放送のようで放送でない...それは何かと尋ねたら
ユーザーの好みの曲を自動的に選曲して流してくれるネット・ラジオのPandoraについて以前のエントリーで書きました。同様のサービス(アルゴリズム駆動型ネット・ラジオとでも言って良いかも)を提供している有名なサイトにlast.fmがあります。
last.fmもPandoraも目指すところは似ているわけですが、実装方法は対照的で、Pandoraが専門家が楽曲の属性ベースを構築するというWeb 1.0的なアプローチであるのに対して、last.fmはコラボレーティブ・フィルタリングやフォークソノミーなどのWeb 2.0的な集合知のアプローチで曲の選択を行っています。どちらが良いというわけではなく、それぞれ一長一短がありますので、今後はWeb 1.0的な方式とWeb 2.0的な方式の融合が進んで行くと思われます。
ところで、last.fmには日本向けサイトもあります。英語向けサイトと日本向けサイトの根本的違いは日本向けサイトにはネット・ラジオ機能がないということです。何でこうなるかというと、日本のネット・ラジオでは著作隣接権に関して権利者(要するにレコード会社)との包括契約ができなくなっているからです。
通常のラジオであれば、ラジオ局が著作権料(および著作隣接権料)をまとめて管理団体に払っておくと、ちゃんと作詞・作曲家やレコード会社に分配してくれます(この分配方式が本当に公平なのかという議論はありますが、それはまた別の話です)。
ところがネット放送の場合には、著作権法上は「放送」ではなく「自動公衆送信」(要するにオンデマンド配信)として扱われますので、著作隣接権については、包括契約ができず、個別に権利者(レコード会社)と契約を行う必要があります。これは、料金が高い安い以前の問題として非常にやっかいです。これが、日本でCDを流すタイプのネット・ラジオが普及しない(というか現実的にビジネスとして実施できない)理由です。
こういう問題を解決するために、(オンデマンド型の配信はまあしょうがないとしても)せめて一斉同報配信型の通信は(有線)放送とみなそうではないかと総務省がパブリック・コメントを出してます。そうなれば、市販のCDを流すタイプのネット・ラジオのビジネスはかなり容易になります。
これは当然の話であって、そもそも同じタイプの配信をしていて、間の経路が放送電波なのかIPなのかで著作権法上区別することがそもそもおかしいと言えます(オンデマンド型は権利者のビジネスにそれなりの影響を与えるのでまた別に考える必要がありますが)。
ここで問題になるのが、last.fmやPandoraのようなアルゴリム駆動型ネット・ラジオです。ユーザーごとに異なる曲を流しているので、全く一斉同報の放送ではないですし、かと言って、ユーザーが好きな曲を個別に指定して流せるわけでもないのでオンデマンド配信でもありません。♪放送のようで放送でない、通信のようで通信でない(ベンベン)(古過ぎる)という存在です。
放送と通信の融合にかかわる著作権(著作隣接権)の議論において、Pandoraやlast.fmなどのアルゴリム駆動型放送という存在が全く想定されてないのではと危惧しております。