この業界の人なら買って損はない本。書評:Hit Rerfesh 著:サティア・ナデラ
この本は、いまだに人物像が謎すぎるマイクロソフトCEO,サティア・ナデラの本である。MS社員もMSが取引先という人も買って損はないと思う。彼の人物像の情報が結構少ないからだ。サティア・ナデラの家庭が結構大変でびっくりした。。
正直、この「人のよさそうなインドのオッチャン」がCEOになってから、マイクロソフトが変わった。特にオープンソースやUNIXにやさしくなったし、AzureでLinuxは走るし、今や、Windowsでbashやapt-getも走るようになった。すごい、これであとEdgeがWebKitベースになって、WindowsのバイナリがELFバイナリになれば、MSは最高だと思う。なんでこんなにUNIXフレンドリーなのかと思ったら、本を読む限り、この人、一時期、サンマイクロシステムズにいた上に、MSでエンジニア時代に法人のUNIX系からWindowsのリプレース案件もやっていたんですね。ナデラになってからMSの買収攻勢も激しく、マインクラフトもLinkedInもMSが買ってしまった。
マイクロソフトといえば、昔はすぐ他社を叩き潰しまくる体制で有名でしたが、ナデラの思想は逆で共感、成長マインドセットを軸にしている。インド人的というか哲学的だ。雰囲気通り「人のよさそうなインドのオッサン」である。正直、前のCEOのスティーブバルマーと正反対である。似ているのがハゲているところくらいなんじゃないだろうか。
非常に興味深いのは、本書でのサティア・ナデラ個人についての思想と半生についての記述だった。別にインド人のスーパーエリートでもなく、公務員の子供で公立学校を卒業して、最高峰ではないけど、まぁまぁいいインドの大学に出て、博士号のために渡米したいうキャリアを持つ。そのあと、なんやかんやMS社内で法人系の案件をこなし、Bingの開発を引っ張り、その時にMSらしくないインターネット的でクラウド的なアプローチを導入し、その基盤をクラウド部門に持っていき、Azureになり、しまいにはCEOになったという謎すぎる経歴である。
そんなわけで、他の「マイクロソフティ」とかなり毛色が違う。彼自身、PCは時代遅れで、Windowsがすべてではないことを痛烈に感じていることが述べられていて思うことが多い。WindowsをMSの経営のメインストリームから少し距離をおかせる経営方針を出したのを聞いたときは驚いたが、この本を読むと、経歴と哲学から理解できる。
個人的に衝撃的だったのは、ナデラ氏の息子が脳性麻痺で、一生介護が必要であること、さらに娘も学習障害をもっていて、こちらも専用の機関や施設の助けが必要な状態であることが述べられていた。非常に大変な家庭をもちながら、マイクロソフトのCEOをやっているのはすごすぎると思った。また、嫁のためにアメリカ永住権(グリーンカード)を捨てたというのもカッコよすぎてすごかった。(今でも永住権ないんだろうか?)
今までのマイクロソフトの経営の本では、武骨に方針やメソッドやライバルの叩き潰し方などが書いてあったが、この本は哲学的な部分や、社内文化の構築について書かれた部分が多い。
後半は、クラウドやAIやMR(Holo Lens)の方向性や事例が書いてあるが、あまり重要ではないと思う。それよりも、ナデラ氏のキャラクターや思想を知る意味では重要な本ではあると思う。ただ、まぁ、創業者ではなく三代目雇われCEOの本なので、そこまで破天荒でドラマティックではないし、そこまでヤバい裏事情については書いてない。どうでもいいくらいクリケットに関する記述が多い。あと、後半が全体的にどうでもいい記述が多い。ほかに書くべきことあるだろ、、Windows MobileとかWindows RTとかXamarineとかVisual Studio CodeとかType Scriptとか思うが、そういうのについては、あまり書いてない。
20年ぶりくらいにマイクロソフトの本を読んだ。僕自身、新入社員の頃はMSDNを死ぬ程よみ、PanasonicやCanon製品のWindowsドライバーをボリボリ書いていたのでMS製品について思い入れは強い。以前は「闘うプログラマー」や「マイクロソフトシークレット」などのマイクロソフト本を読んだが、非常にドロドロしていて刺激的な本だった。これらの本は「ライバル企業を叩き潰し、幹部は社内の派閥争いに明けくれ、社内のビルドを壊したプログラマを晒し者にする」と言うストイックなアングロサクソン系なMicrosoftが書かれている。今回も、そう言うドロドロした部分があるのかとおもったが、全く逆だった。アングロサクソンなマイクロソフトではなく、南インド系なマイクロソフトに持っていこうとしている彼の奮闘が描かれている。
そういえば、GoogleのCEOのサンダー・ピチャイもインド人だ。しかも、どっちもクリケット好きだ。今後は、アメリカ人の資本で、インド人技術者の経営者というトレンドができていくのかもしれない。そういう流れを知るためにもいい本かもしれない。