私的録音録画補償金制度について
貸レコード屋からCDを借りて自分のCD-Rにリップして、CDを返却して、CD-Rの方を聴き続けるのは合法です(ばれないからOKという意味ではなく、法律的にOKです)(根拠は著作権法30条に規定された私的複製の権利)。念のために言っておきますと、そのCD-Rを他人にあげたり、売ったり、アップロードしたりすればもはや私的複製ではないので、権利者の権利を侵害することになります。
では、権利者は泣き寝入りかというとそんなことはなく、レンタル代の一部が貸レコード屋からちゃんと権利者に流れるスキームになってます。著作権者は当然著作権料を得ますし、著作隣接権者(レコード会社、実演家)は報酬という形で対価を得ます。ここで、権利者は貸与権という禁止権を有してますが、レコード会社や実演家の貸与権は最長でも1年で効力がなくなります。それでも報酬請求権は残ります(著作権法第九十七条の三等)。貸レコード店とレコード会社等との関係で言えば、旧譜については金さえ払えば自由にレンタルできるということになります。禁止権をある程度制限しても、金の流れは作れるという例です。
さらに、私的録音録画補償金制度という制度によって、CD-R等のデジタル媒体や録音機器の価格に補償金が上乗せされており、それも権利者に流れるようになっています。デジタル方式だとオリジナルと基本的に同じ複製が作れてしまうため、補償金により権利者に利益還元しましょうという考え方です。そういう意味で言うと、ちょっと前に騒がれたiPodやハードディスクへの補償金課金も問題は山積みですが、少なくとも検討の余地はあると言えると思います。運用上の問題はいろいろありますが、ユーザーから直接的に金を取らなくても金の流れは作れるというひとつの例です。
このあたりのスキームは、今後のネットでのコンテンツ配信を考えてみる際にひとつのヒントになるかもしれません。
ところで、雑紙や新聞の記事においても似たような仕組みがあります。日本複写権センターという管理団体があって、たとえば、コピー機の台数、社員数、年間コピー枚数(自己申告)に応じてた包括複写使用料を契約企業から徴収し権利者に還元してます。契約企業は金さえ払ってれば、いちいち著作権者の許諾を得ることなく記事を少部数コピーすることができます。
なお、朝日新聞等の新聞社やほとんどの大手出版社は日本複写権センターと契約しておりますが、日本経済新聞社は契約していません。したがって、仮に日本複写権センターと契約していても事前の許諾なく日経新聞の記事をコピーして会議等で使った場合には日経新聞社の著作権を侵害することとなります。別途、日経新聞社と契約を結ぶ必要があります。要は日経新聞とその他の新聞では扱いが違うということです。
また、日本複写権センターで許諾されるのは少部数のコピーであり、少部数とは20部以内であると規定されています。要するに、21部以上をコピーするためにはやはり著作権者の許諾が必要となります。
結局、たとえば、以下のような行為は仮に社内使用であっても著作権者の権利侵害となります。
- 日本複写権センターと契約してない企業が、出版社や新聞社の許諾なしに雑誌や新聞の記事をコピーする
- 新聞社・出版社の許諾なしに新聞記事・雑誌記事を21部以上コピーする
- 日経新聞社の許諾なしに日経新聞の記事をコピーする
セミナーの資料や会議資料に日経新聞の記事のコピーを入れてしまうケースや一般の新聞記事が入った資料を21部以上コピーすることなどはついついやってしまいそうなので注意が必要でしょう。著作権法において著作権侵害を非親告罪とするという、現在検討中であるらしい改正が万一行なわれたならば、このような違法行為はどんどん告発しようと思います(シニカルなジョークとして言ってますので念のため)。