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【シーズン2 第15話】グローバルマーケティングとイスラエルのオープンイノベーション

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 「インターナショナル企業とグローバル企業のデジタルマーケティング」で、日産自動車の志賀俊之さんによるグローバル企業とインターナショナル企業の違いをご紹介しましたが、日立製作所で新事業推進本部長、日立アメリカの北米ベンチャー投資部門プレジデントとしてシリコンバレーでオープンイノベーションを推進してきた武田健二さんによると、イノベーションの側面からも以下のことが言えるようです。

多くの日本企業を見ると、技術をまず日本市場での成功を目指して開発し、延長線上で、海外市場に進出するという取り組みをしていました。しかし、日本市場は既に成熟し、成長が鈍化しているので、むしろ海外市場を最初からターゲットにする『イスラエル・モデル』に学ぶことが必要だと痛感しました。多くの日本企業を見ると、技術をまず日本市場での成功を目指して開発し、延長線上で、海外市場に進出するという取り組みをしていました。」

 企業内部のイノベーションが自国のユーザーとその延長線上にあるマルチカントリーをターゲットとしているとしたら、志賀俊之さんによると、それはインターナショナル企業でありグローバル企業ではない、ということになります。武田健二さんもオープンイノベーションを推進する立場から上記のように語っていましたが、要するにボーングローバル企業のアプローチと日本のインターナショナル企業のアプローチが違う(マーケティング的にもイノベーション的にも)、ということだと思います。

「30代でイスラエルの仕事を行っていたとき、数十人の会社なのにヨーロッパ数か国に、アメリカに、シンガポールに拠点展開を行っているグローバル企業がほとんどだったのには驚いたことがありますが、自国にマーケットがないという『マイナス』(マイナスはプラスと同じ)がこれを可能にさせたのでしょう。同じように、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドなど北欧に多くボーングローバル企業(設立と同時にグローバル企業になる)が存在するのもイスラエルと同じように自国のマーケットが少ないからです。」(インターナショナル企業とグローバル企業のデジタルマーケティングより)

 最近の日本の大企業の外国人役員や外国人CEOの登用、英語の公用化、欧米企業のM&A、ダイバーシティマネジメント(diversity)の推進、これらの第一歩としての女性の活用などの動きから、従来のインターナショナル企業で止まるのではなく、経営の意思はグローバル企業へ変容しようとしているのではないでしょうか。さらに、横並び意識の強いお国柄ですから、全体がひとつの方向性を持っていると思います。

 しかし、従来の延長線上の発想で、グローバル化していくことにスピードと俊敏性が期待できるのでしょうか...
 グローバル企業は本社は機能軸(横糸)を司り、地域軸(縦糸)はレベニューを司る中で、その縦糸と横糸は「Healthy Conflict」を起こしながらグローバル最適のパフォーマンスを最大化していくならば、プロダクトマーケティングも製品や製品群毎にグローバルに横断する新しい商品軸の組織が必要になり、横糸の機能軸と商品軸、縦糸の地域軸の3軸となります。

 そこで、特に日本のインターナショナル企業は、商品軸にグローバルなオープンイノベーションとグローバルマーケティング組織が必要ではないか、という仮説で考察を進めてみます。企業のコアになるConfidentialな部分なので詳細はオープンにならないと思いますが、日産自動車では商品軸のストーリーを伝えるグローバルマーケティングブランドコミュニケーション部門が存在し、ブランド、マーケティングおよび広報部門が一体でグローバルに横断しているようです。そして、ブランド戦略から商品が開発・生産・販売され、ソーシャルメディアなどがブランド推進にフィードバックされる仕組み(コト)が実施されているのでしょう。

 商品軸をイノベーションの側面から考えると、例えば自動車は無人運転に近づけば近づくほどシリコンバレーのIT企業との競争にステージが変化してます。
シリコンバレーでオープンイノベーションを推進してきた武田健二さんによると、シリコンバレーのIT企業は日本企業をほとんど意識していない、とのことです。つまり、日本企業(slowly decision-making)を相手にしなくても、シリコンバレーにはエコシステムが出来上がっており、はるかにスムースにスピーディーにGoalに到達しやすいので、まったく意識する必要がないのです。


 そこで、グローバルなオープンイノベーションとして注目を集めるのがイスラエルとなる訳です。なぜなら、前述のようにイスラエルのベンチャー企業のほとんどがボーングローバル企業で、イスラエル人の国民性やOCS(Office of Chief Scientist)などの仕組み(コト)から多くのイノベーションが創発できるからです。しかも、シリコンバレーのように流行を追うものでなく、どちらかというと不易なものが多く、シリコンバレーの企業もルーツはイスラエルという企業が多くあります。

 グローバルなマーケティング組織とイスラエルのオープンイノベーションを、従来のインターナショナル企業が培ってきたコアコンピタンスに付加価値(Value Added)として加える方法でも、まったくの新商品でも、俊敏性のあるマイクロサービス方式のマーケティングテクノロジーの方がグローバルに横断する商品軸にも適応しやすいのではないでしょうか。

 今回で【シーズン2】は終わりとなり、【シーズン3】はイスラエルのオープンテクノロジーについてまとめてみたいと考えています。

● 雑談のネタ【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/

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