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白川さんは敵なのか味方なのか・・・あるいは「顧客にとっての正しさ」とは?

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一緒に変革プロジェクトに取り組んでいるお客さんが、打ち合わせの後で「白川さんは敵なのか味方なのか・・・」と呟いていた、という話を人づてに今日聞いた。なかなか面白い。(本当は面白がっている場合じゃないのかもしれない。クビになる3秒前なのかもしれない)
今日はそれについてちょっと書いてみよう。


僕らが掲げているいくつかの価値観のなかにRIGHTがある。(写真はオフィスの壁に書かれたRIGHTの説明文)

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RIGHT
「お客様にとって、これがベストだ」と胸を張れることだけをする。
自社の都合ではなく、お客様にとっての正しさを愚直に考え、提言し、共に実行することが、私たちに誇りとエネルギーをもたらす。
正しさを追求できる環境の維持は経営のミッションであり、自分たちの利益、名声はその先にある。

僕らは20年来この価値観を大切にしている。今年「お客様にとって正しいことをする」という文言が入ったミッションステートメントを改訂しようとしたら反対運動が起きたくらいだ。(激論の末に、結局改訂はしたのだが)

ただこの「お客様にとって正しいことを」というある意味素朴な価値観は、結構厄介な論点を含んでいる。
まず、「正しいこと」ってなんだろうか?
正しいことや正義は唯一無二ではない。状況や文脈によって異なる。
そして「お客様」って誰のことだろうか?プロジェクトで机を並べ、一緒に働いてくれる方だろうか?それとも社長だろうか?はたまた会社は株主のものだから、株主のことだろうか?

例えば従業員をリストラをして利益を増やす施策を立案したら、どの「お客様」のためになるのだろうか?
これらが明確でない価値観を掲げても、もしかしたら何も言っていないのかもしれない・・。

それでもわざわざRIGHTを価値観として掲げることに意味はあると思っている。
状況に応じて、「何がお客様にとって正しいのだろうか?」と考え続ける姿勢は必須だし、自分が考えた「正しいこと」を口にすることがお客さんのメンツや自分たちの売上を潰すリスクがあったとしても、主張するべきだからだ。
「正しさを追求できる環境の維持は経営のミッション」という文言は、健全な財務体質を保つ責任を指している。会社が潰れる心配をしながらでは、正しいことを主張できない。そして「正しさを追求してお客さんに怒られたら・・上司に怒られたら・・」と社員が萎縮しない信頼関係を社内で作ること。


さて。
お客さんが呟いた「白川さんは敵なのか味方なのか・・・」の話にもどろう。
僕は彼の味方か?
答えはNoだ。
僕はコンサルティングをする際「法人としての顧客企業にとって何がベストか?」を判断の基準としている。
もう少し踏み込むと「顧客企業が長期的に利益をあげられるようになるために、何をすべきか?」を真っ先に考える。
したがって大変申し訳無いのだが、僕は一緒に仕事をする方々1人1人の味方ではない。だから僕が「お客様にとって、これがベストだ、と胸を張れることだけをする」と言った時のお客様は、「総体としての顧客企業」となる。


僕の考え方の対極として、「自分にお金を払ってくれた方の味方として振る舞う」というコンサルタントは昔からいる。
会社から予算を引っ張ってきて、自分たちに発注書をくれた人を「バイヤー」と言ったりするが、その人が実現したいことを支援するコンサルタント。「バイヤーが出世するのがコンサルタントとしての成功の証」と公言する人もいる。僕自身、バイヤーが役員から評価されるために、プレゼンテーション資料の代筆を求められたこともある。これも一つのプロフェッショナルのあり方だ。

コンサルタントになりたての頃は、こういうスタイルに憧れたこともあった。だが2年ほど考えた後に、それは僕が歩むべき道ではないと結論した。
まず「バイヤーのために」と思ってやる仕事は、部分最適になりやすい。例えばバイヤーの部門と隣の部門の利害が対立しているケース。この際バイヤーの部門が折れる方が全社最適だったとしても、そうは発言しにくくなる。結果としてコンサルタントが部分最適を導いてしまう。最悪だ。
そして「バイヤーのために」と思い過ぎると、バイヤーに反論しにくくなる。オピニオンを持たないならば、コンサルタントではなく単なる作業者(知的小間使)だ。

「白川さんは敵なのか味方なのか・・・」とお客さんが呟いたのは、きっとその方がガンガン進めようと思っていた施策に対して、会議で「一般論からすると、そこにはこういうリスクがあります」「むしろこういう進め方の方がいいんじゃないでしょうか?」と僕がブレーキを踏むような主張をしたからだろう。この時は結構強く言った。(逆に、アクセルを踏むような主張をするときもある。この時はブレーキが必要だと判断した)


僕が、バイヤーのやりたいことを支援するタイプのコンサルタントだったら、彼に反論することはありえない。意向に背くと切られるリスクがあるからだ(実際に僕はそのような経緯で仕事を失ったこともある)。

だが僕は「総体としての顧客企業」の味方なので、目の前のお客さんの意向と違うと分かっていても、自分が「これこそがお客様にとって正しい」と思うことを主張する。そうして議論した結果、どちらの主張に沿った方針になったとしても構わないし、議論の結果、もっと良い第3の方針が出てきたら、なおいい。


こんなことを公言すると「自分の味方になってくれるコンサルタントを雇いたい」と思っている方は、私たちに仕事を頼まなくなるかもしれない。それは仕方ない。
その代わりに、「とにかく会社を良くしたいんです」という方、「意見をぶつけ合ってプロジェクトの方向性を見出していきたいんです」という方とご一緒できれば、それで十分だ。

クライアントとコンサルタントの双方にとって、そっちの方がずっとハッピーだと思いませんか。


※念のため補足すると、「一緒に仕事をする1人1人の方々の味方ではない」と言っても、僕はプロジェクトをともにする皆さんのことは好きだし、ほとんどの方を尊敬している。もちろん彼ら彼女らがプロジェクトを通じてハッピーになったり、成長することも願っている。

さらに言えば、総体としての会社がよくなれば社員である彼らにメリットがあるのも当然だし、ほとんどの局面で「プロジェクトメンバーがやりたいこと≒総体としての会社が目指すべきこと」である。そういう状態を作るのが僕の仕事でもある。
一方でほとんどのウチの社員たちは、僕とは少し違って、「一緒にプロジェクトをやっている、この方々のために」という身近な思いが、日々頑張るモチベーションの源泉になっているようだ。
これはこれで尊い。

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