オルタナティブ・ブログ > 栗原潔のテクノロジー時評Ver2 >

知財、ユビキタス、企業コンピューティング関連ニュースに言いたい放題

著作権に基づいて立ち読みを禁止できるのか?

»

ちょっと前に立ち読みについて書いたときに思い付いたネタですが、あくまでも架空の話です。あるマンガ家が「私のマンガを立ち読みされるのは身を切られるようだ。今後は、金を払って買った人にしか読ませない。立ち読みするやつは著作権侵害で訴えるぞ」と言ったとします。これは可能でしょうか?もちろん、立ち読みがモラル的にどうかという話、書店が店舗の管理者として立ち読みを禁止できるという話、立ち読みさせた方がビジネス的に得だ損だという話は別に考えて、著作権に基づいて立ち読みを禁止できるかというお話しです。

禁止できないと思います。理由は、著作権法には、複製をしたり、譲渡をしたり、上演したり等々をコントロール規程はあっても、読むことをコントロールする規定がないからです。

もう少し現実的な例として、マンガの著作者が漫画喫茶で自分の作品を読まれたくないからと思っても、現行法では禁止する手立てはありません(もちろん、漫画喫茶の経営を免許制にしてうんぬんとかやれば別ですが)。

そもそも、著作権法の基本的な発想として著作物をその本来の目的に沿って見たり、聴いたりすることに対するコントロールの規程はないのです。著作権法がコントロールするのは、複製、譲渡、アップロード、上映...等です。正確な言葉使いをすると、前者は著作物の使用、後者は著作物の利用として区別されています(ただし、普通の文章だと(私も含めて)結構言葉の区別がいい加減な時がありますが)。

言い換えると、著作権法は、著作物の利用はコントロールするが、使用はコントロールしていないということになります(ただし、未許諾で複製されたプログラムをその事情を知って業務上、未許諾で使用してはいけないという例外的な規程があります)。

これは、元々著作物の使用(視聴)等はコントロールできないという発想が根底にあるようです。たとえば、仮に、著作権法上、このCDの音楽を聴くことができる人はこの人だけですという制限ができるという規程があったとしても、部屋の外で聴いてる人(あるいは聞こえてしまった人)は著作権侵害だというのはちょっと無理があります。

これを踏まえた上で、現在検討中の「未許諾アップロードされた著作物のダウンロードを私的複製の範囲外とする」という改正案を考えてみると、ちょっと微妙なところがあります。コンピュータをちょっとでも知ってる方ならご存知のように、コンピューターの世界では視聴(使用)と複製(利用)の境界線が微妙だからです。動画をストリーミング方式で見ていても、キャッシュの複製は行われています。

ということで、ダウンロード側の規制を強めるというのは著作権法の「設計思想」から言うとちょっと特殊なケースだと思えるので、かなり慎重な対応が必要と思います。

ダウンロードに関する改正案については、26日に私的録音録画小委員会の中間報告案が公表されるようなので、それを待って書きたいと思います。

Comment(9)