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あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

論点出し、あるいは問いを立てる技術について

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いま書いている本の次か、次の次に書くかもなー、とぼんやり考えているテーマとして、「会議ファシリテーション中上級編」というのがある。
世の中にファシリテーション入門みたいな本はたくさんある。ウチの榊巻も「世界で一番やさしいファシリテーションの本」みたいなタイトルの本を出した。その後にも別な人が「世界一やさしいファシリテーション」みたいなのを出してて、どっちが世界一なんだよ!って突っ込んでしまった。

でも入門編の上ってあんまない気がするんだよね。
(僕は自分ではファシリテーションのノウハウ本を一切読まないので知らないだけかも。あーでも自分で書くならさすがに他の本は一通り目を通さないとなぁ・・気が乗らないのでこの企画ボツにするかも)

で、中上級向けの本を書くなら何がネタかなぁ・・とぼんやりと考えているのだが、その一つが論点設定だ。
ファシリテーション初級者が「お作法通りに場を仕切る」だとすると、そこからステップアップするになるにあたり1番重要なスキルなのだが、語られることが少ない気がする。
このブログではいつか本を書くための備忘として、論点設定についてつれづれなるままに書いていこう。(中上級向けなので、ファシリテーターとして経験がある程度ないと分かりにくいかも)

論点出しには2つの側面がある。
a)今なにを決めるべきか
b)それを決めるために何をどういう順番で議論すべきか
両方とも論点出しと言っていいのだが、a)の方が次元が上。プロジェクトを推進するための会議だとすると、a)はどちらかというとプロジェクトマネジメントの世界だ。プロジェクトに足りないこと、プロジェクトを進めるために欠けていることを察知する能力が必要だから。
a)さえ決まれば、そのテーマを構造分解するとb)が見えてくる、という感じか。

論点出しはファシリテーションの中核的スキルだ。
というのも、ある程度賢い人たちが集っているなら、適切な論点出しをしたらファシリテーターの仕事は6割終了だからだ。論点を上から話していくための司会進行だけすれば良いから。


先日社内のミーティングをファシリテーションする準備を手伝った時に話していたことを備忘的に列挙しておこう。
・元々話そうとしていたことは「会社のナレッジを無償で外部に提供する際、相手がNPOである場合に優遇するか?」みたいな話。
・僕が指摘したのは、NPO云々の前に、そもそも「無償貸し出しはどうあるべきか」に結論を出すべき
・それには以下6個の論点がある
①無償提供の結果、ケンブリッジになんらかの利益があるか/ないか?にこだわるか?
②ケンブリッジの有償サービスとの競合(≒公平性の担保をどうとるか?)
③これらを考える際、NPOは優遇すべきか?
などなど。
・NPOの話はそのうちの一つでしかない
・6個は多分この順で話すのが行きつ戻りつを最小化できる(ゼロにはならない)
・6個の論点それぞれに対して会社としての意思が明確になれば、「ナレッジ無償提供」についての原理原則は確立できる
・一度原理原則が確立できたら、個別ケースは自動的に意思決定できる

どんな話だったのか、ケーススタディとして丁寧に説明していないのでちょっと想像しにくいかもしれないが、この話には論点出しにまつわるポイントがいくつか内包されている。
1)会社としていま意思決定すべきことはなにか?が分からなければならない(前述のa)
2)大きな論点は小さな論点にブレイクダウンすべき(そうしないと話しにくい)
3)隣り合う論点をどこから話すかによって、会議の生産性が大きくことなる
4)全ての論点を最初に見せることで、参加者が配慮でき、生産性低下を防げる


さて。
論点出しに関して1番の問題は、どうやれば上手に論点出し・論点整理できるか?のノウハウを確立できてないこと。
例えば僕自身は比較的得意だ。
上記の6テーマは散歩しながら会議に参加していたので、メモも見ずに「1つ目はこれで・・」とペラペラ喋ることができた。
それを書き留めてもらって、順番を少し調整したら、それが話す際の最適な順番になっている。

とはいえ、もちろん適切にできないこともある。上記を1週前に話したときは、出来なかったので、同僚を少し混乱させてしまった。会議中Slackの返信とかしてたのかもしれない。
僕自身は得意なのだが、得意すぎて「ただ論点が思い浮かぶだけ」なのが問題だ。他人に教えられない。「だってこれ話さないといけないでしょ?そう思わない?」という感じ。
なぜその論点を優先的に話すべきかを問われたら、たいてい説明できる。でもその理由は100%後付けなので、なぜを説明しても、同僚が同じ様にできるようにはならない。

論点を見出すことと密接に関係している能力はリストアップ能力だと思う。これは前にブログに書いたが、仕事をする上でものすごく有用な能力だ。



論点出しを分かりやすく他人には教えられないが、いくつか分かっていることもある。

★論点出しのコツ①
まず、テーマについてある程度詳しくないと論点は出せない。
例えば「日本は経済安全保障をどうすべきか?」みたいなことを僕がファシリテーションするなら、最低でも本を3冊くらい読んで勉強しないと論点は出せない。

★論点出しのコツ②
テーマを知っているだけではダメで、そのテーマについて自分なりのオピニオンを持っている方が論点は出しやすい。
例えば前述の例だと「ナレッジを誤解して使われるのが心配。ナレッジを渡すなら丁寧にトレーニングを開催すべき。だから資料の無償提供はしたくない」という意見に対して白川ははっきり反対だ(そんな事言っていたら本なんか書けない)。
そういう自分のオピニオンを自覚すれば、「前にちらっとAさんがそういう文脈で反対していたから、それも一つの論点なんだな」と気付ける。

★論点出しのコツ③
自分のオピニオンをベースに論点を出したとしても、ファシリテーターをする上では、自分の意見は一旦棚上げしておく。
棚上げした上で、ファシリテーターとしてサラリと「こういう論点もあります」と言えばいい。

ケンブリッジでは「オピニオンを持たない人はファシリテーターとして中級以上になれない」と言われている。「どうですか?」と参加者に意見を求めるだけの司会者にしかなれない、と。
「どうですかファシ」という侮蔑的(自虐的?)な言葉があるくらいだ。
ともかく、「オピニオンはあるけど、論点出しの材料に使って、あとは自分の意見を一旦棚上げ」という姿勢がポイント。

★論点出しのコツ④
よくあるコンサルチックなフレームワークも時に有効。
フレームワークというのは、MECEに論点を網羅していることが多いから、論点出しの参考になる。
例えば戦略考えるときは、顧客と競争相手と、、、みたいな感じで、時にそれがそのまま論点になる。

僕自身は論点を考える際にフレームワークを眺める習慣はない。でもきっと昔どこかの本で読んだやつが頭に残っていて、論点を出す時に無意識に使っているんだと思う。

長くなってきたのでこんなところで。

うーん、下記終わって思ったのだが、これを読んだからといってできるようにならない気がしてきた。
スクライブ(ファシリテーション中に図解しながら議論を整理する)と論点出しと文章を書くことは、自分ではほとんど苦労せずにできるので、努力の過程も経験してないし、数少ない「自分ではできるけど教えられないこと」なんだよね。


*****関連過去ブログ
ファシリテーションと自分のオピニオンの関係は、ブログを書き始めてすぐに書いたことがあります。なんと11年前!

ちゃぶ台返しを防ぐ。あるいは非中立型ファシリテーション

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