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商社マンの営業として33年間(うち海外生活21年間)、国内外で様々な体験をした。更に、アイデアマラソンのノートには、思いつきを書き続けて27年間、読者の参考になるエピソードや体験がたくさんある。今まで3年半、ITmediaのビジネスコラム「樋口健夫の笑うアイデア動かす発想」で毎週コラムを書き続けてきたが、私の体験や発想をさらに広く提供することが読者の参考になるはずと思い、ブログを開設することにした。一読されれば「読むワクチン」として、効果があるだろう。

「そ、それを踏んじゃいけない!」 どんなところに致命的危険があるか

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飛行機珍体験集 その2
「そ、それを踏んじゃいけない!」 
         どんなところに致命的危険があるか

 西アフリカのナイジェリアは産油国だ。
 同国の東部海岸、沿岸は油田地帯である。ナイジェリアの石油はローサルファ―(低硫黄)のきわめて上質な石油だ。
 ある日、私は日本と英国からの出張者を案内して、東部の石油の中心であるポートハーコートを訪問することになった。

 出張者の日程が厳しかったので、日帰りの旅行にするために、4人乗りのセスナをチャーターした。
 セスナに乗る前に、全員の体重を量る。パイロットの横に、もっとも体重のあるロンドンからのK氏、後ろの座席に私と、日本からの出張者が座った。

 シートベルトをして、出発した。天気は晴れで、大西洋が拡がっていた。当時のラゴスの港の沖合には、世界最悪の港湾の渋滞による、船が数百隻の滞船が米粒のように見えた。
 飛行機は順調に、東に進んだ。
 
 見ると前方に大きな雲が拡がっている。熱帯性の積乱雲だ。
「雲を突き抜けますが、心配はありません。多少、揺れますが」とパイロットが説明してくれて、
「ほーら、行くぞ」とたちまち雲に覆われた。激しく揺れ始めて、雲の中はどしゃ降りだった。おまけに雷が鳴り、立派な雷雨の嵐だった。

「あーあ、大丈夫かな」
 雲の外からは見えないのか、どしゃ降りが続いてパイロットは、ただまっすぐに飛んでいるだけ...、という時、突然、機体がドカーンと前に傾いたというより、前斜めに突っ込んだ。

「わーああ」
と、全員が叫んだ。パイロットも叫んだ。機体はどんどん斜めに落ちていく。私はもうくしゃくしゃの必死の顔をしていただろう。

 墜落しながら、さすがパイロット、

「そ、それを踏んではいけない」と、隣のKさんに手で示しながら叫んだ。

 Kさんは、パイロットの右側の助手席に座って、自分の足元にあったペダルを、嵐の中で、緊張して、足を伸ばしてドカンと踏んでしまったのだ。

 自動車教習所の車を思い出していただきたい。教官が隣に座るが、彼の足もとに、ブレーキとクラッチのペダルが付いていて。初心の練習者が壁に激突する前に、ブレーキを切れるようになっている。あれと同じだった。

 前の席にはパイロットと補助席の両側に、同じペダルが床に用意してあったのだ。
嵐で、雷雨の中、機体はどんどん、落ちていたがさすがパイロット、操縦桿をぐいぐいと引っ張ったのか、押したのか分からないが機体がようやく水平を取り戻した。

 この間、どれだけの時間が経ったのか分からないが、私達全員が
「ああ、もうだめだ。みんな、さようなら。お世話になりました」という瞬間を味わったのだ。

 嵐の雲を突き抜けて、現地に無事に到着した後、パイロットとKさんは口論していた。
パイロットはKさんに
「とんでもないことだ。あれが離陸か着陸の時だった、確実に墜落していた」と言ったらしい。
「とんでもないことは、私が言う言葉だ。床にそんな危険なペダルがあるなら、事前に言うべきだ。一言も言われていない。そんなペダルはロックするのが当然だろう」

 あと、数秒か数十秒、Kさんが足のペダルを外さなかったら、私たちは確実に地上に激突し、墜落していたはず。私達4名は天国でこの議論をしていただろう。

教訓 セスナのような小型飛行機の墜落には、こんな常識的には考えられない過ちやミスが原因のこともたくさんあるのだろう。子供がいたずらするようなことも、あるのかもしれない。墜落してしまえば、何が原因か分からない。
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