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【シーズン4 第14話】イスラーム金融とシャリーア・コンプライアンス

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 ムハンマドについては「アラビア語と横串刺しイノベータ」や「2部作のクルアーンとその奇跡」で少し触れましたが、ムハンマドは交易商(キャラバン隊を編成し貿易を行う)でした。

 「ムハンマドの父は、彼が生まれる前にな亡くなり、母も6才で亡くなり、祖父に引き取られ育ったためか、クルアーンには孤児がテーマとして何度も現れていたり、ペルソナとしてのアッラー(IT部門の人はペルソナを知らない?)が慈悲深かったり(アッラーのジャマールペルソナの側面)、と優しさを感じます。さらに、誰ひとりとしてムハンマドを信じる人がいないうちでも全面的に彼を信じ預言者(予言者ではない)として立ち上がらした15才年上の妻であるハディージャの存在などにも、マクダラのマリアを彷彿とさせるものを感じ、親近感が増します。」 アラビア語と横串刺しイノベータ

 「ムハンマドが砂漠のベドウィン出身ではなく、メッカという商業都市の支配部族であるクラッシュ族の名門ハーシム家(現ヨルダン国王の家系)の出身で、シリアへの隊商貿易に従事した誠実で有能な商人だったことや、天才的な政治家であったことも事実ですが、・・・」 2部作のクルアーンとその奇跡

 ムハンマドが商人だったことはクルアーンにも大きく影響しています。
 例えば、イスラームは「現世」から死を迎えると魂と肉体は分かれ、「天地終末の日」と「復活の日」を迎え魂と肉体は合体し、「審判の日」を迎え「彼岸」(来世)に至ります。「審判の日」にはイスラ―フィルのラッパで審問がはじまります。

 「帳簿がさっと開かれる時」(81章 巻きつける メッカ啓示29節)

 審判の日に(天の)帳簿が開かれるのですが、その帳簿にはその人の行為が詳細に記録されています。記録したのは天の経理担当者ではなく、現世の各人の右肩と左肩にいる天使で、右肩の天使が善行を、左肩の天使が悪行を詳細に記録しています。そしてこの帳簿は審判の日に右手に渡されたものは天国へ、背中に渡された人は地獄へ送られます。

 「その時、右手に帳簿渡される者は、あまいお点を戴いて、喜び勇んで家族のもとへ帰り行く。これに反して、背中に帳簿を戴く者は、いっそひと思いに殺して、と叫びつつ、劫火に焼かれることであろう。」 (84章 真二つ メッカ啓示25節)

 イスラームはこの人生の帳簿(損益計算書)を右手に渡されたいと毎日願っている訳です。日本人の「労働」は「交換経済」において金銭に交換されるものという意識があたりまえですが、イスラームの「労働」は右肩の天使が記録する善行(金銭に交換されないものを含む)を指し、人間が善行を積み、公正に生き、そして共同体全体に公益がもたされる行動への報償として、来世に天国での永遠の生が与えられる、と考えます。
 ですから、イスラームの経済には、日本人が経済活動と認識している「交換経済」(お金がお金を生むものを含くまない)と、営利的な意味が薄い「喜捨(贈与)経済」が混合しています。日本人の感覚ですと、喜捨(贈与)とは、交換経済で財を成したビル・ゲイツさんとかマーク・ザッカーバーグさんが寄付を行うことだと認識する人が多いと思いますが、イスラームは喜捨の対象が「人」や「事業」でなく「アッラー」となり、神を仲介したものになります(イスラーム共同体であるウンマに還流し、配分される)
 したがって、義務としての喜捨(贈与)が数種類(ザカート、シーア派のフムスウシュルハラージュジズヤ、遺産相続)あります。さらに、自発的な喜捨として、サダカ、カルド・ハサン、ワクフなどがあります。

 数種類ある喜捨(贈与)のシステムで、カルド・ハサンのシステムは「無利子の貸付」のことで、自分に必要のない余剰資金を、手持ち資金のない起業家に無利子で貸し付けられるものです(資本金を投資して株式を得るものではない)。モスクの一角にカルド・ハサンを取り扱う窓口があり、そこに事業計画書をもって資金を求める人が集まったり、イスラーム銀行にカルド・ハサン口座を設けているいるところも多いようです。貸し付けた相手が事業に失敗したとしても、善行を施した自分が来世に約束された報償に変わりはなく、失敗した側は左肩の天使に記録されるのです(84章 真二つ メッカ啓示25節)

