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【「イノべーションへの解 実践編」発売記念特集(4)】「用事」(ジョブ)モデル

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破壊的イノベーションとは直接関係ないですが、クリステンセンが提唱するもうひとつの重要概念として「用事」(ジョブ)モデルがあります。

ポイントは、

消費者は製品・サービスを「購入する」のではなく、自分の「用事」を片づけるために製品・サービスを「雇う」と考えよ

ということなのですが、ちょっとわかりにくいですよね。このような「イノベーションへの解」におけるクリステンセンの説明自体がちょっとわかりにくいのと、jobs-to-be-doneを「用事」と訳してしまったために、ますますこの概念がわかりにくくなっているかと思いますが、言っていることはきわめて当たり前かつ重要なことです。

ここのjobは日本語の訳出が困難で、「解決すべき当座の問題」みたいなニュアンスです。「用事」と訳すとちょっはずれますが「仕事」と訳すよりはましという感じです。いっそのこと「ジョブ」とカナ書き術語として処理してしまいたかった(ハーバード・ビジネス・レビューのクリステンセン翻訳記事では「ジョブ」としてしまってます)のですが、悩んだ末に『イノベーションへの解』に合わせました。

さて、この「用事」モデルのポイントですが、市場を分析する時に顧客の属性(年齢、性別、年収等)にフォーカスするのではなく、顧客が解決したがっている「問題」、そのような問題が発生する「状況」、そして、そのような問題を解決したがる「理由」にフォーカスせよという点です。

『イノベーションへの解』では、同じ人がシェークを買うのでも、通勤の退屈をまぎらわすために買うのと、子供連れでショッピングする時に子供をおとなしくさせるために買うのでは「用事」が異なる。ゆえに、それぞれの「用事」に対応した製品開発を行うべきだというような例が挙げられています。(車で)通勤中にシェークを買うというのが通常の日本人にはイメージが沸きにくいので、わかりにくいのかもしれません。

もう少しわかりやすい例を考えてみました。以前、私のAmazonのおすすめリストがカオスになっているとの雑談エントリーを書きました。今も、おすすめリストには知財の専門書、アイマス、80年代アイドルのCDが混在しています。これは、Amazonが私を50代既婚の一人の顧客としてしか認識しておらず、私の「用事」を認識していないことから生じたものです。ITアナリストとしての用事、弁理士としての用事、ミク使いとしての用事を正しく認識していれば、もう少しちゃんとしたおすすめができるかもしれません。

「用事」モデルは、最近注目されているペルソナ・マーケティングに近い点もあるかもしれません。

いずれにせよ、「用事」モデルと聞いても一瞬何のことだかわかりませんので、普及させるためにはもう少しキャッチーでわかりやすい言葉を考え出す必要があると思います。

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