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【思考実験】アーティストとリスナーをダイレクトにつなぐ未来のP2P(2)

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新音楽流通システムはP2Pなので誰でも自分の作品をアップロードできるようになります。著作権に基づく金銭請求権を主張する時は、自分のIDをどこかに登録する必要がある(そうしないと金の送り先がわからない)のでグローバルなレジストリが必要となるでしょう(これについては次回に解説)。

他人の著作物をアップロードして良いか(アップロード行為を著作者の禁止権の対象とするか)は、やや議論の余地があります。フランスのP2P合法化法案は、アップロードを自由にさせても結局ダウンロードに応じた対価が著作者に還元するからいいじゃんという発想であるかのように推定されますが、法の運用を考えるとアップロード(送信可能化・公衆送信)は禁止権のままでもよいかもしれません。前回述べたように、新譜発売の一定期間にのみに禁止権を与える選択肢もあるでしょう。

音楽ファイルが掲示板やブログからPermalink的にリンクできるようになります。リンクをクリックするとすぐにP2Pクライアントが起動して、(何らかの形で対価が支払われていれば)その音楽をダウンロードして聴けます。音楽があたかもブログのエントリーのように視聴可能になるわけです。音楽に対するソシアルブックマーク的な仕組みが普及するかもしれません(ちなみに、last.fmなんかはソシアル・ブックマーク的仕組みをネット・ラジオの枠組み内でやってます)。これにより、優れた人気のある楽曲は自動的にネットの中で広まっていきます(そして、権利者にもより多くの金が流れます)。おもしろいブログのエントリーに自動的にアクセスが集まるのに似てます。

クリエイター側も大金かけたプロモーション展開よりも、本当に人々に愛される曲を作ることにフォーカスした方が有意義であることに気がつき始めるでしょう。flog(fake blog)を活用したマーケティングも試みられますが、楽曲の品質が伴わなければすぐネット・コミュニティで看破されてしまうでしょう。評論家に金渡してほめてもらう戦略も効果的ではなくなります。ネット・コミュニティの全員がリスナーであり、評論家だからです。

ソシアル・ブックマークや特定のブロガー等の活動により、多くの人に親しまれるメガヒットだけではなく、ロングテール系の楽曲も埋もれることなく、世の中の人に知られることになるでしょう。「隠れた名曲を発掘するスレ」みたいなのが2ちゃんねるにできるかもしれません。隠れた名曲には、テール部分に留まるものもあれば、爆発的にヒットしヘッドに大化けするものもあるでしょう。ある意味、メジャーなアーティストもマイナーなアーティストもアマチュアも同じ土俵で勝負していることになります。

著作権管理の連携と対価のやり取りをどうとるかという課題はありますが、海外との楽曲の流通も大きく促進されるでしょう。日本の新人アーティストの楽曲がフランスでメガヒットみたいな現象が(レコード会社やメディアが大金かけた裏工作をしなくても)発生するようになるでしょう。日本好きの外人が日本の楽曲を紹介するブログでもやれば、そこがゲートウェイになってマーケットが広がっていきます。潜在市場が一気に十倍以上になるわけです。逆に、チベットの僧侶の歌声がいきなり日本のチャート入りしたりなんてこともあるかもしれません。歌詞の問題もネットの職人さんが対訳サイトを作ってくれることで有る程度は解消されるでしょう。

今まで述べてきた商業音楽の潮流とは別にもっと自由を強調するコミュニティも生まれます。両者は共存していきます。通常のソフトウェアとオープン・ソース・ソフトウェアが共存しているようにです。この自由なP2Pでは、直接の対価は想定せずに自由にコピーが可能ですが、氏名表示権だけは留保されることが多いでしょう。クリエイティブ・コモンズの世界です。仮にこれをオープン・ソース・ミュージック(OSM)と呼びましょう(意味通じないけど)。

アーティストがOSMの世界で楽曲を提供する同期には以下があるでしょう。1)純粋に音楽を作ることが楽しみでやってる人、2)商業音楽で金を稼いでいるが、自分のやりたいことをやるために採算度外視してやってる人、3)ライブのプロモーション活動として音楽ファイルは無料で配ってもよいと考える人。なお、ソフトウェアの世界で言えば、それぞれ、1)趣味や社会貢献活動としてのオープン・ソース開発者、2)ベンダーに所属したオープン・ソース開発者、3)ソフトウェア・ライセンスではなくサービス/サポートでビジネスを成立させようとするオープン・ソース・ベンダーにたとえらます。ちなみに、ジャズ・ミュージシャンの多くは3)のモードでしょう。

無料の音楽と有料の音楽が共存しているということは、よい緊張関係を生み出すでしょう。オープン・ソースの普及によってソフトウェア・ライセンスを収益源とするベンダーに良い意味での圧力がかかったことに似てます。有償にふさわしい品質を確保できなければみな無料のものに流れてしまうと言うことです。

次回は、著作権管理に必要な仕組みについて考えて(夢想して)みます。

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