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iPhone vs Android vs SymbianOS。モバイル三国志の現状と未来予測

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「Webセクターの最新トレンドは『モバイル』『ソーシャル』『リアルタイム』で,そのリーダーがそれぞれiPhone,Facebook,Twitterである。またこの3大トレンド『ゴールデン・トライアングル』を連係したサービスが今後のWebをリードする」 

これは2009年10月11日にブログで記事化されたSeeking AlphaのFred Wilson氏の見通しだ。

Web Sector Megatrends: The Golden Triangle (Seeking Alpha 2009/10/11)

その直後の10月20日,サンフランシスコでWeb2.0サミットにおいて,モルガンスタンレーのアナリストMary Meeker氏が「最新トレンド『モバイル』の成長インパクトは極めて大きい」との発表が大きな話題を呼んだ。その的確なプレゼンピッチは今も世界中のブログメディアを駆け巡っている。

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同氏は,iPhone/iPodは世界史上最速で成長したハードウェアであり,これから来る「モバイルウェブ」の潜在市場規模を「PCウェブ」の10倍ないしそれ以上と見積もっていると述べた。

モルガン・スタンレーのメアリー・ミーカーが語る「経済は回復の見通し,モバイルは急成長,iPhoneは驚異」 (TechCrunch, 2009/10/20)

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実際にiPhoneの伸びは凄まじい。このチャートにあらわされているのは,発表後わずか3年で5700万台まで成長し,さらに加速を早めているiPhone/iPodの様子だ。中でも通信機能を持つiPhoneは飛ぶ鳥を落とす勢いで,そこに死角は見当たらないように見える。

■ Android旋風が巻き起こる

そんな華々しいiPhone成長の影で,Googleは虎視眈々とモバイル市場制覇のための布石をうち続けていた。

2009年10月6日,大手調査会社のガートナーが「2012年にはGoogleのモバイルOSであるAndroidがiPhoneを逆転し,SymbianOSについで第二位のシェアになる」との予測を発表し,iPhoneの圧倒的な成長を肌で感じていたモバイル関連業界を大いに驚かせた。

Android to grab No.2 spot by 2012, say Gartner (ComputerWorld, 2009/10/6)

続く10月15日には,Googleの決算発表においてCEOのEric Schmidt氏が「Androidへの普及は爆発的大普及の直前だ」と宣言し,最大級の自信をみなぎらせたのだ。

Androidの世界的普及は今ビッグバン寸前だ!, GoogleのCEOが声高らかに宣言 (TechCrunch 2009/10/16)

さらに10月17日,追い討ちをかけるように,Android2.0をベースにし,スペックでiPhone 3GSを上回ると噂される最強のAndroid携帯「Droid」がMotorolaから発表され,Androidファンを熱狂させた。携帯キャリアは米国でiPhoneのAT&Tに肉薄するチャレンジャーVerizonだ。

Droid登場―Verizon,Motorola,Google連合軍のAndroid携帯がiPhoneに挑戦状 (TechCrunch 2009/10/19)

DroidのティーザーCMではiPhoneに対する強烈なライバル心が表現されており,そのインパクトのためYouTubeでもバイラルしはじめた。

Verizon,『Droid』発売前のテレビ CM を開始し『iPhone』に対抗 (japan.internet.com 2009/10/20)

しかもDroidだけではない。Android24機種が世界中で出荷を待っているとのTechCrunch記事が発表されるにいたり,自信あふれるGoogle経営版の発言の裏づけともなり,Androidへの期待感が最高潮に達してきている。

各社Android機の世界的大洪水始まる: 全機種の仕様を表にまとめました (TechCrunch 2009/10/20)

■ 世界シェアにおけるiPhoneとAndroid

では,ここで実際の世界シェアはどうなっているか,前述モルガンスタンレーの発表資料より見てみよう。

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モバイルでは「携帯電話機としての普及台数」と「ウェブへのアクセスシェア」という視点の異なる指標がある。全社は携帯電話,後者はスマートフォンとしての指標であるが,電話市場はすでに成熟しているためこれから重要なのは後者のウェブアクセスだ。

ここで注目されるのはSymbianOSが「台数」ベースで49%と過半シェアを持つにもかかわらず「ウェブ・アクセス」ではiPhoneが65%と圧倒的しているな点。一方のAndroidも地味ながらSymbianOSを凌駕して急成長していることが見てとれる。

つまり電話としてのシェアが高いSymbianOS,スマートフォンとして最大シェアを持つiPhone,それを追いかける成長株Androidという三国志の構図が浮かび上がってくるのだ。

■ AndroidがiPhoneを逆転するシナリオ

ここからは筆者の見解だが,今後のiPhoneとAndroidのシェア争いを占う意味で,重要な天王山は3つあると考えている。

1.ポイントその1 「Android互換性の確立」

iPhoneの勢いは凄まじい。すでに機種としてもOSとしても三代目に入り使い勝手も完成の域に近づいている。またアプリも6.5万を超え,広くユーザーに親しまれている。

他方,Androidにおいては登録アプリ数では1万を超えたようだが,ダウンロード数などではiPhoneに遠く及ばない。

Android Marketのアプリ,1万本を突破 (ITmedia 2009/9/8)

目先のシェア争いで最大のキーとなるのがこのアプリだろう。つまりAndroidがオープンソースを武器にこの逆境を跳ね返せるかが焦点となるが,当面は機種ごとのアプリ互換性不備が障害となる可能性が高い。なぜならモバイル機器はPCと異なり,メーカー間の機能競争のためハードウェア仕様が多様化していくのが必然の流れであるからだ。

