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契約自由の原則と下請けいじめについて

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自由主義経済の大原則として「契約自由の原則」があります。誰が誰とどういう条件で契約しようが(あるいは契約しなかろうが)当人どうしの勝手であり、行政は口を出さないという原則です。いやなら契約せずに、誰か別の人と契約するなり、それができないなら条件を呑めばよいという当然のお話しです。こうすることで、需要と供給のバランスから市場が最適の状態に落ち着くはずです。

とは言え「原則」ですから当然に例外はあります。特に、当事者間に立場の差がある場合は、人為的に制限を行う必要があります。典型的には企業と労働者間の契約です。企業が、1日12時間労働で休日なしという雇用条件で人を雇えば、仮にそれに応じる労働者がいたとしても労働基準法違反です。「双方が納得しているからよいではないか」「いやなら別の会社に行けばよい」と言ってもそれは通りません。

知財の世界で言うと特許法の職務発明の規定などが契約自由の原則の例外の例です。35条4項には以下の規定があります(例の青色発光ダイオードの裁判を契機に改訂された規定です)。

契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議 の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支 払うことが不合理と認められるものであつてはならない。

たとえば、職務発明の対価が1件につき一律5万円と決められており、それを従業員が承諾していたとしても、会社は会社に多大な貢献をした発明をした従業員にはしかるべき対価(何千万円のレベルになることもあるでしょう)を払う義務があるということです。会社側が「5万円でよいとサインしたではないか」「いやならもっと発明報奨金の高い会社に転職すればよいではないか」と言っても通りません(強硬法規に反する契約は無効)。

コンテンツ産業においても立場のアンバランスがもたらす問題点はよく聞かれます。私は現場のことはよく知りませんが、放送局の下請けいじめ、総務省が実態調査への記事にもあるように、もし、そのような実態があるのであれば、まずは行政指導、それでらちがあかなければ不公正な契約を禁じるような法律改正等も視野に入れた方がよいかもしれません。

レコード会社と実演家の関係も、少数の例外を除いては、労使間の関係や下請けとの関係と同様に、力のバランスがあるとは言えませんので、何らかの弊害が出ているのであれば、契約自由の原則だけに任せるのではなく、何らかの対策が必要と思います。

たとえば、手元にある専属実演家の契約書を見ると、実演家は著作隣接権をレコード会社に譲渡する契約になっています。なお、作曲家・作詞家がJASRACと信託契約するときも、著作権をJASRACに譲渡する形になりますが、契約を解消すれば元の著作権者に戻るようになってます(あくまでも、信託を行うための便宜上の譲渡です)。やっぱり実演家の立場って弱いんだなーと思ってしまいます。

ところで、契約自由の原則の話、および、その例外(労使関係等)は、高校の政経の授業で習う範囲のようです(Googleで調べてたらセンター試験の過去問が出てきました)。高校で政経を取っていない人もいると思いますので、念のために書きました。

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