーディングする)数を減らしてもいいので、
きちんとエンジニアの方とレコーディングしてみてください。
それは、「お金をかけて」でも、やるべきです。
曲数が少なくても、きちんと仕上げたものは、「曲の良さ」が伝わりますし、
そのまま配信などの商業ベースに乗っていきます。
私見ですが、最近感じたことでした。
※もし「いいスタジオやエンジニアを紹介して欲しい」などございましたら、
ご連絡ください。できることはお手伝いします。