栗原潔のテクノロジー時評Ver2:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 栗原潔のテクノロジー時評Ver2

知財、ユビキタス、企業コンピューティング関連ニュースに言いたい放題

#海外出張中で時間がないので手短にコメントします。

海賊版の商業的販売の防止を目的とした著作権侵害の非親告罪化(被害者の告訴がなくても控訴公訴できる)の検討が内閣知的財産戦略本部等で進行中です。これに対して、パロディ同人誌活動等が阻害されるのではと危惧する人々がブログ等で反対運動を展開しているのは周知かと思います。

この問題について、目的は海賊版の取り締まりなんだから文句を言う必要はないと主張する人々もいます。この点について法学の基本的なところから考えてみます。コンピュータの世界のたとえを使ってみましょう。

ソフトウェアやシステムの開発における重要な格言として"Don't fix it, if it's not broken"(壊れていないものを直すな)というのがあります。せっかくちゃんと機能しているものに手を加えると、往々にして予期せぬ副作用が生じて、システム全体の品質が低下するということです。

似た格言として"Keep It Simple & Stupid(KISS)"なんていうのもあります。余計な機能をできるだけ加えないで、システムをできるだけ単純にしておくことが重要ということです。

この二つの格言を守らず、レガシー・コードに対して長期的なアーキテクチャの整合性や副作用を十分に検討せずに機能追加をしていくと、いろいろなところで無理が生じて、システム全体の安定性やユーザービリティが低下するだけではなく、セキュリティ上の脆弱性が生じてクラッカーにつけ込まれたりします(特定のソフトウェア製品のことを言っているわけではありません(^_^;))。

法律についても同じことが言えると思います。

法律を改正するからには、法体系や法目的との整合性(ソフトウェアで言えばアーキテクチャ(設計思想)との整合性と言い換えられるでしょう)や様々な副作用について、代替案と 比較して考える必要があります。システム開発においてセキュリティの穴を作ってクラッカーに狙われないようにすることが重要なのと同様に、法律の穴を権力 者側に悪用されないよう注意することも必要です。利益よりもリスクの方が大きいと判断されれば改正はすべきではありません。

「海賊版業者は罰されて当然なんだからそういう規定を加えることに何も問題はない。反対するのは海賊版買ってる人だけだ。」というのはあまりにナイーブな主張だと思います。

知的創造サイクル専門調査会第9会において中山信弘東大教授が以下のような発言をされています。

特許権は先年、これを非親告罪にしたわけですけれども、非親告罪にしたから何か変わったかというと全く変わっていないんです。と いうのは、強盗や殺人ですと警察がすぐ動いてくれますけれども、知的財産権侵害というのは基本的には民事の話ですから、うっかり警察が動くともう民事は すっ飛んでしまいますから民事不介入が大原則で簡単には動いてくれません。親告罪にしようが、非親告罪にしようが、ちゃんとした証拠を持っていて、こうこ うこうですということを言わなければなかなか動いてくれないので、実際はほとんど影響ないのかなという気はいたします。  ただ、著作権は特許と比べますと侵害の範囲が広いというか、あいまいな面が多いわけです。翻案などがありますから、どれが侵害かわからない。窃盗などの 場合は窃盗犯は自分は窃盗をやっているということがわかっているわけですからいいんですけれども、侵害かどうかわからないというときに、しかも第三者が告 訴をして、仮に警察が動いてしまった場合にどうなるのか。権利者の方は、これは黙認しようとか、まあいいやと思っていても、実は第三者が告訴をするという 場合もあり得るわけです。特に著作権は近年では全国民的に関係を持っている法律になってきましたので、こちらの方は特許とはまたちょっと違って場合によっ ては弊害が生ずる可能性もあるのかなという気がいたします。  確かに親告罪だと6か月という制限はあるわけですけれども、別に告訴をしておいて後から証拠を出してもいいわけですし、知的財産の場合はそれほど大きな 問題はないのではないかと思います。それよりもむしろ何かマイナスの効果の方が大きいのではないかという気がいたします。


中山先生の言われることが常に正しいというわけではないですし、主張というよりは意見表明に近いのですが、少なくとも「非親告罪化に反対してるのは海賊版を売買している人と、被害者意識が強すぎる同人関係者だけ」という見方は適切ではないと言えます。

海賊版の取引を撲滅するという設計目標については異論はありません。しかし、その目的を実現するための実装にはいろいろな代替案があるわけであり、各代替案のメリットとリスクを十分に検討した上で現実的に最適な実装を選ぶ必要があります。その点では、立法プロセスもソフトウェア開発も同様です。

「非親告罪化→警察の取り締まり強化」と脊髄反射的に反対というのもどうかと思いますが、その一方で「困るのは海賊版業者だけだから、国と既得権益者代表の議論に任せておけばよいのだ」という姿勢にもとうてい賛成できません。


