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ITシステムがベストオブブリードで失敗した中国新幹線に学ぶこと

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中国新幹線の脱線・衝突事故はさまざまなところで話題になっています。事件のあらましはasahi.comが詳しいので、そちらを引用して簡単におさらいしましょう。

『事故は午後8時半過ぎ、浙江省温州付近で起きた。中国政府系の通信社・中国新聞社が乗客の話として伝えたところによると、先行する列車が減速したところに後続の列車が突っ込んできた。脱線したのは、最後尾の15両目と16両目の車両だという。

 現場は高架だった。中国国営新華社によると、高さは20~30メートル。事故から間もなく撮影されたとみられる写真をみると、少なくとも2両がコンクリート壁をなぎ倒して脱線、落下した模様だ。1両は地上に完全に落ちて横倒しになり、1両は片側が高架部分にひっかかって直立するような形になっている。 』
(www.asahi.com)

この事件が話題性を獲得した背景として、もともと次のような要素がありました。

・世界最速の営業速度(330km)で運行していたこと
・これは各国の高速鉄道技術を複合させたものだが、中国政府は独自技術と主張し、
 海外への技術輸出を念頭に、各国で特許申請に動いていたこと
・にも関わらず、実は各国技術のリミッターを外しただけの危険設計であることが
 内部告発によって世界的に報道されていたこと
・それを裏付けるかのごとく、最近は営業速度は300kmまで落としていたこと

これは最近の数週間以内に出てきた話であり、記憶にのこっている人も多かったことでしょう。

海外からの技術供与部分を自国の独自技術として特許申請に動いていた点では、怒りに震えた関係者も多かったことと推察します。

特に、中国が「独自技術」と主張している論拠のひとつである「他国の高速鉄道よりも早い速度で運行している」という部分も、単に安全性を犠牲にして運転しているだけであることが元幹部からリークされており、これも怒りを誘う原因のひとつでした。

そのような状況下での車両事故ですから、各国メディアからは厳しい批判の目に晒されていましたが、中国としては最大の証拠物である衝突転落車両を周囲に見せるわけにはいかず、現場に到着した重機で転落車両を次々と破砕していく写真がニュースメディアで取り上げられると、一気に盛り上がっていったというのが現状です。

 

この流れのなかで様々な中国新幹線に関する情報が示されており、特に問題視されているのが「事故を起こした車両は日本製とドイツ製、運行管理システムは中国独自技術」というベストオブブリードであったことです。

ITの世界でベストオブブリードと言えば、各分野で最良の技術を組み合わせることにより、単一製品(スイート製品)で実現するよりも安価で競争力のあるシステムを実現するアプローチを指します。この考え方を背景にして世の中に広まっていったのがSOA(サービス志向アーキテクチャ)でした。

インターフェースの定義さえ統一されていれば、そこから先で異なる製品技術が使われていたとしても問題ない、という思想がSOAの根幹になります。たとえば、HTTPやFTPという共通技術を利用しており、インターフェース内容もXML形式などの標準書式に沿っているなら、IBMのWebアプリサーバとOracleのERP製品が問題なく連携するという具合です。

イイトコどりのベストオブブリードですが、実は責任分界点が複雑化するというリスクを抱えてます。

障害が発生した際、その原因がIBMのWebアプリサーバのバグなのか、OracleのERP製品が引き起こしたエラーがきっかけになっているのか、これを分析するには両技術を理解した上で横断的な検証作業が必要になりますが、IBM社のエンジニアはOracle製品を詳しく知らず、Oracle社のエンジニアはIBM製品をよく知らないことが普通であり、障害対応プロセスがスムーズに回らないケースがよく見られます。

中国新幹線の事故では、事故発生から当局による事故会見が開かれるまで26時間も要しており、ベストオブブリードに起因する障害切り分けの難しさがあったのではないかと推察します。

※一方で、自動列車制御装置(ATC)が機能しなかったことから、
 マニュアル操作時における人為的なミスが原因ではないかとも噂されていますね

 

物証である事故車両はすでに重機で破砕されて土中に埋められており、車両機器からの事故原因分析を行った形跡がほとんどないため、原因は車両ではなく運行管理システム側にあることを中国政府は特定しきっているのだと思いますが、本来は異なる技術の複合による整合性不具合を検証するのに相当の時間が掛かるはずであり、これがコスト面や安全面でのネックになりがち。

同じことはITシステムにも言えます。

導入途中、導入後における各技術要素の整合性確認に多大な工数を要するのであれば、ベストオブブリードを導入する意味はありません。スムーズかつ横断的に検証できる態勢を組成できてこそ、ベストオブブリードの戦略が有効性を増すのです。

そういう点で言えば、中国が運行管理システムを独自技術にこだわったのは正しい選択肢でした。残念だったのは、各国の高速鉄道に浸透している安全志向については正しい理解がされていなかったということでしょうね。

事故犠牲者の方々へお悔やみ申しあげます。

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