「機内雑誌症候群」について
米国のIT業界において"Airline Magazine Syndrome"という言い方があります。企業の(ITに詳しくない)CEOが飛行機で出張中に機内にある(非IT系の)雑誌で、「間違ってはいないが話を単純化しすぎ」のIT系記事を読んで真に受けてしまい、会社に戻ってからCIOやITマネージャーにとんちんかんな指令を出して困らせるというケースです。
「間違ってはいないが話を単純化しすぎ」の例としては、
- オープンシステムになればどのベンダーのハードウェアでも同じアプリケーションが動くようになる
- Java言語を使えばどのOSでも同じアプリケーションが動くようになるのでマイクロソフトの支配は終焉する(これは日本の高名な某(非IT)コンサルタントが昔言ってました)
- グリッドで多数の小型コンピュータを組み合わせれば大型コンピュータは不要になる
- IT技術者は中国やインドで雇えばよいので日本のIT技術者は不要になる
などがあるでしょう。大きな方向性としては間違ってるとまでは言えないのですが、現実の様々な課題を無視していたり、長期にわたるメガトレンドをあたかもすぐに実現するかのように言ってしまうことで(非IT系の)人には誤解を生じさせてしまうでしょう。
この手の話の最新のものとしては、
- ITは電力のようになり、自前の発電器を持つ企業が(ほとんど)ないように、自前のIT基盤を持つ企業はなくなる
というのがあるでしょう。ものすごく長期的に考えればそうなのかもしれませんが、10年レンジくらいで考えればあり得ないシナリオです。そもそも、IT=電力のたとえは、概念の理解には有効ですが、たとえはたとえでしかありません。ITサービスは、100V(あるいは200V)で60Hz(50Hz)の交流電力を送るということよりもはるかに多様で複雑です。
IT系の人であれば、こういう話を聞いても、たとえはたとえとして、長期的メガトレンドは長期的メガトレンドとして理解できるのですが、往々にして非IT系の人はこういう話がすぐにでも実現すると誤解してしまいがちなわけです。それが、"Airline Magazine Syndrome"です。
ただ、日本だと社長が飛行機で出張して、機内で備え付けの雑誌を読むというのはちょっとイメージしにくいかもしれないので、この言い回しはわかりにくいかもしれません。「クローズアップ現代」症候群と言えば、もう少しわかりやすくなるでしょうか(コラコラ)。