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SIビジネス:アフターコロナの3つのトレンド

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コロナ禍がSIビジネスの事業環境を大きく変えてしまった。そんな変化の中で、SIビジネスは、次の3つの変化を強いられることになるだろう。

お客様がSI事業者の競合になる

既存の業務を支えるIT、すなわち基幹業務やそれに附帯する需要が直ちになくなることはない。しかし、この領域の需要は、効率の追求であって、「少しでも安く」が正義となる。従来のやり方を続けていては、工数は稼げても利益を出せない事業になってしまう。

この領域は、既存の業務を改善することなので、予め何をすればいいのかを、お客様と合意できるので、外注も容易だ。そんな事業領域で新たなビジネスの可能性を見出すとすれば、「工数ビジネス」を徹底して効率化するために、手順や方法論を見直し、高い利益率を維持するための取り組みを進めるべきだ。あるいは、モダナイゼーション、クラウド移行、自動化など、お客様の支出を低減させることを目的とした取り組みとなる。

一方で、事業を変革するIT、すなわち、デジタルを駆使した新規事業や業務プロセスの変革は、需要を伸ばすだろう。しかし、こちらは、収益の拡大や事業の変革を目指すことになるので、事業部門が主導して、内製化をすすめる領域だ。

何が正解かが分からない中で、デジタルを前提に、新しいビジネス・モデルを作る、働き方を変革することになる。そのため、お客様が自ら主導して、試行錯誤と改善を繰り返して、最適解を探索しなければならない。これは、前者とは違い、予め要件を決められない。事業部門が、自らが開発や運用に直接関与してゆくことになる。

そんな事業部門が求めるのは、圧倒的なビジネス・スピードと投資対効果だ。自社内に内製チームを作り、必然的にアジャイル開発、DevOps、クラウドを前提に、サーバーレス、コンテナ、マイクロサービス、ローコード開発などの「モダンIT」を駆使することになる。

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そうなると、これまでの「受発注型取引」では仕事にならない。だから、彼らの内製化を支援する「共創型取引」となる。それができなければ、お客様と競合になることを覚悟しておく必要がある。

組織ではなく個人の価値が重視される

「共創型取引」の前提は、組織力ではなく、個人力だ。お客様のチームの一員として、圧倒的な技術力を求められる。

あえて、「圧倒的」としたのは、お客様のチームメンバーと同等では、わざわざ外部に人を求める必要はないからだ。高度で先進的な技術やノウハウ、お客様にはない視点や捉え方、広い人脈やファシリテーション能力やコミュニケーション能力など、チームにいてもらうことが、是非とも必要であると感じさせるオーラが必要であろう。

なにも何でもできるスーパーマンを求めているわけではない。専門領域に於いて、圧倒的なスキルや知識を有していることが必要だ。もちろん、内製化支援となると、前節で述べたような「モダンIT」のスキルは必須であろう。

お客様の期待は、「決められた仕様を、組織力を駆使して、QCDを守って納品すること」から、「チームメンバーの一員としてビジョンとゴールを共有し、一緒になって試行錯誤を繰り返して、ビジネスの成果に貢献する」へと変わる。その期待に応えるには、モダンITを前提とした、個人力が求められる。そのような人材を育てるには、基本的な教育は当然のことだが、共創の経験を積み上げられるような、組織や事業戦略、業績評価基準の見直しが必要となるだろう。

世の中はデジタル企業を目指す

  • IT企業とは、ITリソースを提供する企業
  • デジタル企業とは、ITを前提に事業の成果に貢献する企業

先日のブログで、IT企業とデジタル企業の違いについて詳細に述べたので、そちらをご覧頂きたい。

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デジタル企業を目指す事業会社には、ITスキルが乏しいので、SI事業者やITベンダーに補ってもらうという従来の構図が成り立たない。一方で、彼らにとっていちばん大切なことは、ビジネス・スピードだから、それを加速してくれるのなら、そこに需要はある。

前節で紹介した圧倒的な技術力を持つ個人も、そのために必要となる。また、デジタル・ビジネスを実現する上で必須の機能を提供してくれるプラットフォーム・サービスの需要も、需要を拡大するはずだ。

あるいは、SI事業者自身が、持てるITスキルを駆使して、新しい顧客を作るデジタル・ビジネスを立ち上げるのも、1つの選択となるだろう。

いずれにしても、デジタルが前提の社会になっていくわけだから、このトレンドは、なにも特別なことではない。動きの遅い企業と早い企業があるだけであり、ほとんどの企業は、デジタル企業を目指すことになるだろう。

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いずれのやり方をするにしても、SI事業者は、積極的に、お客様の事業、あるいは、ITを売る以外の新しい事業に関心を持ち、それに取り組んでいく必要があるだろう。

「これは、DX事業である」とか、「今期は、DX案件を増やそう」などと、言葉遊びに終始する愚は、そろそろ辞めにしたほうがいい。むしろ、ここに紹介したような、本質的な変化の底流にどう向きあうかを考えてみてはどうだろう。そうすれば、それが結果として、自分たちのDXになる。そして、その経験とノウハウが人を育て、これからの需要に応えるビジネスを生みだすだろう。

【図解】コレ一枚でわかる最新ITトレンド 改装新訂4版

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2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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