キーワード記事*

著作権知的財産

栗原 潔

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コメント
あああ 2007/05/24 18:34

事実関係は逆でしょう

・たけくま先生がデマを流した
・デマを転載し改正案を廃案にするように運動を呼びかけた
のに対し
・デマである旨の指摘
・デマまで流布して声高に反対する受益者は海賊版販売者ぐらいではないかと勘ぐられる

です。

yoppi 2007/05/24 19:41

どうやら竹熊先生の「釣り」のようですね。
日本にいる私から報告させていただくと、大勢のブログはそのような方向で収束しつつあるようです。

「著作権法の非親告化」法案の議論がややこしい方向に
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2007/05/post_9f20.html
著作権法の非親告罪化って話で釣られる人達
http://soulwarden.exblog.jp/d2007-05-22
著作権侵害の非親告罪化
http://bewaad.com/2007/05/23/124/
dankogaiさん、さすがにその物言いはどうなのかと思います
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2007/05/post_2332.html

yasu 2007/05/24 22:17

この深刻な問題が提起されると、必ずといっていいほど、それは釣りだとか、あたかも大勢の意見は逆だという誘導する書き込みが出てきますね。しかもその理屈が判でついたように同じ。

> 日本にいる私から報告させていただくと

この人は何を言ってるのでしょう。もしかして、栗原さんが海外出張中だから、日本の情報にアクセスできないと思っているのでしょうか…

yoppi 2007/05/24 22:32

>しかもその理屈が判でついたように同じ。
いやいや、そちらこそパターンが一緒ですよ。
1. 情報操作:新しい権利侵害犯への対抗という意義は隠蔽、職権濫用の恐怖だけ流布
2. 大勢の代弁者を振舞う:同人作家、2ちゃんねらー、P2Pユーザーの立場のふりをする
3. 美辞麗句の大儀提示:「自由な創作の場を守る」、「自由な言論を守る」
4. 有名人を味方につける:アルファブロガー、著名人らとの露出
5. 権威の証言:日弁連の反対意見、○○教授の見解
6. レッテル貼:議論せずに政府の犬、体制派と突き放す
7. 世論多数派を演出:同一意見の転載、自作自演などで同時多数露出

特にこの中では、6.が顕著ですね。

yasu 2007/05/24 22:40

> 日本にいる私から報告させていただくと、大勢のブログはそのような方向で収束しつつあるようです。


2. 大勢の代弁者を振舞う
7. 世論多数派を演出

yoppi 2007/05/24 23:31

ちょっと前にも似たような「盛り上がり」を見たことあったと思ったら、自転車が一定の場合に歩道を通行できるようにする法改正の時だった。
あの時も

・誤読しようがない趣旨と法案を、
・俺流法文解釈で「官僚支配を許すな」「危機感を持て」とか陰謀論同然に騒ぎ立てて、
・「いやそれは誤解なんですが」とお上から説明もらったら、
・「やった! 言質とった! 我らの運動の勝利だ!!」と一方的に宣言

というポカーンというかげんなりな流れであった。

nakuyouguisu 2007/05/25 12:44

控訴?

たけぽん 2007/05/26 02:05

だいたいこういう話は論争というよりはレッテルの貼り合いにしかならないのでどうにも気持ち悪い。
私的には非親告罪化でオッケーなひとの言ってることより陰謀論の方が解り易いし少なくとも濫用できないようにきっちり規定してあるべきであると思うのだがそこらへんが曖昧なままで「いやそれは考え過ぎでしょ」とか言われても説得力が無い。説得力がないまんまで何故か勝利宣言な感じなので益々胡散臭い。まあそもそも「騒いでる奴らは著作権侵害者」というレッテル貼りしてるだけなので頭から説得力とか考えないのかもしれないが。

何故親告罪のままでは海賊盤を取り締まれないのか、取り締まれない理由があるとして親告罪のままその原因を解決することは不可能なのか、そのあたりがどうにもよくわからないのですよ。

半日庵 2007/05/27 10:21

著作権侵害の非親告罪化というのはにわかには信じられないです。これをゆるせばあらゆるメディア関係者が警察の意図だけで逮捕拘留可能になりますからね。多くのメディアで反対の意見がでないのは不思議です。
なぜ警察の意図で逮捕できるかですが、気に入らない報道をしたものを著作権違反の名の下に逮捕した後不起訴にすればすみますからね。松本零士氏の件のように1フレーズでも似たところがあれば疑いが生じるわけですから、そのような表現は多くの記事を書いている記者ほど見つけることは容易でしょう。
疑いがあるからと何ヶ月も拘留取調べののち証拠不十分とかで開放するということであれば警察は何のおとがめも受けないでしょう。まあ、非難はあるかもしれませんが、これは言論に対する抑止力としては十分なものになるでしょう。


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