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なぜグーグルブックサーチの米国の和解結果が日本の著作権者にも影響を与えるのか

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賛否両論のグーグルブックサーチ訴訟の和解結果ですが、留意しておきたい点は、これは(米国の)著作権者団体とグーグルとの双方納得済みの和解の結果であるということです。たとえば、当事者のひとつである米国作家協会(The Authors Guild)の公式リリースでは、「この和解により絶版本から作家が収益を得る機会が得られた」という点が重要視されています。(なお、絶版本がいくらオークションで高値でやり取りされても通常著作権者の利益にはなりません(話題になるという間接的効果はあるかもしれませんが)。)

さて、この話が米国内だけで完結していればよいのですが、なぜ、日本の著作権者にまで影響があるのかを気にされている方もいるかもしれません。ブログ界では「なんかわからんけどそういう風になってるんだな」あるいは「よく考えれば当たり前なので説明の必要もない」という見方が多いように思えますが、気になって夜も眠れないw人もいるかもしれませんので、簡単に解説します。

米国の裁判の和解結果が日本在住の日本国民にも影響を与える理由が、ベルヌ条約であると説明されることが多いようですが、これは答の一部でしかありません(ベルヌ条約の条文をいくら読んでも答の残りは見つかりません)。答の残りの部分は(福井建策先生も書かれているように)米国特有のクラスアクション(集団訴訟)の制度にあります。

私もそれほど詳しいわけではないですが、米国では少数の代表者がきわめて多数の利害関係者を代表して訴訟を起こすことができます。判決(あるいは和解)は利害関係者全員に及びます(及ぼされたくない人はオプトアウト可能)。例としては、全喫煙者を代表してタバコ会社を集団訴訟とか、ジャネットジャクソンのポロリで精神的苦痛を受けたとして全視聴者を代表してテレビ局を提訴などがあります。基本的には、公害のように被害者をすべて特定することが困難である場合ですとか、多数の被害者がそれぞれ少額の被害を受けており、特定少数で訴訟してもメリットが小さいような状況を避けるというのが制度の趣旨です。

日本でも共同訴訟という仕組みはありますが、代表者は全利害関係者の委任を得なければならないので、あまり多くの人を代表して訴訟するということはできません。

で、今回のグーグルブックサーチの訴訟は全著作権者を代表したクラスアクションでした。そして、ベルヌ条約ではベルヌ条約締結国の国民は自国民と同等(以上)の保護をしないといけないという規定がありますので、このクラスアクションは、日本に限らず、全ベルヌ条約締結国の著作権者を代表したものということになり、その結果もこれらの著作権者に及ぶということになります。いわば、日本国内の著作権者はいつの間にかグーグルに対する訴訟の原告になっていたというような状況です(もちろん、事後的にオプトアウトは可能)。

他にも書きたいことがありますが、ちょっと仕事がたまってますので本日はこのくらいにしておきます。

追加: 上のお話しは、米国作家協会のサイトに掲載されている裁判所の正式通知(PDF)に詳しく記載されています(裁判所の公式文書にしてはわかりやすい英語です)。

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