すでにAndroidデベロッパーから互換性に関する不満が噴出している。一機種で多くの収入が見込めるiPhone以上に魅力的なプラットフォームに成長させられるか,Androidにとって最も険しいハードルになるだろう。

決め手となるのは,Android陣営にiPhoneと比肩しうるシェアを獲得するリーダーシップ機種が生まれるかどうかではないだろうか。例えばDroidだ。仮にDroidが大ヒットすれば,多くのデベロッパーがDroidアプリを率先して開発しはじめ,他のAndroid採用メーカーもアプリ装備のためDroid拡張仕様を取り入れる可能性が高い。このように早い時期にデファクトスタンダード仕様を確立できるかどうかが第一のポイントとなる。

2.ポイントその2 「Google Voiceの脅威」

もう一つ見逃せないのは,Googleが普及させつつある「Google Voice」だ。これはiPhoneにとっては最も恐ろしいキラーウェポンであり,彼らが市場の避難を浴びながらGoogle VoiceをiPhone上から排除しようとしているのは必然といえるのだ。

具体的に説明しよう。Google Voiceは,Googleが提供する音声通信統合プラットフォームだ。例えばあなたがGoogle Voiceに登録し,Google電話番号を得れば,後は生涯にわたってGoogleが電話を最適処理してくれるというサービスだ。相手がその番号に電話すれば,携帯電話や家の電話,必要あらば職場の番号にも同時に呼び出し音がなる。留守だった場合でも完璧だ。Google Voiceは録音されたメッセージを自動的にテキスト変換し,あなたの望むメールに自動報告してくれるのだ。通信キャリアを変えても登録を変更するだけで番号をかえる必要はない。しかも国内通話料は無料!,海外通話もSkypよりも格安になるという驚きのサービスなのだ。(現在米国のみで提供中)

ここで大切なのは,Google Voiceがネットワーク外部性(ユーザーが増えるほど利便性が乗数的に増す特性)を持ったサービスだということだ。SymbianOSは電話,iPhoneはインターネットという既に成熟期に達したインフラ上を活用しているだけの端末であり,クリティカルマス(もしくはキャズム)といわれるシェア16%を超えても,常に後発に逆転を狙われる立場には変わりがない。しかしAndroidはGoogle Voiceというキラーソリューションを持っているため,首記ガートナーの予想通り成長し続けた場合,2012年以降には他の端末が追従できない爆発的な成長をするだろう。またその場合はGoogle Voiceが世界中に浸透しているため,その後の他社によるリプレースは極めて困難となる可能性が高いのだ。

iPhoneも当然その点は意識して戦略を練っているだろう。あくまで独自にGoogle Voice対応ソリューションを打ち出すか,AT&Tなどキャリアと連係するか。世界の個人情報を集約しつつあるFacebookと組んでGoogle包囲網を築く可能性すらあるかも知れない。ただしその手が遅れると,マッキントッシュ vs AT互換機の時と同様,オープン化の流れに駆逐されることになりかねない。

3.ポイントその3 「AndroidとNOKIA/SymbianOSと統合」

AppleとGoogleによる派手なスマートフォン・ウォーズが注目を集めているため影に隠れる形になっているが,搭載台数ベースでは49%のシェアを持つSymbianOSの存在は大きい。日本でもFOMAベースの富士通,三菱電機,シャープ等に採用されており,特にアジアとアフリカでは圧倒的なシェアを持っている。またSymbianOSのバックにいるのは携帯メーカーとして世界最大の影響力を持つNokiaである。

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この図は先のモルガンスタンレー資料の参照元のひとつ(真ん中の緑の棒グラフ)でもあるAdMobの2009年8月最新資料から引用したものだ。これによると,携帯メーカーとしてはiPhoneが27%,Nokiaが24%と,二大メーカーであわせて50%を超えていることがわかる。つまり今のメーカー勢力図が維持された場合,AndroidがいかにGoogle Voiceを切り札にシェアを伸ばそうとも過半数に満たないわけだ。そのためGoogleは独自スマートフォンを市場投入しiPhoneを追撃するという噂もあるが,最も現実的な選択肢は共にオープンソースであるAndroidとSymbianOSの統合だろう。仮にこの統合が実現すると,最下層のレイヤーである携帯キャリアの力は弱体化するとともに,第二階層の携帯メーカーとしてはNokia,第三階層のアプリはGoogle Voiceが最大勢力となり,Nokia,Googleともに大いにメリットを享受できることになる。

昨年も某アナリストによる統合観測がモバイル市場をにぎわしたが,いずれにしてもGoogle Voiceの影響力が業界再編のトリガーとなることが予想される。また仮にそうなった場合,iPhone vs Android の成り行きに決定的な影響を及ぼす可能性が高い。

■ 互換路線 vs 独自路線 勝者はいずれに?

ディファクト・スタンダードが至上命題となるIT業界において,独自路線(クローズ戦略) vs 互換路線(オープン戦略)は永遠に繰り返される対決構造だ。

日本においてもしかり。パソコンの歴史を紐解くと MSX vs PC88では独自路線の勝ち。DOS/V vs PC98では互換路線の勝ちだった。最近では mixi,モバゲー vs GREE のソーシャルゲーム・ウォーズがそれに該当する。

最激戦区のモバイル市場は,メイン・プレイヤーであるiPhone(Apple), Android(Google)を中心に,Symbian(Nokia)とWindows Mobile(Microsoft)が凌ぎを削る現代の三国志だ。iモードで世界のケータイを先導していた日本のプレイヤーがいつの間にか後塵を拝しているのは寂しい限りだが,これからはじまる壮絶な合従連衡の動向を,IT業界の一員として興味深く見守っていきたい。


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