栗原潔のテクノロジー時評Ver2:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 栗原潔のテクノロジー時評Ver2

知財、ユビキタス、企業コンピューティング関連ニュースに言いたい放題

過去4回のエントリーで以下のクリステンセン理論の重要コンセプトについて触れました。

  • 破壊的イノベーション: Too Good競争をやめてGood Enough+新機軸で勝負する
  • 非消費者: 製品・サービスを使っていない人にこそフォーカスする
  • 過剰満足: 製品・サービスがToo Goodになっている兆候を見つける
  • 用事: ユーザーにフォーカスするのではなく、ユーザーが抱える問題(と状況・理由)にフォーカスする

実は、ここまでが、『イノベーションへの解 実践編』の第一部までの内容です。クリステンセンのイノベーション関連著作のよいまとめになっているかと思います。

『イノベーションへの解 実践編』の第二部以降ではこれらのコンセプトをどう活用して、新規事業を成功させていくかという具体的方法論が述べられています。こここそが、本書のキモと言ってよいでしょう。以下にさわりだけをまとめておきます。

1.イノベーション・プロジェクトのGoの判断や優先順位付けは迅速に済ませる
 イノベーションによってまったく新たな市場を作り出す場合に、厳密な市場調査やROIの算定をやっていても意味がないばかりか時機を逸することにもなりかねません。過去の成功と失敗のパターンを分析してチェックリストを作り、どの程度成功のパターンにマッチするかを判断するとりいう簡便なやり方で安価な意思決定を行う必要があります。

2.前に進みながら考える
 イノベーション・プロジェクトでは最終的目的地が当初考えた時と異なっていることがよくあります。つまり、目標を厳密に設定してそこを一心不乱に目指すのではなく、進みながら柔軟に方向転換するという考え方が必要になります。これが、『イノベーションへの解』でも紹介されていた「創発的戦略」(emergent strategy)という考え方です(これに対して、あらかじめ定めた方向に最短距離で進もうとするやり方を「意図的戦略」(deliberate strategy)と呼んでいます)。

既知の市場で製品・サービスの段階的改良を行うような、つまり、答が既にわかっているような場合は「意図的戦略」が有効なのですが、未知の市場でイノベーションを行う場合には「創発的戦略」が重要になってきます。

「創発的戦略」で重要なのはプロジェクトをキャンセルするタイミングを逸しないことです。『実践編』では、プロジェクトの成功に不可欠な「仮説」をプロジェクト開始前に洗い出しておいて、プロジェクトの進行中に並行して仮説検証を行い、仮説が成り立たないことが明らかになったタイミングでプロジェクトを仕切り直すことを提唱しています。

いわば”Fail Fast, Fail Cheap”の考え方です。失敗するのは問題ないが、プロジェクトを中止するのが遅くなりすぎたり、失敗が明らかになったプロジェクトに余分な資金を投入し続けてはいけないということです。

ここから先は個人的見解ですが、スティーブジョブズのようなマーケティングの天才と呼ばれる人々は意識的か無意識的かを別にして本能的にこのような「創発的戦略」を実行していると思います。

ジョブズのようなカリスマ的なリーダーがいる場合には、組織はそのリーダーの「創発的戦略」に頼ることができますが、合議制でものごとを進めるような組織の場合にはなかなか難しいと言えます。結果的に、「誰もがこれは失敗するなと思っていても、誰も言い出せないままにプロジェクトがずるずる進んでいく」という最悪の状況になりがちです。本書で提唱されたフレームワークを活用することで、このような問題が多少は解決されると思います。

3.イノベーションの組織に自立性を与える
 最初に書いておくべきでしたが、本書の主なターゲットは地位を確立した大企業の新規事業開発部門です(もちろん、アントレプレナーや新興企業の方にとっても有用な内容ですが)。大企業におけるイノベーションの最大のポイントは、社内の「抵抗勢力」の力によって、革新的なイノベーションがいつのまにか保守的なものに変えられてしまうことをどう防ぐかという点です。『実践編』では、そのような問題を避けるための組織作りのやり方や評価指標(メトリック)の設定方法が論じられています。ここでこれ以上ネタバレを続けるのも何なので、後は本書を是非お読みください^^;)

栗原 潔

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栗原 潔

栗原 潔

株式会社テックバイザージェイピー(TVJP) 代表取締役 弁理士
IT、知財、翻訳サービスを中心とした新しいタイプのリサーチ会社を目指しています。

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