事業立地が大事、という話
»
必要に応じて市場で買えるものは戦略と縁がない。見えざる資産は、形成するのに10年、20年とかかる一方で、いったん形成されたものは多重利用が可能であるため、戦略性を帯びるのである。そういう資産を地道に形成するために、眼前の利益を追い求める誘惑に抗する術を持つことが企業経営の要諦となる。
― 三品和広 『戦略不全の因果』 p111、東洋経済新報社 2007年
この本では、見えざる資産は「対外信用残高」と「内部技能蓄積」に分けて定義されています。まるまる個人にも当てはまりますね。
ただ、この本が恐ろしいのは上記の引用文の次の文章。
ただし、そういう見えざる資産すら、その内実は事業立地の選択を前提とする。
― 同上、p112
事業立地とは「誰を相手に何を売るか」というフィールドのこと。この本が定義している言葉です。企業の浮沈を決定する因子は、他の何よりも事業立地の選択であるというのがこの本の主なメッセージ。ダメな事業立地の上にいくら見えない資産を築いても、それは砂上の楼閣よということです。ハッとする研究ですよ、これは。
おまけに、立地には寿命があります。本書によれば、よく言われる「企業の寿命は30年」という説は、企業を事業立地に置き換えた方が状況をよく説明できます。
個人に引き寄せて考えると、いろいろな示唆が得られます。
- 事業立地が痩せてしまうと、個人の努力ではいかんともしがたい。自分のビジネスが属している事業立地の寿命をよく見極めること。
- 我々の職業人生は明らかに30年よりも長いのだから、1回以上は事業立地の危機に襲われる可能性を覚悟する必要がある。
- 事業立地が無くなれば転地を試みることになる。見えざる資産(ひらたく言えば、人脈とスキル)は事業立地の上に築かれているので、転地によって見えざる資産をも失うことになる。
- 事業立地は不連続なものではない。「誰に」「何を」売るかという両方の軸を少しずつずらしていくことで、新しい立地を見つけることができる。
SpecialPR