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【シーズン1 第15話】マーケティングクラウドは日本版システム工学で簡単に料理できる!

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 マーケティングツールはERPのように統合化が進み、モノリシック(monolithic:一枚岩でできた)なマーケティングクラウドとして各社からリリースされていますが、皆さんはマーケティングクラウドをどうやって選びますか?

 デジタルマーケティングの分野にマーケティングクラウドとして本格的に参入しているベンダーは、セールスフォース、Oracle、Adobeの3社です。ここではデジタルマーケティングは「人の軸」と「物の軸」(商品情報コンテンツ)を融合して捉えることが必須である、という考えから、自社のCMSを連携することができるOracleとAdobeの2社に絞り、「マーケティングテクノロジストとペンシルロケットの神髄で紹介した日本版システム工学のシステム合成とシステム分析という道具を使い、マーケティングクラウドを切り刻んで料理してみましょう(システム合成、システム分析の別名はDecision Making Machine)。

 まずは、デジタルマーケティングの①構成要素を洗い出します(現状分析)。構成要素については「経営との関係が不透明なデジタルマーケティングの構成要素」で詳しく解説しましたので、そちらをご参考ください。ここでは物の軸と人の軸に分け、以下の構成要素で分解してみました。

  • 【A】 物の軸として「(グローバル)商品情報マネジメント基盤」
  • 【B】 人の軸として「クッキーまで」→「コンバージョンまで(メールアドレスデータなど)」→「リードデータまで(ファン、見込み客)」→「ホットデータまで」

 構成要素を列挙します。

  • 【A1】 CMS(with PIM)・・・オムニチャネルにはPIMが必須
  • 【A2】 アクセスログ解析
  • 【B1】 ホットデータ、リードデータまで
  • 【B2】 コンバージョン、クッキーまで

 これらの単純化した4つの構成要素を縦軸に、Oracle、Adobe、オープンソースを含むその他のメーカーの製品を列挙し、Ingredients(料理の材料)=②オルタナティブ(代替案)の一覧を作ります。

  • 【A1】 AEM(Adobe Experience Manager)、AEM(with PIM)、Oracle WebCenter、Drupal、Drupal(with PIM module)、Drupal(with Agility Multichannel、Drupal(with Hybris)、None
  • 【A2】 Google Analytics(GA)、Adobe Analytics、RTmetrics、None
  • B1】 Adobe Campaign、Oracle Responsys、Eloqua、Marketo、HubSpot、None
  • 【B2】 Mother、Rtoaster Ads、Adobe Media Manager、Oracle BlueKai、None

 次にすべての組合せ(8×4×6×5=960通り)を作ります。もちろんITを使わないオルタナティブ(None)を含めたすべてを列挙します。この③組合せを作ることをシステム合成と呼びます。そして、すべての組み合わせに対して評価を行いますが、例えば、評価軸は「機能」「開発費(投資コストの目安)」「実装性」「自社への適応性(俊敏性)」「運用性」「拡張性」などで点数化します。システム合成でできた多くの組合せを採点すると、結果として最終的にいいものが数個残ります。この④評価軸による採点プロセスをシステム分析と呼びます。

 そして、システム分析により絞り込んだそれぞれの案について失敗の可能性の考察を行います。このプロセスは非常に重要で、絞り込んだ案が3、4であれば、そのひとつひとつに⑤20から100の失敗要因を列挙(失敗研究)するのです。

 例えば、B2B企業であれば、【A1】Drupal【A2】GA【B1】HubSpot【B2】Noneの評価が高ければ、この案と次と次に評価の高い3案程度のそれぞれに対して失敗要因を洗い出します。あるいはB2B2C企業であれば評価の高い順に【A1】Adobe Experience Manager【A2】Adobe Analytics【B1】Adobe Campaign【B2】Motherの案と【A1】WebCenter【A2】GA【B1】Oracle Responsys【B2】Rtoaster Adsの案、さらに【A1】Drupal【A2】GA【B1】Marketo【B2】Noneの案の3つに対し失敗研究を行います(失敗研究の例は「グローバルWebとオム二チャネルの具体的な失敗研究」に詳しく解説していますので、ご参考ください)。

 そして、いくつか残った案のどれを採るかは、最後は「勘」で決まり、その決断はトップ(経営陣)の仕事になります。①構成要素(現状分析)⇒②③システム合成⇒④システム分析⇒⑤失敗研究⇒【決断】、というトップに案を上げるまでのプロセスをシステマテックに行うため、将来に遺恨を残しにくいことがDecision Making Machineと呼ばれている所以なのです。

 OracleはIT部門に強くAdobeはクリエイティブに強い、などという漠然とした思考を巡らせながら選択をするのではなく、冷静にオルタナティブを複数出し、必要な評価軸で点数評価化し失敗研究を行い、最終的にトップが決断する、という方法をとることで、今までのような【A1】【A2】【B1】【B2】の部分最適の目的がバラバラに存在するのではなく、自社のデジタルのマーケティングの目的がどこにあるのかを自然に明確化する、という効果にもつながります。

 マーケティングテクノロジストは、適切な管理技術を駆使して(例えばTOCやTPSなど)、部分最適に陥りがちなデジタルのマーケティングを全体最適へと導くことも重要なミッションではないでしょうか。

 今回で【シーズン1】は終わりとなり、秋からはモノリシックなマーケティングクラウドと真逆のマイクロサービスをテーマに【シーズン2】(全15話)がはじまります。
 お時間のあるときにでもご一読いただければ幸いです。

● 雑談のネタ【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/

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