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著作権法における同一性保持権と「おふくろさん」について

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この話はいつか書こうと思ってたのですが、ちょうど良いネタがあったのでこの機会に書いておきます。「トクだね!」を見てたら、森進一の「おふくろさん」の作詞者が自分の作品を勝手に改変されたのはけしからんので、森進一にはもうこの曲を歌わせないと怒っているなんて話をやってました。私も初めて知りましたが、「おふくろさん」には別の作者(こちらも相当の大御所)による前奏(専門用語で言うとバースですな)があるそうです。これについて、本体部分の作詞者の方が怒っているという話のようです(何十年も前からバース付きで歌っているのに、何でいまごろ怒り出したのかという問題はありますが)。

番組中で弁護士の先生も言われてましたが、これは、著作権法上の同一性保持権に触れる可能性がなきにしもあらずです。著作権には財産権的な要素と人格権的な要素がありますが、日本の著作権法ではこの辺が明確にわかれており、著作者の権利=著作者人格権+著作財産権という構造になってます。単に著作権といった場合には、著作財産権のことを指すことが多いようですが、広義に著作者人格権も含めて著作権ということもあるようです。

一般的に、違法ダウンロードなんかで問題になる著作権とは著作財産権(狭義の著作権)の方です。一方、「おふくろさん」で問題になってる同一性保持権とは著作者人格権に属します。他人に著作物を勝手に改変されるのは元の作者の人格権の侵害にあたるということです

なお、著作財産権は他人に売ったりライセンスしたりできますが、著作者人格権は著作者に常に帰属します。音楽について言えば通常の作家はJASRACに著作財産権を信託しているので、誰でもJASRACに金さえ払えば音楽の著作物を利用できるわけですが、同一性を損なうような使い方をすると、作者自身から差し止め請求を受ける可能性が出てくるわけです。実際、こういう形で同一性保持権が問題になった例としては、PE'Zによる「大地讃頌」 の事件なんかがあります(有名な合唱曲をジャズ風にアレンジしたところ原曲の作者が抗議し、CDが発売中止になりました)。

同一性保持権の意義はわかる(追加: そういうえば以前のエントリーで生方氏のサウンドロゴの話を書きましたがここでも同一性保持権が争点になってました、これは妥当な行使だと思います)のですが、「リミックス・カルチャー」が進展する現在においては、あまり広い権利行使を認めるのはどうなのかとも思います。「ニコニコ動画で自分の映像作品にキャプションをかぶせられて同一性保持権を侵害された」なんて人が出てきたら困ってしまいますね。

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