「過剰満足」(overshooting)とは、企業によるイノベーションの速度が、主流ユーザーの受け入れ能力を超えてしまい、"too good"な製品・サービスが生まれてしまうことです。
『イノベーションへの解』では「オーバーシューティング」とカナ書きされていましたが、ちょっとわかりにくいので『実践編』では「過剰満足」としてみました。overshootingの本来の語義(「行き過ぎ」)を考えると「過剰品質」の方が近いのですが、overshootingの形態としては品質が良すぎるということだけではなく、たとえば、機能の詰め込みすぎなどのケースもあるので「過剰満足」と意訳しました(なお、(『明日は誰のものか』では「満足度過剰」とされています))。
「過剰満足」が生じるとせっかく企業が資源を投入して製品やサービスを強化してもユーザーがそれを評価せず、買い換えてくれなくなるという状況が生じます(まさに、今、マイクロソフトのWindows OSやOfficeで起きている状況です、Wii登場前のゲーム機で起きていた状況も同様でしょう)。
これはイノベーターにとっては、"too good"の性能を"good enough"に抑えつつ、別の観点で勝負をしかける絶好の機会になります。これが、「破壊的イノベーション」に他なりません。
と言いつつ、これは「言うは易く行うは難し」の典型と言えるでしょう。まず、「過剰満足」の兆候を早期に見つけることが困難です。市場全体が一気に「過剰満足」状態になることはほとんどないため、マニアックなユーザー層や御用アナリストの声だけを聞いて楽観していると、新参の破壊的イノベーターから攻撃されて気がついた時には既に遅いということにもなりかねません。『実践編』では「過剰満足」の早期発見の手法が事例と共に挙げられています。
また、仮に「過剰満足」を早期に発見できても、それを活用して「破壊的イノベーション」を行うこともまた難しい問題です。「破壊的イノベーション」を行うことで、そこそこうまく行っているビジネスが犠牲になるリスクがあるからです。クリステンセンの研究では、ほとんどの「破壊的イノベーション」において、新参プレーヤーが既存プレーヤーに勝つことが判明していますが、これは当然です。「失うものがない」方が強いということです。そう考えると任天堂がWiiで行なったイノベーションの価値がわかってきます。
なお、この「過剰満足」の問題は、ジェフリー・ムーアのコア/コンテキスト理論とも密接に関連しています。ムーアは企業活動をコア(差別化に結びつくもの)とコンテキスト(差別化に結びつかないもの)に分けて管理することを提唱しています。
コンテキストは本来的にはGood Enoughであればよい領域ですが、企業はそれをさらに良いものにしようとして無駄な資源を投入してしまい、結果的にコアに十分な資源を投入できなくなり、差別化が達成できなくなって長期的にコモディティのスパイラルに落ち込んでいくという状況が頻繁に見られます。(企業がコンテキストに過剰な資源をつぎ込みがちになのにはもっともな理由があるのですが、それについては『ライフサイクル・イノベーション』を参照してください^^;)これは、「過剰満足」問題を別の視点から見たものと言えるでしょう。
ところで、一般的に言って、Good Enoughになった特性をさらに改良しようとして資源を投入し、「破壊的イノベーション」の機会を見失うというのは日本企業に特にありがちなパターンではないかと思います。
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