クラウドコンピューティングは安上がりではない
「低価格」のクラウド・ストレージ・サービスとしてメジャーなAmazonのS3(Simple Storage Service)ですが、現時点における料金はストレージ1GBあたり月額15セント、つまり約15円です。安いようですが、1TBのデータを1ヶ月保管すると15000円、これ以外にデータ転送料に応じた料金がかかります。1TBのベアドライブの価格が1万円を割っていることを考えると決して安くはありません。
もう少し公平な比較として、1TBのエンタープライズ・ストレージについて考えます。構成によって容量あたり単価は大きく変わりますが、1TBあたり20万円とすればそれほど大きくはずれないでしょう。ハードウェア価格はTCOの30%程度という経験則を使ってTCO(総合保有コスト)を推定すると60万円。ライフサイクルを5年とすると月額10000円です。転送料金不要であることを考えれば、クラウドを使うよりもかなり安いです。しかも、WANを介さない分高速です。
クラウドを使えば常にコストを下げられるとは限らないことがわかります。毎日確実に通勤で車を使う場合に、毎日レンタカーを借りていればめちゃくちゃ高く付き、結局買うのが一番得であるというのに似ています。
一般に、クラウドの価値はコスト削減ではなく、資源所要量変動への迅速な対応などの俊敏性面でのメリットに求めるべきです。不況なのでITコスト削減のためにクラウドを使おうという単純な発想では当てが外れることが多いでしょう。
基幹系システムでクラウドがそう簡単には普及しないであろう理由としては、可用性や性能保証などのサービス・レベルの問題に加えて、コストの問題もあるでしょう。一般的な企業の基幹系システムは常に一定の資源は必要します。従量制のクラウドが有利な選択肢とは限りません。もし、社内にデータセンターを持ちたくない場合には、自社所有の機器をデータセンター事業者にハウジングしてもらえばよいのです。わざわざ従量制のクラウド・サービスを使う必要はありません(ハウジング・サービスもクラウド・サービスのひとつだよという考え方もあるかもしれませんが、それは単に言葉の定義の問題です)。
クラウドの普及により、IT部門にとっては、どういった場合にクラウドを使い、どういった場合に自社所有のIT機器を使うかというポートフォリオ管理の戦略が今まで以上に重要となってくるでしょう。