プロフェッショナル・アントレプレナー 成長するビジネスチャンスの探求と事業の創造
この本のスタンスは、下記に端的に表現されています。
…成功する起業家に共通する特性を見つけ出そうと、過去何十年にもわたって学術的な研究がつづけられてきたが、実際にそんなものは存在しなかった。(略)
起業に関する学術研究によれば、ビジネスチャンスがベンチャー企業の業績に与える影響があまりにも大きいため、起業家の特性の違いなどはほとんど意味がな い。どんな事業を始めるにせよ、優れた起業家であるに越したことはないが、本当に重要なのは有利な事業を選ぶことである。
実際、事業の選択は結果にどれほど影響を及ぼすのか。たとえば成功したベンチャーを産業別に分類してみると:
たとえば、新しく設立されたバイオテクノロジー企業がインク500に掲載される確率は新規開業のレストランより二六五倍も高く、ソフトウェア企業にいたっ てはホテルに比べて八二三倍も高い。要するに、平均的な起業家によるベンチャー企業が、急成長の非上場企業や新規上場企業に育つ確率は、産業によって大き な差があることを示している。
見方を変えれば、この数字の違いを直視できることが起業家に必要な特性と言えます。
テクノロジー分野で起業家として成功している人は、他の起業家とは異なった行動をとっている。それは、他の人に比べて頭の回転が速いとか、ユニークな発想をするとかではない。彼らは、価値のあるビジネスチャンスをいかに発見するかを知っているのである。
肥沃な土地の見つけ方
本書は、上述の考え方に則り、テクノロジー分野で「肥沃な土地を見つける」(原題の直訳)ためにどうしたよいかを「10の鉄則」としてまとめています。
第1の鉄則 有利な産業を選ぶ
第2の鉄則 価値のあるビジネスチャンスを発見する
第3の鉄則 テクノロジーの進化を制する
第4の鉄則 本当の市場ニーズを発見し、それを満たす
第5の鉄則 購入者の意思決定と、市場力学を理解する
第6の鉄則 既存企業の弱みにつけ込む
第7の鉄則 知的財産を管理する
第8の鉄則 イノベーションの利益を専有する
第9の鉄則 最適な事業体制をとる
第10の鉄則 リスクと不確実性に対処する
章立てもこの鉄則に沿っています。各章にはチェックリストと「まとめ」があり、結びでダメ押しのまとめがあります。
監修者の方がまえがきで述べられているとおり、個々の鉄則は「どれも広く知られているコンセプトばかり」です。しかし、これらの宿題を粛々とこなすことがいかに難しいか。
起業前の方にとっては「夢のない本」に感じられるかもしれません。一方、事業を始められた方にとっては、「やっておくべきだった宿題」が発見できると思います。
また起業とは関係なく、いま自分が携わっている事業の先行きを考えたり、派生事業を考えたりする際にも有用なフレームワークを与えてくれるはず。
(他サイトに掲載した書評を転載しました)