「破壊的イノベーション」に関連した重要概念に「非消費者」 (nonconsumer)があります。「非消費者」とは何らかの理由により製品・サービスを消費しない(あるいはしたくてもできない)人々のことです。『イノベーションへの解』では「無消費者」と訳していましたが、何となく日本語としての収まりが悪いので、『実践編』では『明日は誰のものか』の訳語を採用して「非消費者」としました(いずれにせよ、収まりが悪いのはしょうがないですが)。
なぜ「非消費者」にフォーカスすることが重要かというと、消費してくれない理由を分析してそれを改善することで有効な「破壊的イノベーション」に結びつけられる可能性があるからです。消費してくれない理由としては大きく、価格、スキル、アクセスの利便性、時間などがあります。『イノベーションへの解 実践編』ではそれぞれの場合について具体的な識別方法を挙げて解説しています。
ITの世界では、たとえば、Salesforce.comが非消費者(大がかりなCRMパッケージを採用したくてもできなかったユーザー層)にフォーカスして成功した例と言えます。
「非消費者」の概念を一番わかりやすく説明するには、マーケティングの世界で大昔から言われている次のたとえ話を考えてみるとよいでしょう。
ある南の島に2人の靴のセールスマンが調査に行った。2人はそれぞれ結果を報告した。
セールスマンA「この島の住民はみな裸足です。靴の市場としての潜在性はゼロです。」
セールスマンB「この島の住民はみな裸足です。全島民が靴の見込み客というすばらしい市場です。」
「非消費者」にフォーカスするとはこのセールスマンBのような視点で考えましょうということに他なりません。
これは自明な考え方に思えますが、往々にして企業は自社のBest Customersの声だけを聴いてしまうことになりがちです。自社の製品・サービスを高く評価してくれて、ロイヤリティも高い顧客中心の戦略を進めていくのはきわめて有効な考え方のように思えますが、どこかのタイミングで過剰満足(オーバーシューティング)が生じて「イノベーションのジレンマ」へまっしぐらという状況になりかねません。
また、Best Customerだけに気を取られていると、競合他社に未開拓の市場を奪われてしまうリスクも増してしまいます(市場の既存リーダーが新規市場への進出に出遅れることが多いのはこのパターンが多いと思われます)。
『イノベーションの解 実践編』のクリステンセン本人による序文では、マーケティングの世界で一般に正しいと思われているが実は問題が大きいパラダイムをいくつか挙げていますが、その最初の項目が「Best Customersの声だけを聞いてしまう」というものです。わかってはいるが陥りやすい罠のひとつということでしょう。
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