栗原潔のテクノロジー時評Ver2:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 栗原潔のテクノロジー時評Ver2

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ソニーのロケーション・フリー・ベースステーションを顧客から預かり、海外等から試聴可能にするサービスが著作権法違反だとして、TV局側が求めていた中止の仮処分が東京地裁により却下されたというニュースです(参照記事)。

ご存じとは思いますが、ソニーのロケーション・フリーは自宅のテレビにベースステーションをつないでネットに映像を配信し、パソコンから試聴可能にする装置です。ベースステーションにつながったHDDレコーダーを遠隔操作することもできます。海外出張の時なんかに便利そうです。これを個人で使う分にはもちろん違法ではありません。

一方、同じこと、すなわちTV放送のネットへの再配信を不特定多数に対して商売として提供すると、放送局の送信可能化権を侵害することになってしまいます。

今回のケースは個人利用とも考えられます。かと言って、これを許してしまうと実質上不特定多数にTV放送を再配信するビジネスが成立してしまいかねないので微妙なところであります。

今回の地裁の判断は、ロケーション・フリー・ベースステーションの所有権は利用者にあり、かつ利用者しか試聴できないことが担保されているので著作権違反行為でないというものでした。TV局側は、知財高裁に即時抗告のようです。要注目です。

現在の著作権法は、歴史的経緯もあり放送(と有線放送)を特別扱いする規定ぶりになっています。しかし、放送であれ通信であれ動画データは動画データなので、録画しようが、蓄積しようが、世界中の任意の場所に再配信しようがやろうと思えばできてしまいます。テクノロジーだけで言えば、「放送と通信の融合」ではなく、「通信による放送の包含」が起きているとも言えます。こういう現状と法律とのずれはますます大きくなっています。この事件は、まさにそのようなずれが表に現われたものと言えるでしょう。

栗原 潔

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コメント
hal* 2006/08/07 15:41

>これを許してしまうと実質上不特定多数にTV放送を再配信するビジネスが成立してしまいかねない

ちょっと理由がわかりません。
僕はむしろ、(記事読む限りですが)このケースに著作権が及んでいると考えていた放送局の将来性に暗いものを感じました。
逆に、これが画期的だと言って今になって考え始める様なネット企業も大差はありませんが。。

それと、記事には機器の所有権が利用者にあれば…としてますが、かな~り恣意的なものを感じます。当然そのサービス態様も細かくチェックされているはずです。

↓今回の件に極めて近いケースだがサービス停止が命ぜられた例
http://j-net21.smrj.go.jp/news/law/column/050414.html

栗原潔 2006/08/07 16:05

建前上は、利用者が所有するベースステーションを管理してもらってることになりますが、実体は会費を払って再配信のサービスを受けていると取られる可能性があるということです。
それからリンク先のケースは複製権がからんでくるので、今回の件ではちょっと事情が異なります(時間があったら別途エントリーを立てて解説します)。
なお、このエントリーでは、著作権法はこうあるべきという立法論のお話しではなく、現行の著作権法ではこういう解釈が行われるだろうという解釈論のお話しをしていますので念のため。

hal* 2006/08/07 16:34

裁判所の判例データベースがリニューアルされたようで、早々にアップされていました。すごい!
まだよく読んでいませんが、「ベースステーションの所有権は名実ともに利用者にあり、」というくだりがあります。僕はこの“名実ともに”というサービス態様が重要だと思います。
複製権については、今回は債権者らが主張していないだけで、リンク先の件(エフエービジョンだそうです)も同様だと思いますがどうでしょうか。

PS.コメントさせて頂く時は異論の場合が多いですが、いつも楽しく拝読させて頂いております。念のため^-^;

栗原潔 2006/08/07 16:59

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060807104814.pdf
↑ここですね。
あと5分で外出しないといけないので読んでる時間がないですが、今晩にでも解説エントリーをアップするかもしれません。

