銀行業界におけるSIerの勢力図を知っていますか?
金融業とITが一体化してからすでに久しく、いまや、あらゆる金融決済業務はITシステム無しでは語れません。私たちの生活に最も身近な銀行業界も例にもれず、東日本大震災の義援金口座トラブルの際には、お金のやりとりが滞って多大な影響を受けた方も多かったと思います。
これほど重要な業務を支えるITシステムとなると、その開発や維持には多大なコストが発生するもので、日経コンピュータ(2010年4月14日号)によれば、100億~200億(オープン系~メインフレーム)の初期開発費用が発生すると述べられています。
10年以上前までは、こういった銀行の根幹を支える勘定系システム(預金・貸出・為替業務を支えるシステム)を独自開発する銀行は多く、これの開発を得意とする国内SIerの一部は「メインフレーマー」と呼ばれ、カスタムメイドを重ねに重ねたシステム維持運用を当たり前のように提供していたのです。
しかし、業務の集約・標準化によってコスト削減を目指す動きは銀行業も例外ではなく、巨大なシステムを各銀行が個別運用することを「ムダ」と捉えて共通プラットフォームとしての勘定系システムを提案するSIerが登場したことで、規模が比較的小さい地域銀行などがこの流れに乗り始めています。
その結果、今日では地域銀行105行のうち70行(なんと70%超!)が自前の勘定系システムを持たずに、共同システムを利用しているのです。
他に信用金庫やネット銀行などを含めると、共同利用形態を採用しているところは多く、日銀金融機構局の「システム・プロジェクト管理とシステムの共同化」、およびインターネット上の情報を集約すると、以下のとおりになりました。
※()は開発中の銀行
※2011年6月時点
【NEC】
・BankingWeb21
→八千代、三重、(沖縄)
※愛媛、東日本、大光、トマト、高知、大東、びわこは採用撤回【NTTデータ】
・BeSTA(地銀共同センター)
→京都(リーダー行)、青森、秋田、荘内、岩手、千葉興、北陸、福井、池田、愛知、鳥取、四国(大分、西日本シティ、足利)
※Banking application engine for STandard Architecture・MEJAR(三行共同利用センター)
→横浜、北陸、北海道
※BeSTAベース
※Most Efficient Joint Advanced Regional banking-system・STAR-21
→仙台
※STELLA CUBEへ移行予定のため、廃棄可能性あり・STAR-ACE
→東北、都民、富山、但馬、神奈川、長野・STELLA CUBE
→STAR-21/ACE参加行
※北都、荘内は移行検討中
※BeSTAベース・SBK
→福岡中央、佐賀共栄、長崎、豊和、宮崎太陽、南日本
※システムバンキング九州共同センター・JASTEMシステム
→全国JAバンク
※JA bank SysTEM・信用金庫共同システム
→全国290の信金のうち、250超が参加【日立】
・NEXT BASE
→北日本、栃木、トマト、徳島、香川、高知、(中京、大光)
→イオン銀行 ※上記6行とは独立運用
※新銀行東京、あおぞらは採用撤回
※Hitachi NEXT BAnking Solution for Excellent regional banks
※BeSTAベース・Banks'Ware(NEXTSCOPE)
→山陰合同、肥後、みちのく・BCS
→泉州、鳥取、大正
※バンク・コンピュータ・サービス【日本IBM】
・Chance
→常陽、百十四、十六、南都、山口、(もみじ)
※三菱東京UFJ地銀共同化システム
※足利は採用撤回・Flight21
→広島(リーダー)、福岡(リーダー)、親和、熊本ファミリー
※広銀・福銀共同システム・じゅうだん会
→八十二(リーダー)、山形、筑波、武蔵野、阿波、宮崎、琉球・TSUBASA
→千葉、中国、第四、伊予、北國
※サブシステムのみ・NEFSS
→住信SBIネット
※スルガ、東京スターは開発中断
※Javaベース【日本ユニシス】
・Bank Vision
→百五、十八、筑邦、紀陽、佐賀、山梨中央、鹿児島
※Windows上で稼働・OpenE'ARK
→福岡、肥後、山陰合同、みちのく・BankStar
→セブン・ACROSS21
→きらやか、福島、大光・BankForce-NE
→大分
※2013年BeSTA移行予定【Oracle】
・FlexCube
→新生、じぶん
※イオン、東京都民は採用撤回
※汎用勘定系パッケージとして世界最大シェア【富士通】
・ユニティ
→労働金庫
※BeSTA(独立運用)へ移行予定・PROBANK
→東邦、清水、西京、北都
※北都はSTELLA CUBEへ移行予定
※北日本、島根、十八、佐賀、筑邦は採用撤回
※PROgressive BANKing solution・W-Bank2
→ジャパンネット、ソニー、オリックス信託、大和ネクスト
勝ち組になっているSIerはだいたい分かりますね。外資ベンダーも食い込んできてはいますけど、国内金融独自のシステム(全銀システムなど)への対応柔軟性を考えると、やはり国産SIerの独壇場はまだまだ続くのでしょう。
気になるのは、システム共同化に参加している金融機関が、当初思惑通りの結果を享受できているかどうかという点です。
システム共同化に参加している金融機関の最大の目的が「勘定系システムの開発・維持コストの抑制」にあることは自明の理ですが、それに対する懸念は日銀金融機構局の別レポートにも紹介されていました。
(主な懸念)
・システム仕様の独自性・柔軟性の低下
・参加行間の調整リードタイムによる迅速性低下
・自行職員のシステムスキル維持への不安
・事務プロセスの大幅見直し
・経費がそれほど削減できない
リーダーとなって開発を仕切っていく金融機関やパッケージ採用とは言っても独自運用を貫くところはともかく、合議制の共同利用で各行の発言権にあまり差がない場合、将来のプラットフォーム更改などで時間がかかるリスクは低くなく、参加行もそれを織り込んでの決断をしているのでしょうが、やはり何らかの仕組みでリスク軽減を図る必要がありそうです。
一番期待したいのは、プラットフォーム開発ベンダーがうまく仕切っていくこと。戦略的なパートナーとしてプロアクティブな提案や各種調整をベンダーにしてもらいたいと思っている金融機関は多いことでしょう。
勘定系システムの更改ライフサイクルは10年単位。今後の10年でメインフレーマーやその他SIerの勢力図はどのように変化するのでしょうか。ITにしては先の長い話ですが、5年後、10年後に同じテーマで状況変化を調べてみたいと思います。