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北京石景山游来園(ニセディズニーランド)と知的財産

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すでにTVやWebのアチコチで話題になっている北京石景山游来園(ニセディズニーランド)を今更ながら知りました。

知らない方のために説明すると、今年の4月上旬、北京で石景山游来園(Shijingshan Amusement Park) という新しいアミューズメントパークがオープンしたのですが、 そこにはディズニーのキャラクターを劣化コピーしたようなマスコットがいくつもあったのです。

北京石景山游来園

ミッキーマウス、ミニーマウス、ドナルド、7人の小人・・・ああ、これはいくらなんでもまずいだろう。 すでに問題のマスコットが映った写真はWebサイトから削除されていますが、AFPやその他マスコミが公開している写真があるので、 そちらのリンクを載せておきます。

・北京石景山游来園ホームページ
  http://www.bs-amusement-park.com/
・AFP BB News
  http://www.afpbb.com/article/1528294
・ニセドナルドの写真
  http://www.daylife.com/topic/Walt_Disney/gallery/1/04eVgecdRl4Yp
・その他問題画像もろもろ
  http://gossips.seesaa.net/article/40649940.html
・TV放送内容


中国に関する模倣の話はいくらでもありますが、今回の模倣が非常に問題となっている理由は、 これが中国政府主導で運営されたアミューズメントパークだからです。

中国は2008年北京オリンピックに向けて様々な観光アピールを行っていますが、Web上でその発信源となっている「The Beijing Organizing Committee」のサイト上でも、大々的に宣伝していました。
 → http://en.beijing2008.cn/86/03/article214020386.shtml


これに対する米国の反応は当然否定的なもので、 特に米国のコンテンツ産業の代表格ともいえるディズニーに対する版権侵害の行為は米国国民に喧嘩を売っているようなものでしょう。

しかし、そういった意識は中国側には希薄なようで、ニュースサイト「The Standard」 では31歳中国女性の一般的な価値観が次のようなコメントで紹介されています。


"I don't understand why that is such a big problem. Shouldn't others be able to use those characters besides Disney?"

『なんでこれがそんなに問題になるのか分からないわ。ディズニーの人たち以外にこういったキャラクターを使っちゃいけないなんて、 誰が決めたの?』

 →http://www.thestandard.com.hk/news_detail.asp?we_cat=9&art_id=41990&sid=13078355&con_type=1&d_str=20070411


中国国民の一部(大半?)がこのような価値観を持つのは仕方ないのかもしれません。特許制度の歴史を紐解くと、米国では1790年、 日本では1885年に特許法が制定されましたが、中国では1984年になってようやく制定されたに過ぎません。つまり、米国で200年、 日本でも120年ほどの歴史の中で著作権・版権に対する考え方が醸成されてきたのに対し、中国はまだ20年しか経過していないのです。

しかも、中国の国民は沿岸部でさえ3億人、内陸部を含めれば10億人に達する大国家です。 米国の5倍に達する人たちの意識を変えていくのは並大抵の努力では足りないでしょう。

「インドも同じくらいの人口だけど、著作権侵害の話はあまり聞かないぞ」という方もいらっしゃると思いますが、 実はインドの特許法は日本と同じくらい歴史が長く、1856年には既に制定されていました。


ここでもうちょっと詳しく解説すると、特許法、つまり知財を重視する政策も2段階に分かれており、どこの歴史を辿っても、最初は独占禁止 (アンチパテント)の視点でした。それが十分に熟成されてから、知財重視(プロパテント)の視点に変化しています。

日本でさえ、知財重視の視点に切り替わったのは、2002年の知財立国宣言だったと記憶しています。

中国政府のパテントに関する考え方も示しておきましょう。中国では、2006年に国家知識産権戦略の策定が進められ、 プロパテントを推進する動きも見られていますが、プロパテントを完全に進めると、外資に対する版権対価が激増し、 国内産業の育成に陰りが生じる懸念がもたれています。


今回の北京石景山游来園のディズニーキャラクター模倣問題は、もしかして、中国政府が確信的に行った違反行為なのかもしれません。 対内的には、高まる人民の不満感情を抑えるために、香港ディズニーランドに行けない北京近郊の人々へのアメとして同園を開放し、一方で、 対外的には、米国を中心とするプロパテント政策国に対して、どこまで許容してくれるのか、それを推し量っている・・・・・

ちょっと考えすぎですか?

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(2007年5月3日追記)
実は日本にも、今回の模倣と同じようなアミューズメントパークがあったようです。ネット上で議論が割れているようですが、 その日本版ニセディズニーランドは「奈良ドリームランド」(2006年8月閉園)だと言われています。

事実として、その概観がディズニーランドに酷似しており、プロパテント政策を完全採用していない国(日本は2002年から)では、 どこでもこういうことは起こりえるという事例と言えるのではないでしょうか。

Wikipediaにそのことが書かれているので、一部を引用しておきます。

「ディズニー・プロダクションズは日本人独自のパークを作るということを前提に協力したにも関わらず、 奈良ドリームランド側がディズニーランドをコピーしたことにウォルト・ディズニーが激怒した。

コピーするに当たって、詐欺まがいのやり方で散々写真を撮った挙句、質の低いモノ真似アトラクションを勝手に作ったことが、 ディズニー・プロダクションズに強い日本人不信の念を抱かせたという説もあり、 東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランド前社長の著書である海を越える想像力内では、 実際にディズニー側が奈良ドリームランドの件に不快感を示し、交渉の妨げになった要因の1つであると述べられている。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%88%E8%89%AF%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89

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(2007年5月12日追記)
11日付の中国紙「新京報」によると、米ウォルト・ディズニー社は、北京市の国営遊園地「石景山遊楽園」 がディズニーの著作権を侵害した疑いがあるとして、同市版権局に告発したということです。

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