栗原潔 2006/08/07 22:44

↑読みました。
まあ純粋に理屈で考えればそうなるだろうという決定です。ポイントは業者側がハウジングサービスに徹しているところでしょう(意識的にやっているのだとしたら、かなりの法律知識があると思われます。)しかし、これって「画期的」な判決で知られる高部眞規子裁判長だったんですね(松下-ジャストで松下勝訴の判決をした人です)。高裁でひっくり返されそうな予感。
しかし、高裁でひっくり返されるのであれば、どういう理屈でひっくり返されるのかについては興味津々です。

bn2islander 2006/08/08 01:16

はじめまして。この裁判ですが、高裁でひっくり返った方が現状ではスムーズに行くような気がします。もし、この判決が通るようなことがあれば、「利用者が機器を所有していれば、いかなるネット配信サービスにも著作権が適用されない」と言うことになるような気がします。著作者側は当然反発するでしょうし、行き着く先は著作権法改正、私的複製条項の見直しになるような気がするのですが、考えすぎでしょうか。

mohno 2006/08/08 02:33

ハウジングサービスに徹しないと隙を見せることになりかねない、という感覚はあったように思いますね。
> 利用者が機器を所有していれば、いかなるネット配信サービスにも著作権が適用されない
引き続き「個人用途(あくまでタイムシフト)」が基準でしょうから、“いかなる”とはいかないと思います。今回の件も、“実質的に”不特定多数への再配信を許諾することになるとみなされたら、反対の結果になったのでは?

SN 2006/08/08 09:01

素人のつまんない質問で恐縮ですが、“所有権”の時間分割でのレンタルって可能なのでしょうか。例えば7:00~8:00迄はAさん、8:00~9:00迄はBさんとか。そうすると1台の機器で複数の人が(この場合は同一時間帯は1名に限られますが)サービスの提供を受けることが可能になるのかなと。また機器を共同購入した場合、所有権は代表者1名に絞られるのか、それとも出資者全員に等しく与えられるのか、どうなんでしょうか。
#くだらない疑問で済みません。

gen 2006/08/08 14:15

 個人的には、本件に関していえば妥当な判断と考えています。従前からハウジングサービスに徹していれば侵害にはならないのではないかという議論はありましたので、本決定は、ハウジングサービスとして許される限界事例についての判断という点で重要といえるでしょう。ただ、判決文中の①〜⑤の考慮要素に見られるように、総合的に侵害主体性を判断していますので、本決定があったからといって、他の類似のサービスも適法となるというわけではないと思います。あくまで、本件限りの判断とみるべきでしょう。背景として、ロケフリそれ自体の適法性についてまったく争われていないという点も、結論を導く上での隠れた考慮要素だったと思います。
 なお、高部裁判官は知財の世界では大変著名な方ですので、影響力は大きいと思います。結論的に「画期的」と評される判決もありますが、当事者の争い方の問題という面が大きく、純粋に法律面のみでいえば堅実(若干保守的)という印象を抱いております。ただ、侵害主体性の拡大については比較的消極的な立場ですので、高裁で覆される可能性もないとはいえません。

>SNさん
 所有権そのものをレンタルすることはできません。所有権は譲渡するのみです。時間ごとに譲渡されるという構成も机上では可能かもしれませんが、おそらく誰か中心的主体(事業者など)に所有権があり、時間ごとにリースしていると認定されると思います。
 共同購入の場合は、特に指定がなければ通常は購入者全員の「共有」になると思います。各購入者は、購入物の「持分」を取得します。ただ、契約などで定めておけば、代表者の単独所有として、それを各購入者に利用許諾する(貸与する)という構成も可能でしょう。

mansel 2006/08/08 14:18

↑確かに、そうですね。
「所有」が良いのなら「レンタル」がダメという理由はないのでは? 機器を1週間だけ借りて利用しても、それが個人利用なら著作権侵害ではないような気がします。
機器の共同所有は、「実質的」に考えて、2-3人までならOKだが、それ以上ならば実質的にサービス業者が送信しているのと同じだとみるのでは?

栗原潔 2006/08/08 18:41

本件は、自動公衆送信(要するにオンデマンド配信)の送信可能化権について争われているのですが、著作権法で公衆とは「不特定」または「特定多数」を指します。
したがって、共同所有者が2-3人であっても、誰もが共同使用者になれるという状況では「公衆に送信」していると解釈されるでしょう。


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栗原 潔

栗原 潔

株式会社テックバイザージェイピー(TVJP) 代表取締役 弁理士
IT、知財、翻訳サービスを中心とした新しいタイプのリサーチ会社を目指しています。

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