 そして、ムハンマドが誠実な交易商だったことから、イスラーム金融には3つの特徴があります。

  1. 利子なし(リバー)
  2. 不確実性なし(ガラル)
  3. 損益配分方式

 1.利子の禁止は、ムハンマド時代の高利貸しへの批判が背景にあり、利子は売買益と違い自ら労働を行わない不労所得と考えられており、イスラームは富の源は人間の労働にあるという原則からきています。これらの3つの特徴を持つイスラーム金融には4つの金融方法(ムダーラバムシャーラカムラーバハイジャーラ)があります。


 2.不確実性は、以下のクルアーンの投機の禁止酒と賭矢、マイスィル)からきていますが、例えば、生命保険のようなギャンブル性の高いもの(保険は、胴元が絶対稼げる「不幸の宝くじ」だ イスラム教が保険を禁じているワケ)は禁止となります。

 「酒と賭矢についてみんながお前に質問して来ることであろう。答えよ、これら二つは大変な罪悪ではあるが、また人間に利益になる点もある。だが罪の方が得になるところより大きい、と。」(2章 メディナ啓示 牝牛 216節)

賭矢(マイスィル)は古代アラビア人の最も好んだ賭事。矢を籤(くじ)として引き、「幸矢」を取った人が賭のラクダを獲得する。


 3.損益配分方式は当時の交易商のキャラバン隊の方式を踏襲したのではないでしょうか。ムハンマド時代の交易商の具体的な取引方法などの資料がないのでシルクロードの交易商であったソグド人(イラン系ゾロアスター教徒)の資料から転載します(このソグド人のキャラバン隊の方式とムシャーラカのシステムは極めて類似している)。

 「また、遠距離にわたるキャラヴァン交易というのは、一種の協同の事業であった。キャラヴァンとは、一般的に『直接的に商業活動をおこなう商人と利潤を目的として参加する出資者(国家・王族・高級官僚・軍人・両替商・富裕地主など)とが、相互に経営する会社組織のような存在』であり、『商人はさまざまな人から資本を集めて、それで商品を購入し、貿易を終わって帰還すると出資者に元本を返し、利益を配分する』ものであったといわれる。」 オアシス国家とキャラヴァン交易より

 ここで気づいた方もいると思いますが、イスラームはクルアーンのたった数行から解釈したルール(法)を制定して行きます。制定する根拠はクルアーンを第1法源とし、ムハンマドの言行録であるハディース≒スンナ(慣行)を第2法源としてシャリーア(イスラーム法)を創造します。

 「ユダヤ教の経典もキリスト教の経典も個人の宗教的な側面が主体の宗教ですから、当然社会システムはその時代の支配者に依存する訳です。しかし、イスラームの経典であるクルアーンのメッカ期の啓示には、イスラームの法と倫理の側面もあります。そして、ムハンマドが政治的指導者として自らの率いる組織に生じる無数の現実的な問題をさばき、社会システム(後にハディース、シャリーアとなった)そのものまでも創造しているのです。」 2部作のクルアーンとその奇跡

 「同じようにハディースという預言者ムハンマドの言行録(言わなかったやしなかったことも含む)があります。これが合理的に解釈されイスラーム法のベースとなり、このイスラーム法に忠実に従うのがスンナ派という訳です。」 3タイプのイスラーム

 特に企業、金融、保険、株式などで使われるシャリーア(イスラーム法)を「シャリーア・コンプライアンス」と呼び、イスラーム金融の特別法をもつ国、もたない国などがあります。

 イスラーム金融の会計制度設計はバハレーンのイスラーム金融機関会計監査機構の統一的監査基準のガイドライン(AAOIFT)を参考にする国が多く、イスラーム金融全般の規則はマレーシアのクアラルンプールのイスラーム金融サービス委員会(IFSB)を基準にすることが多いようです。

 また、イスラーム金融そのものはイスラームの国々で一様ではなく、イギリス、シンガポール、マレーシア、香港では従来の銀行業務を強くするもの、という捉え方をしています。もちろん、各銀行によっても捉え方は違い、スタンダードチャータード銀行のようにイスラーム金融サービスを各国で提供するところもあります。

 交換経済と贈与(喜捨)経済が絡み合うイスラーム金融が、共同体全体に公益がもたされるものであれば、私たち日本人が、これからも起きるであろうバブル崩壊やファイナンシャルエンジニアリングの影響、あるいは最近のFinTecのマイナスの影響を少しでも和らげる手段(中庸を目指す)になるのではないでしょうか。個人的には、BOT方式(Build, Operate and Transfer)はムシャーラカとして利用することができるのだろうか、など興味は尽きません


【シーズン1】デジタルのマーケティング
 http://blogs.itmedia.co.jp/CMT/1/

【シーズン2】マーケティングクラウドとマイクロサービス
 http://blogs.itmedia.co.jp/CMT/2/

【シーズン3】イスラエルのオープンイノベーション
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