小室事件についてちょっとコメント
個人的にはかなり衝撃だった小室事件ですが、これは著作権の話ではなくて、詐欺の話ですよね。とは言え、著作権特有の事情が話を複雑にしているのは確かです。既にITmedia岡田記者が記事を書いてますが、ちょっと補足しておきます。
たとえば、このような詐欺行為を土地でやるのは困難です。土地には登記制度があるので、登記簿を見ればその時点での真の所有者が誰であるかわかります。だから、自分の所有でない土地や勝手に処分できない土地を売ったりしようとしても、登記簿を調べらればすぐわかってしまいます(ナニワ金融道にあったように、詐欺的行為で登記簿自身を改竄してしまえば別ですが)。
特許権にも同じような登録制度があります。そもそも、登録しないと特許権が発生しませんし、また、譲渡の時も登録が必須です。ゆえに、特許侵害の警告をかけられた時は、受け手側の弁理士(弁護士)は、まず特許原簿を確認すべしというのが大原則です(普通はないですがまれに権利が満了してたりするケースもあるようです)。
ところが、著作権は登記や登録のような手続きがなくても著作物の創作により自動的に発生します。著作権にも登録制度がありますが、これは権利関係を明確化するためのものであり、登録をしないと権利が発生しない、あるいは譲渡契約が効力を生じないというものではありません。
ということで、著作権の場合には当事者の契約により権利を譲渡しても、後になって、別の人が出てきて「その権利は既に私に譲渡されている」という可能性、いわゆる二重譲渡の問題があります。契約書は当事者間で閉じたものであり公示されるわけではないのでしょうがありません。
今回の件もそうですが、今や、著作権の取り引きは、土地や特許よりも大きな金額が動くこともあるので、登録が必須になってない現行制度はちょっと問題ありです。と言いつつ、無方式で著作権を発生させるべしというのはベルヌ条約に定められてますので、これを変えるのは立法論的にはかなり困難でしょう。