CDの物々交換サービスの適法性について
ユーザーどうしがCD等を物々交換できるサービスが始まりつつあります(参照記事1、参照記事2)。ネット上ではマッチングだけを行なって、CDの実際の交換は郵便で行なうという方式です。
米国では、lala.comという同じようなサービスがあります。物々交換が成立すると運営者側に手数料を払うしくみになっているのは共通ですが、lala.comでは収益の一部がミュージシャンに還元される仕組みになっているようです(還元先がクリエイターであって、レコード会社ではないところがポイント)。日本のサービスもせっかくならクリエイターへの還元という要素まで真似してほしいところです。
この種のサービスは、CDをリップしたMP3ファイルを交換すると著作権法上問題あるのならば、オリジナルのCDそのものを交換するならいいんじゃないのという発想で始まったのではと推定します。では、この種のサービスは著作権法的にどうなのかについて考えてみましょう(なお、著作権法をちょっとでも勉強した方にとっては当たり前の内容です)。
大前提として自分の所有物は、他人に売ろうが、あげようが、貸そうが、捨てようが原則的に自由です(「所有権絶対の法則」)。もちろん、「原則的に」と書いたように、それを禁じる別の法律や規定があれば話は別です。
著作権法においては、譲渡権という権利があり、音楽の著作物の複製物(要するにCD)を著作者(および著作隣接権者(=レコード会社))の許諾なく譲渡する(売る、あるいは、無料であげる)ことはできなくなっています。
しかし、権利者の許諾なしにCDを譲渡できないのならば、物々交換の話以前に、中古CD屋に自分のCDを売るにも権利者の許諾が必要になってしまいますよね。この辺は法律上はどうなってるのでしょうか?これは、法文に書いてあうお話ではなく解釈論なのですが、(チョットカンチガイスミマセン)一度CDが販売されてしまうと、その譲渡権はもう役目を果たしたということで消えてしまう(消尽と言います)と規定されています。権利者はCDを最初に消費者に売った段階で元を取るような価格設定をしているのだから、その後、中古市場を転々とするCDから何度も金を取る権利はもうないよという発想です。ということで、消費者が買ったCDについては譲渡権は消尽してますので、物々交換サービスは著作権法上は問題ありません。
映画DVDおよびゲームソフトについてはどうでしょうか?著作権法上は、ゲームソフトは映画の著作物と解釈されていますので、両者は同一に扱うことができます。ちょっとややこしい話ですが、映画の著作物では譲渡権ではなくて、頒布権という権利があります。もともと、映画の著作物(正確にはその複製物たる映写フィルム)というのは、まず、ロードショー館で上映した後しばらくしてフィルムが二番館に回されて、最終的には名画座にというような流通経路になってました(ゆえに、名画座に来る頃には結構画質が荒れたりしてました)。いったん販売したら、後は買い手がどうにでも処分できるというルールだと、映画会社は困ってしまうので、販売した後も流通をコントロールできるように頒布権という特別の権利が設定されたわけです。
ということで立法論趣旨から考えても、頒布権は譲渡権と異なり、最初の販売によっては消尽せず、ずっと残るとされていました。しかし、この点は、別に法律に明記されていたわけではなく、立法趣旨に基づいた解釈論だったわけです。
で、ゲームソフト会社等が「ゲームソフトは映画の著作物である、ゆえに、頒布権は消尽せずにいつまでも残っている、ゆえに、中古ゲーム屋がゲームソフトを許諾なく売るのは違法である」と主張して、ゲームソフト販売店を訴えたという有名な事件がありました。
この件は、2002年の最高裁判決により、「ゲームソフトは映画の著作物で頒布権がある、だけど、ゲームソフトは映画の配給フィルムとは違って、一般消費者に大量販売されるものなので、最初の販売で消尽する」ということで、中古ゲームソフトは自由に売買できるということになりました。映画のDVDについては何も言ってませんが、類推解釈で同じに扱えると思われます。
とそういうことなので、現行の著作権法下ではCD、DVD、ゲームソフトの物々交換サービスは一応問題なしと考えて良いかと思います。
ただ、CDを買ってすぐにリップして物々交換するユーザーばかりになってしまうと、業界的にどうなのよという話もあります。個人的にはこれは私的録音録画補償金制度でカバーするしかないのかなという気もします(異論もあるかと思いますが)。最善の策はレコード会社がより合理化を推進して、CDのダウンロード販売の価格を下げることかもしれません。