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【顧客コミュニティを成功させる7つの秘訣】 ~ お客様を深く理解し,潜在的な心のスイッチを見つけ出す

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さて,成功の7つの秘訣,2つ目のテーマは,顧客の視点を明確にすることだ。

Fiskateers」の事例は,このことを端的に語る良い事例だ。

■Fiskateersの事例紹介
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バナーをクリックしない68%のユーザーにリーチする秘策【後編】

おさらいすると,Fiskars社は自社コミュニティを構築するにあたり,
 1.商品そのものより商品の使い方に着目し -- はさみではなく,スクラップブッキング
 2.顧客調査を通じてペルソナ仮説をたて -- 若い女性世代のクラフトマニア
 3.そのインサイトを深く理解し -- 同好の友人と交流し,作品をお披露目したい
 4.それを実現するためのコミュニティとコンテンツ -- 5人がリードするFiskateers
をつくりあげた。

このプロセスが成功の基本パターンである。
貴社においてどのように実現していけば良いか。もうすこし具体的に掘り下げてみよう。


1)コミュニティのテーマを選定する

商品そのものよりも,ユーザーは「その商品を利用して何をするか」「その商品によりどんな体験をしたいか」にフォーカスする。
特にコミュニティの場合は,ユーザー同士が交流することで付加価値が高まる,利便性が高まる,楽しみが高まるような分野を選定することが重要である。

2)ペルソナ仮説をたてる

続いて,貴社のロイヤルカスタマーの実像を深く理解することだ。
貴社内に十分なマーケティング調査結果がある場合は別だが,一般的には Fiskers社のとったアプローチ,ネット上のクチコミ(ブログやSNS,チャット等での会話)を収集し,典型的な顧客像の仮説をたてることをおすすめする。Fiskar社でも,調査前は「スクラップブック市場はベビーブーマー主婦が主婦が支えている」という誤ったペルソナ像を持っていたが,ネット調査によって「若い女性のクラフトマニア」と修正することができた。最初の一手を誤ると以降すべてのプロセスが無意味になるので注意したい。ネット調査に基づき,数パターンのアバウトなユーザー像(年齢,性別,居住地域とユーザーの深層心理)に集約させたら次のステップにすすむ。

3)仮説したペルソナ像に従い,インタビューを行う

仮説に従い,実際の貴社顧客の中から,典型的なペルソナにあてはまる顧客を抽出し,詳細なインタビューにご協力いただく。ペルソナ数とインタビュー人数は予算次第だが,最低でも3ペルソナ×5人=15人程度は必要だろう。このインタビューは顧客のホンネと深層心理を引き出す必要があり高い専門性を要するものだ。ヒアリングする内容は,学歴や職業,平日・休日の過ごし方,メディアとの接触,貴社ブランドとの接点,感想,困っている点,なぜ貴社ブランドを購入した/しなかったか,ネットや携帯の活用状況など,100項目を優に超えることが一般的である。

4)ペルソナとそのインサイトを設定する

このインタビューをもとにユーザーの真実の姿を探っていく。この集約過程は関係者一同が集まり,プロジェクトメンバーの共通認識とすることが望ましい。このペルソナ・インサイトの共有が,コミュニティ構築や運用,告知等に決定的に重要な共通テーマとなるからだ。このようなプロセスを経て,実際のペルソナ像とそのインサイト(潜在的欲求,商品購入にいたる心のスイッチ)を精緻にまとめあげていく。この際,インタビュー顧客の抽出やネット利用など,バイアスについても意識して集約することが必要である。

以上のプロセスを踏み,テーマを選定し,真の顧客像,その顧客が望んでいる潜在的欲求を深く理解することが大切だ。逆に言うと,この最も大切なプロセスを,思い込みや惰性で省略して,コミュニティの開発や運用に力点をおかれるケースがほとんどであり,失敗の原因となっている。出たしで勝負が決まるといっても過言ではない。

例えば,Fiskars社の例では,「スクラップブッキング」というテーマを選定し,メインペルソナとして「若い女性世代のクラフトマニア」,彼らの 「同好の友人と交流し,作品をお披露目したい」というインサイトを見出することができた。


ペルソナやインサイトという専門用語のため,難しく感じる読者のために,最近のわかりやすい事例をひとつご紹介しよう。NTTドコモの新ラインナップとそのCM「アンサーハウス」だ。それまでの機能を前面に出したアプローチと一線を画し,ライフスタイルで分類した4種類の世界観が印象的だ。このそれぞれのペルソナ像と,インサイトをあらわす「アンサーハウス」内の各部屋の特長を抽出してみよう。

Docomoanswerhouse


■STYLE(掘北真希) --- テーマカラーは水色
「たくさんの色に囲まれていたい」そんな思いからカラフルなものを部屋に埋め尽くしている。キレイなものを見ていたり,オシャレなものに触れていると,なんとなくそれだけで元気が出てくる20-30代の女性

■PRIME(松山ケンイチ) --- 黄色
「部屋とは,自分の個性のカタマリである」という信念に従い,好きなものを集めてレイアウトしている。身の回りのものも,他の人とちょっと違う,こだわりのアイテムをセレクトする20代の男性

■SMART(堤真一) --- 紫色
「部屋は完全にOFFになれる場所」という考えのもと,シンプルで落ち着きのある空間になっている。無駄なものは置かず,実用的だが上質感のあるアイテムで,大人の雰囲気を醸し出している30-40代の男性

■PRO(劇団ひとり) --- 黒色
本人は会社を立ち上げるために奔走しているが,インターネットをしたり,音楽を聴いたりと,部屋にいる時間も長いため,遊べるもの,楽しめるものを,たくさん集めて構成している20-30代の男性

CMだけではなく,Answer Factroy というウェブサイトでより深い顧客コミュニケーションの場が用意されている。ブランドイメージが確立するにつれ、秋葉原の電気街なら「PRO」、丸の内のオフィス街なら「SMART」と、店舗ごとの特色づけもされてきているようで,今後はすべての顧客接点においてこのペルソナが活用され,定着してゆくだろう。


さて,今回のテーマ,顧客コミュニティ構築7つの秘訣その2 「お客様を深く理解し,潜在的な心のスイッチを見つけ出す」についてまとめてみよう。

1.「商品そのもの」ではなく「商品の使い方」に着目し,コミュニティのテーマを選定する。ユーザー交流により付加価値の高まるテーマが望ましい。

2.テーマについて,ネット上のクチコミを利用して,貴社ロイヤルカスタマーのペルソナ仮説をたてる。

3.ペルソナ仮説に従い,顧客インタビューを実施し,顧客のホンネや深層心理,潜在的な欲求を深く理解する。チーム・ディスカッションを通じて,ペルソナとインサイトを発見する。以降,プロジェクトを通じて一貫してこだわり続けるべき共通目標とする。




なお,当社では,ワールドカフェ社と提携し,ネット上の調査からペルソナ仮説,インタビュー,インサイト発見までをコンサルティングさせています。ご興味ある方はご連絡いただけると幸いです。

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